赤堀さん
赤堀さんという苗字は英語のworkaholic(ワーカホリック)から来ているという嘘を思いついた。苗字を許されるようになった明治時代の頃、或いは江戸時代の末期だろうか、とても働き者だった先祖を見た外国人が、君はなんてワーカホリックなんだと感嘆した。労働は日本人の美徳である。ワーカホリックだと揶揄されたことを誇りに思った先祖は自らを『赤堀』と名乗った。元々は『若堀』だったのが時代と共に『赤堀』へと転じたのでもいい。なかなか面白い嘘だ。
これは僕の思いついたでっちあげであり、実際の赤堀さんの多くは『墓掘り』から来ている。墓穴を掘ることを生業としていた人たち。大規模な飢饉も頻発し、平均寿命も短く、今よりもずっと人の死が身近だった時代。墓掘りは立派な仕事だった。しかし皆がなかなかやりたがらない仕事でもあった。周囲からは忌み嫌われ、避けられ、心ない中傷を集めることもあったと聞く。次第にその仕事は一族郎党で受け継がれるようになっていった。そうして一族は『墓掘り』から転じて『赤堀』の姓を名乗るようになったのである。これはワーカホリックの話を書きながら思いついた、ちょっとだけ本当っぽい嘘だ。
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