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【飲食経営】テナント選び①来店数はゼロ

 飲食での起業を考えている方は、ビジネスアイディアはもちろんのこと、出店場所についてかなり熟考することになります。正直、最初で最大の難関と言っていいかもしれません。ここがうまくいかなければ、間違いなく失敗しますし、ここがうまく行けば成功確率はかなり上がります。
 どうやって調べるか、どういう物件がよいのか、どう考えるべきか。ひとつずつ噛み砕いで説明していきましょう。飲食店の経営に興味がない方でも得るものがある内容になっています。


コネなどいらない


 勘違いされがちですが、飲食店の物件探しにコネは必須ではありません。もちろん、掘り出しものを教えてくれる不動産屋さんの社長さんと知り合いだったり、ビルをたくさん持ってるオーナーが安い家賃で貸してくれたりすることもあるかもしれませんが、もともと飲食店経営の経歴が長いとか、特殊な交友関係がない限りはまずありえない話です。また、そういうラッキー要素を計画段階で取り込んでおくことなど荒唐無稽な話でしょう。さらに言えば、不動産にはいわゆる「掘り出し物」が少ないのが現状です(あるにはありますが)。

コネはあったらラッキーですが、あてにするものではありません。


 意外にも、事業用の不動産を調べるのは簡単です。不動産サイト(複数の不動産会社の情報を統合したタイプ)を見つけ、毎日のように見ていれば、目的の物件が見つかります。私は札幌は中心部、ススキノ地区に2件、狸小路付近に1件の物件を、すべて同じウェブサイトで見つけました。ここを張っていればまあ網羅的だろうというサイトを見つけましょう。
 ちなみに私が大変お世話になったサイトは「不動産連合隊」さんです。多いときは1日に2度ほど巡回していました。

掘り出し物など(あまり)ない


 不動産の家賃や共益費は、かなり綿密に計算されていると考えてよいでしょう。その場所の交通量、築年数、周辺の物件の家賃等々。当然ながら不当に安くする必要はオーナーにはありませんので、家賃はかなり市場均衡価格に近いものになっているはずです。
 長いこと借りている住人に対して、地価の高騰などを理由に賃上げをすることは法律的にはなかなか難しいそうですので、そういう意味で価格破壊が起きている物件も存在しますが、新しい物件を探す場合にはあまり意味のない話です。安いものにはそれなりの理由があります。逆に高いと感じる場合、何かしらの理由があると見たほうがよいでしょう。ちなみに明らかに高すぎるなと思う物件は、大半の場合、数か月後には値下がりしています。
 ですから、掘り出し物を探そうとするのはあまり得策ではありません。そういう意味で、目的なく眺めるだけではよい物件にたどりつきませんので、どういう物件が適切なのかをしっかり思い描きながら眺める必要があります。
 では、掘り出しものの物件が無いのであれば、どういう物件が適切なのでしょうか。それは当然、そのビジネスをどう展開していくつもりなのかに依存します。

出店場所の重要性


 飲食店起業を考えている方で、少しでもこう思っている方がいたら黄信号です。「おいしいお料理をお安く提供する店ならば、クチコミが広がって、寂れたビルの2階とかでも噂が噂を呼んで集客できるはず」。これは断言しますが、基本的に不可能です。
 飲食店の出店場所を考えるとき、大きい視点と小さい視点が必要です。大きい視点としては、その町、その都市にどういう人が住んでいるか、まわりにどういう店があり、どういう需要があるか。砂漠地帯でサウナをやってもはやらないように、住宅が多いサラリーマン通勤が9割を占めるような駅前でオシャレ系居酒屋をやってもはやらないでしょう。逆に安さをウリにした居酒屋が多数出展しているところに同じ業態の居酒屋をオープンするのにはかなりの勇気が必要です。
 つまり、来店候補者である、そのあたりの道行く人、住人がどういうタイプなのか。これを見落とすようでは、よほどネームバリューのあるお店でない限り、集客は見込めないでしょう。
 次に小さい視点ですが、これは店自体の視認性です。いわゆる路面店や一階の店舗、または大きな看板を掲出できる店舗は、それだけで数万円、場合によっては数十万円の集客効果が見込めます。通常、知られていない飲食店は知られるための努力/経費が必要です。チラシ配りなどはまだマシなほうで、グルメサイトへの掲載料、グーグルやインスタ広告なども必要です。これらに売り上げの10%程度を持っていかれると仮定すれば、路面店で多少割高と思える賃料だとしても問題ないと感じるでしょう。店自体が知られなければ、クチコミも何もありません。なおかつ起業したばかりで宣伝方法も実績もないとなれば、店自体が目立たないことにはなんともなりません。

