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まいにち易経_0515【小人は不仁を恥じず】不義を畏れず、利を見ざれば勧まず、威さざれば懲りず。[繋辞下伝:第五章]

子曰。小人不恥不仁。不畏不義。不見利不勸。不威不懲。小懲而大誡、此小人之福也。易曰。履校滅趾。无咎。此之謂也。
子曰く、小人(しょうじん)は不仁(ふじん)を恥じず、不義を畏(おそ)れず、利を見ざれば勧(すす)まず、威(おど)さざれば懲りず。少しく懲らして大いに誡(いまし)むるは、此れ小人の福なり。易に曰く、「校(かせ)を履いて趾(あし)を滅(やぶ)る。咎无し」と。此れの謂(いい)なり。

ある企業の新人研修に招かれた老易学者が、
未来のリーダーを担うポストZ世代の若者たちに向かって語る

さて、今日のテーマは「小人は不仁を恥じず、不義を畏れず、利を見ざれば勧まず、威さざれば懲りず」という易経:繋辞下伝(けいじかでん)第五章にある孔子の言葉です。少し難しいかもしれませんが、分かりやすく説明しますね。

まず、「小人」とは、孔子の時代では、一般の人々や平凡な人々を指す言葉でした。現代の私たちにとっては、「自己中心的で短絡的な考え方を持つ人」と言い換えられるでしょう。つまり、自分の利益や目先のことしか考えない人です。次に、「不仁」とは、「仁の心が欠けている」ことを意味します。

「仁」とは、他人を思いやる心や、親切さ、慈しみの心です。例えば、誰かが困っているときに手を差し伸べることや、他人の立場に立って物事を考えることが「仁」です。しかし、「小人」はこの「仁」を恥じることなく欠いているのです。

「不義」とは、「正義に反する行為」のことです。正しいことをしない、不正を行うことを指します。「小人」は、こうした不正な行為を恐れることなく行ってしまうのです。また、「利を見ざれば勧まず」とは、「利益が見えなければ行動しない」という意味です。つまり、自分に得になることがなければ動こうとしないのです。「威さざれば懲りず」とは、「威圧や罰を受けなければ改めない」という意味です。厳しい処罰や強制力がない限り、悪い行いを繰り返してしまうのです。

みなさんは将来、リーダーとして活躍することが期待されています。しかし、リーダーになるまでには様々な試練が待ち受けています。自分の利益のみを追求する「小人」と呼ばれる人々に遭遇するかもしれません。つまり、思いやりの心が足りない上に、そのことを恥ずかしいとも思わない人々のことです。

また、正義に反する行為をしでかしても、心から後悔する気持ちがない。自分の利益につながらなければ、善行を実行する気になれません。
しかし、そういった小人に対しては「威さざれば懲りず」とありますように、権力で脅して初めて反省し、悪い行いを止めるのです。

孔子はこのように言っています。

小人は、自分が得することでなければ、積極的にやろうと思わない。御法度や刑罰を用いて上から威圧しなければ、懲りずに何度も悪行を重ねる。悪さをしでかしたら少し懲らしめて、大いに反省させ、心を改めることは、小人が幸福になることを願ってのことである。

昔から権力者は、威を振るって人々を従わせてきました。しかし、それだけでは本当の変化は望めません。自分の非を認め、謙虚に振る舞うことが何より大切なのです。

思い返せば、歴史には多くの権力者が栄華を極めた末に、高慢な振る舞いゆえに滅亡した例があります。英国の歴史家ジョン=アクトンは「権力は腐敗し、絶対的な権力は絶対に腐敗する」と言いました。この言葉は今も色あせることがありません。

リーダーには謙虚さと共に、人々の信頼を得ることが何より重要です。権力に酔うことなく、常に自分を戒め、冷静に判断することが求められます。そうすれば、必ず多くの人々から信頼され、成功を収められるはずです。

では、これを現代のリーダーシップにどう生かすか考えてみましょう。
リーダーとして、私たちは「仁」と「義」を大切にしなければなりません。なぜなら、リーダーは組織やチームを導く立場にあり、その行動が全体に大きな影響を与えるからです。

まず、思いやりの心、「仁」を持つことが大切です。例えば、社員が困っているときに助けの手を差し伸べる、部下の成長を真剣に考えるといったことです。これにより、信頼関係が築かれ、組織全体が良い方向に向かいます。
次に、「義」を貫くことです。リーダーとして、正しいことを行う勇気が必要です。不正や不公正な行為を見逃さず、適切に対処することで、組織の倫理観を高めることができます。

また、「利を見ざれば勧まず」という心構えから離れることも重要です。自分の利益だけを考えるのではなく、組織全体やチームの利益を考え、行動することが求められます。さらに、懲戒の重要性も忘れてはなりません。ただし、これは威圧的に行うのではなく、公平で透明性のある方法で行うことが大切です。軽い罰を与えて大きな教訓を学ばせることは、組織全体の規律を保つために有効です。

ここで少し具体的な例を挙げてみましょう。
私がかつて経営していた会社での出来事です。ある日、社員の一人が小さなミスを犯しました。その時、私はすぐに厳しく叱責するのではなく、まずその社員と話し合い、なぜそのミスが起きたのかを理解しようとしました。その結果、その社員は自分のミスを深く反省し、同じ過ちを繰り返さないよう努めました。そして、彼はその後、大きな成長を遂げ、今では部下を持つ立派なリーダーとなっています。

このように、少しの懲戒と大きな教訓を与えることで、個人の成長と組織全体の発展を促すことができるのです。易経や孔子の言葉は、現代においても非常に重要な教えを含んでいます。リーダーとしての役割を果たすためには、思いやりの心を持ち、正義を貫き、自分の利益だけで動かないこと、そして適切な懲戒を行うことが求められます。

皆さんも、これからのリーダーとして、この教えを心に留めて日々の行動に生かしてください。失敗を恐れず、常に学び続けることで、必ずや素晴らしいリーダーになれるでしょう。


参考出典

小人は思いやりや慈愛を持たなくとも、それを恥じず、悪逆を恐れずに行う。自分に利益がなければ進んで行動せず、刑罰を与えられなければ懲りない。
小人は自分に利益があれば諂(へつら)い、仮の思いやりも見せる。悪事を働いても、恐るべき結果になることを思いもしない。
時の状況によって、誰しも小人になる可能性がある。肝に銘じたい一文である。

易経一日一言/竹村亞希子

孔子がいう、小人は不仁を恥としない。だから利益を見なければ、仁の実行に心進まない。小人は不義を畏れない。だから刑罰で威しつけねば、不義を犯すことに懲りない。されば軽い刑罰で小さく懲らしめられて、大きく戒慎することは、小人にとってのしあわせである。噬嗑䷔初九に「足枷を履いて足をつぶすが、咎はない」とあるのは、その意味である。

易(朝日選書)/本田濟

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