愉快ジン#34

どんな時も「衝動」を大切にしている。例えば掃除をはじめればいつの間にか夢中になっている。常に散らかっている部屋はいつの間にかきれいさっぱりだ。普段は「これは思い入れがあるから捨てられない」という気持ちが先行して中々モノを片付けられないのに。一度スイッチが入ると真夜中だろうがお構いなしに無慈悲にゴミ箱へ投げ捨てていく。またある時はランニング中のこと。今日は疲れているからゆっくり走ろうとしても気がついた時にはいつでもタイムを気にして本気で走っている。「夢中」になることのパワーは無限大であると思い知らされる。

そしてこれは水曜日の夕方の出来事。
映画館で映画を観た。そしてその映画から多大な影響を受けた自分は、高揚感に背中を押されたのか、あるところに電話をかけた。
しばらくして電話が繋がった。受話器口からは女性の声が聞こえてくる。名前はマルヤマさん。
とりあえず商品番号を伝える。電話からは上品で落ち着いた声が聞こえてくる。いかにも接客に慣れた押せ押せの声というよりも、相手の要望をしっかり聞いた上でゆっくり語りかけてくる接客スタイルである。そして在庫の確認にしばらく受話器から離れる。あれ、このクラシック音楽なんだっけ?とシンキングタイムが1分経過。そして再び電話が繋がった。在庫確認が取れたとのこと。ホッとした。まだネット販売されていないものだったから店頭に直接電話をかけたのだ。売り切れていたら立ち直れない。そしてクレジットカードの番号を伝える。この百貨店は会員だと電話決済ができるから便利である。東京にしか売ってないものでも気軽に購入できる。あ、金額が高いから気軽には買えないけども。そして自分の名前を伝える。すると電話越しから「ちぇるサマ、もしかして去年も当店でご購入されました?」と言われる。
驚きと同時に嬉しくて「覚えててくれてたんですか!?」なんて友達の接するテンションで話してしまった。不覚。
ちょうど一年前もコートを買った。あ、THE虎舞竜みたいな書き出しだ。気を取り直す。実はこの時も対応してくださったのがマルヤマさんだったのである。だから覚えててもらえたのが嬉しかった。にしても顔もわからない客のことを覚えてるなんてよっぽどである。こういった些細なことができる方だからおそらく育ちが良い。実家ではゴールデンレトリバー飼ってそうだ。土日は家族で旅行に行くタイプで、ゴールドのキラキラしたイヤリングを付けてそう。リップは赤系だな。髪の毛はロングだろう。パンツスタイルよりもロングスカートを好んで履いてるに違いない。当時から僕の妄想(推測)は絶好調である。一瞬で話が逸れていく。
ここまででもかなり「気持ち悪い」から気を悪くされた方はそっと読むのをやめてもらいたいのだが、若干オタク気質な僕は電話越しのこの人がどんな人なのか気になってお店のホームページにあるスタッフスタイリングを見て妄想と答え合わせした。すると、身長は166cmの「アジアンお姉さん」って見た目の方が出てきた。髪型はおでこ出しのポニーテール。日によってウルフスタイルってところか。スラッとしていて脚が長い。しまった、スカートよりパンツスタイル多めだった。でもゴールデンレトリバーも家族と旅行も想像できる見た目だった。
だから今回の注文の時はどんな人がどんな表情で電話対応してくださっているのかイメージできてた。面識もないのにまるで面識のある方との楽しい会話であった。これから楽しくないことが待ち受けてるにも関わらず。
まあ、でも今回は事前に商品を買うために「夢中」になって部屋を片付け、着なくなった服を片っ端から売っていたのだ。金持ちならそんなことはしなくていいだろうが、いかんせんジリ貧ならぬ常貧である。外面は良い服着てるって言われるから金銭的余裕があるのかなって思われてるかもしれないが、貧乏だからこそ知恵を絞って小遣いを捻出しているのである。これで仕送りもしているのだから自分のことは一生褒めてあげたい。また話が逸れていく。
そして2日後に自宅に商品が届いた。
箱を開けるとお目当てのものが。そして横にはショップのポストカードが添えられていた。そこには「ちぇるさま今回もご購入ありがとうございます。---------是非とも東京に遊びに来られた際にはお店まで遊びに来てください。」と書かれていた。驚くことに10行程の長い文章であった。やっぱり些細なことで客を喜ばせることができるこの方は仕事ができるし育ちが良いなと思った。
そしてポストカードをめくると請求書が入っていた。改めて金額を見て目眩を起こしそうになった。とんだアメとムチであった。

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