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HYBE内紛の裏にあるもの

今回は読者の方からのリクエストを受けての記事です。

韓国総選挙の取材でソウルに滞在した際、偶然、BTSなどが所属するHYBEの社屋(冒頭の写真)のそばで食事をしました。案内をしてくれた知人いわく「歌手たちのレッスン部屋も多いみたいで、いつも深夜まで明かりが煌々とついています」とのことでした。

こういう記事を書くことになるとは予想もせず、遠目から撮っただけなので、やや粗い写真で恐縮です。こちらは社屋を見上げたもの。

筆者撮影

今や世界的なエンターテインメント事務所となったHYBEが、ドロドロの内紛に見舞われていることは、K-POPファンの方々はよくご存じかと思います。

韓国エンタメに関しては私よりずっと詳しい人が日本でも多いので、リクエストを受けたとき、やや気後れしたのですが、幸い、この世界に精通している友人からレクチャーを受けることができました。


稀代のK-POPクリエイター ミン・ヒジン氏が騒動の渦中に

簡単に経緯をおさえましょう。

4月25日、HYBEは、傘下の音楽レーベルのひとつADORに対する内部監査を実施した結果、ADORのミン・ヒジン代表がADORの経営権を奪い、自ら育てたガールズグループNewJeansを連れて独立することを画策していたと発表し、彼女とADOR副代表の2人を背任容疑で刑事告発したのです。

昨年の紅白歌合戦にも出場したNewJeans。
これまでの韓国ガールズグループとは雰囲気が違い、曲もどことなく90年代の洋楽風で瞬く間に世界的な人気を博すように。
韓国ガールズグループの「ゲームチェンジャー」とも評されるとのこと。

このNewJeansをプロデュースしたミン・ヒジン氏は、かつてはSMエンターテインメントで少女時代、SHINee、EXO、Red Velvetといった人気グループのビジュアルなどを手がけてきました。K-POP界の天才とまでいわれる人です。

その天才をHYBEは迎え入れ、彼女のために約18億円を拠出してADORというレーベルまで立ち上げて、任せたというわけです。そしてNewJeans誕生。見事なサクセスストーリーに映っていたのですが…

HYBEが監査結果を発表すると、その日のうちにミン・ヒジン氏は緊急記者会見を開き、涙を流しながら声を荒げて独立の企てを全面的に否定。「私がHYBEを裏切ったのではない。HYBEが私を裏切ったのだ」「私に罪があるとすれば、それは仕事ができるという罪だけだ」などと2時間以上もHYBE側が自分に濡れ衣を着せようとしていると訴えたのです。

HYBEのトップ(肩書は「議長」)でBTS育ての親として知られるパン・シヒョク氏に対しても罵詈雑言を連発。

この会見の前後でも、ミン代表が「HYBE傘下の別レーベルからデビューしたILLIT(アイリット)はNewJeansのコピーだ」と非難すれば、HYBEは「ミン代表は巫女のような占い師から経営を指南されていた」と主張…

月並みな表現ですが、韓国ドラマを地でゆく展開に。
芸能ニュースの枠を超えて、韓国社会全体が大注目です。

HYBEの株価は急落

HYBEがADORの監査に入るという話が明るみになるや、「すわ内紛だ」とHYBEの株価は急落しました。最初の2日間で、時価総額8500億ウォン(約935億円)が吹き飛んだというのですから、相当なものです。

株価はいずれ回復に向かうのかもしれませんが、エンターテインメント企業は夢を売るのが生命線なだけに、こうも夢をぶち壊す醜聞は大きな打撃ですね。

キーワードは「タンパリング」

さて、この騒ぎでNewJeansがどうなるのか、BTSにも影響が出るのか、といった動きは音楽専門誌などに譲るとして、ここでは大きな背景について。

韓国のエンタメ界では、この手の泥仕合が後を絶ちません。もちろん日本でも起きてはいますが、印象としては韓国の方が頻発しているように思えます。

根本にあるのは、アーティストと事務所の間で取り交わされた契約が満了していないのに、それを破棄したり変更したりする「タンパリング(tampering)」です。

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