来店数は「ゼロが基準」


何もしなければ集客は「ゼロ」。このマインドは心に刻んでおきましょう。


 こちらも勘違いされがちですが、間違いなく重要な考え方です。非常に重要なので2回書きます。
 来客数は、基本的には「ゼロ」です。
 基本的にお客様の来店数は「ゼロ」です(2回言いました)。
 事業計画を練っている最中、損益分岐点等について考えるタイミングが来ます。そのとき、なんとなく「回転数は1くらいで~忙しいときは2回転で~」などとついつい考えてしまいます。しかし、この思考は非常に危険です。
 来店数は、基本的にゼロです。そこにこちらの施策によって(つまり多種多様なコストをかけることで)足し算で詰みあがっていく。あくまで基準はゼロ、そう考えなければなりません。
 具体的には、さびれた5階建てのビルの3階に小さなスナックをオープンしたとしましょう。特に告知などもせず、ひっそりと始めました。この場合、隣のスナックのお客さんや、あなたの知り合い以外のお客様は完全にゼロだと言えます。どんな小さなスナックであなたが薄給でも、一日1万5千円程度は売らなければなりませんから、これでは資金の回収どころか運転資金もすぐに底をついてしまいます。
 では、チラシを配るか、グルメサイトに登録したとしましょう。果たして、「新しいお店ができたからとにかく行ってみよう」と思う人はどれだけいるでしょうか。それもわかりやすく看板を出せるような環境でもなく、そもそも入りにくいビルの3階。ウェブサイトだけで魅力を十分に伝え、そのビルの入りにくさの問題をクリアして入ってくれるでしょうか。あるいは常連客が8割のそのビルのお客様を横取りする実力があなたにあるでしょうか。
 お客様は何らかの理由があって来店します。グルメサイトを見て美味しそうだったから、もともとそのコンセプトのお店が好きだから、目についたから、様々ですが、そこに費用が一切発生しない事柄はほぼないと思ってよいでしょう。どうやって知られるか、ということは飲食店にとって死活問題なのです。また来店しやすい環境であることも重要です。口コミだけでは無理です。もしも相当によいお料理をお安く提供できたとして、まずガラガラの店内で(しかも古いビルの)お食事をして美味しいと思ってくれるかどうか、それを美味しいと思ったお客様が宣伝してくれるかどうか、あなたの人柄(リピートにはそれが大切です)をよく思ってくれるかどうか。
 さまざまなハードルを越えてようやく一人か二人に宣伝してくれるとしましょう。しかし、それが次の来店につながるかは未知数です。一体、繁盛するのに何年かかるでしょうか。しかもこれは、提供するコンテンツがまあまあいいものである場合です。
 ですから、来店数は基本的にゼロで、高い家賃を払って人通りが多いところや路面店を借りるとか、高い掲載料を払ってグルメサイトで宣伝してもらうとか、高い印刷代を払ってチラシを配るとか、そういうことが必要になってきます。それらをうまいこと詰んで、ようやく「回転数1」という値が出てくるわけです。何もしなければ、安いだけの物件であれば、「0.1」以下になってしまいます(この値が極端でないことは、飲食店関係者の方ならおわかりでしょう)。

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