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永遠に美しく

魔女の愛していた竜人族の男を私は殺した。私は魔女を愛していたからだ。竜の返り血を浴びた私は不老不死となり、魔女は想い人を殺した私に復讐するために私を殺す方法を探し始めた。愛する人が私を殺すために生きている、それはまるで愛のようだった。

魔女は私を殺すためのあらゆる方法を試した。私を炎で焼き、水に沈め、雷を落とし、切り刻み、毒を盛った。けれども私は死ななかった。古今東西様々な文献を読み漁った魔女はやがて古い魔道書の中にある一文を見つける。完全なる幸福を手にした時に不老不死の呪いは解ける、というものだった。魔女はその一文に最後の望みを掛けた。私を殺すため、私に完全なる幸福を与えるために、魔女は私を愛するようになった。

それはあの日竜人族の男を殺した私が渇望した蜜月の日々であった。私たちは愛し合い、寝食を共にし、様々な場所へ出掛けては一緒に花や星を愛で、たくさんの話をした。私も魔女も歳を取ることはない。10年、20年、100年。私と魔女の愛の日々はいつ果てるともなく続いた。私と魔女の間にはたくさんの子どもが産まれ、やがてその子どもたちにも子どもが産まれた。

数十年ぶりに2人きりで過ごすある夜、私は愛する魔女と星を眺めながら告白した。

「あの魔道書に書かれていた、『完全なる幸福を手にした時に不老不死の呪いは解ける』という一文は私が書き足したものなんだ。そうすれば貴女は私を愛するだろうと思って」

私の告白を聞いた魔女は、優しい微笑みと共にまっすぐ私を見て言った。

「そんなことはとっくに分かっていましたよ」

愛する美しい魔女の言葉を聞いた瞬間、私はついに完全なる幸福を手にしたのだと思う。耳の奥でパンと何かが弾けるような音がして、私はみるみるうちに老いていった。完全なる幸福を手にした時に不老不死の呪いが解けるのは私が勝手に書いた出まかせだったはずなのに。でも私はそれでよかった。最愛の、美しい魔女に看取られながら私は死んだ。最期の瞬間、彼女は泣いていたのか、それとも笑っていたのか。それは誰にも分からない。

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