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買い占め騒動からみるネットの狂気はナチスドイツを遥かに凌ぐ

マスクの材料に紙が使われるというSNS上の憶測から、トイレットペーパーや生理用品の買い占めが問題になっている。熊本のスーパーに端を発したこの騒動が今、全国に波及していることは多くの方が実感していることだろう。

今回のパニックに関してもSNSをきっかけとしてテレビ報道でも拡散され、異常事態に発展してしまった現状があるようだ。このようなデマ情報による社会的混乱を私たちは単なる一過性の問題としてのみ軽視してよいのだろうか。この騒動を単なる一時的なパニックとして看過できない異常性を筆者は感じてならない。

2002年2月29日までの現状

実際2月28日時点で筆者がスーパーに買い物に行ったときには、トイレットペーパーの売り場には商品が数点だけしか置いていないという状況だった。

こうした状況を受け、経済産業省は2月28日、トイレットペーパーやティッシュペーパー等の紙製品について、通常通りの生産・供給を行っていると発表し、消費者へ冷静な対応を呼びかけた。

また報道各社も製紙会社の状況を取材し、生産体制に問題がないことを報じている。更にこれに続いて生理用品までが品薄状態になっているという異常事態も起きているようだ。そしてこれに関しても大手製品メーカーでは生産体制に全く問題はないと回答している。

それにも拘らず2月29日時点で、スーパーやドラッグストアの店頭において商品が全くない状態を筆者は目の当たりにし驚いた。明らかにデマ情報によるパニックが起きていることは、多くの方も実感していることだろう。SNS上でもこうした買い占めの現状に苦言を呈する声が多く見受けられる。

1973年のオイルショックを想起する人が続出

この現状を見て、オイルショック時のトイレットペーパー騒動を想起する人も多いようだ。トイレットペーパー騒動とは1973年、オイルショックによって紙の不足が流言飛語し、日本全国各地で起きたトイレットペーパーの買い占め騒動のことである。

この騒動の発端は新聞が見出しに「あっという間に値段は二倍」と見出しに載せたことがきっかけとも言われている。マスメディアの報道と根拠のない噂によるデマ情報が招いた騒動であり、今回の騒動と非常によく似ている。

デマの語源

デマとはドイツ語のデマゴギー(Demagogie)を由来とする言葉である。デマゴギーとは「扇動」あるいは「扇動政治」を意味し、転じて噂や嘘を意味する。また嘘を流す者の事をドイツ語でデマゴーグ(Demagog)と呼ぶが、これは元々古代ギリシャの扇動的民衆指導者のことを指している。

デマゴーグ(独: Demagog)は、古代ギリシアの煽動的民衆指導者のこと。英語ではdemagogueであり、rabble-rouser(大衆扇動者)とも呼ばれ民主主義社会に於いて社会経済的に低い階層の民衆の感情、恐れ、偏見、無知に訴える事により権力を得かつ政治的目的を達成しようとする政治的指導者を言う。(wikipediaより引用)

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ナチスドイツと重なる社会の不安

トイレットペーパー買い占め騒動で筆者の脳裏をよぎったのは、天才的デマゴーグと呼ばれるヒトラーとナチスドイツである。民衆の混乱ぶりが、ナチスが生まれた状況下と重なってみえたのである。

1933年にヒトラーがドイツ国首相となりナチスドイツは形成されたが、この歴史に稀に見る独裁国家が誕生した背景には1930年代のドイツの情勢を理解する必要がある。

第一次世界大戦で敗北し大戦後のヴェルサイユ体制で、ドイツは戦勝国に多大な賠償金を支払う義務を負うことになった。領土は奪われ、軍備まで大幅に縮小されたのである。それに追い打ちをかけるように、世界大恐慌によりドイツの経済不況による失業者は40%に達した。

第一次大戦敗北による屈辱のも冷めやらぬなか、壊滅的な状況となったドイツでは社会不安が高まり、国民は苦境に陥ることになったのである。

こうした状況を悉く打破し僅か4年でドイツ経済を立て直したのがヒトラーであった。首相就任直後から、世界でも類を見ない失業者救済事業といわれる「アウトバーン(高速道路)」の建設など様々な政策を打ち立て、経済問題を瞬く間に克服し、大国ドイツを作り上げたのである。

群集心理による社会の歪み

しかしこの輝かしい政治手腕と並行して、ヒトラーはヨーロッパの伝統の根底にある反ユダヤ感情を利用し、ナチス支持をドイツ国民が支持するよう仕向けたのである。ここから悪名高い強制収容所や大量虐殺の歴史が始まる。

ナチスドイツの本来ごく普通の24000人以上の人間が、大量殺人を犯してしまった背景に、揺らぐ社会不安と高まるナチスへの帰属意識が強く関係していたのは間違いあるまい。同じ思いを持った者が集団となったとき、そこに群集心理が生まれ、そして拡大し、次第に自分を見失い、非人間的な殺人機械が次々と誕生したのだ。

群集心理とは、特殊な状況下で人間が集団になると、道徳性が劣化し、犯罪的かつ狂気的な行動に走ってしまうことである。過剰な群集心理は差別やいじめを産み出し、社会に大きな歪みをつくる。

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インターネットは群集心理の巣窟

さて今まさに私たちはネット社会の真っただ中にいる。そして実のところネットという土壌こそ、ナチスや魔女狩りといった異常な状況を遥かに超える、群集心理の巣窟となり得るのだ。

ネットの世界は、誰もが見知らぬ誰かと同じ狂気を自由に共有できる無法地帯である。しかも匿名であるが故、自分が何者なのかすら知られずに、いつでも身を隠すことができるのだ。

今回の騒動は、群集心理に分類される集団ヒステリーに該当するといえるだろう。集団ヒステリーとは、集団が強い不安や恐怖にさらされた状況下で、その集団に属する者がヒステリーを起こした時、それが集団に感染することをさす。まさにトイレットペーパーを買うために、ドラッグストアに列を作る集団がそれである。

この騒動はネット社会の負の側面が、いかに現実社会に悪影響を及ぼすかを如実に表している。もちろんネットに端を発したとはいえ、ネットのみならずそれに続いたマスメディアの報道が、この騒動を大きく助長した要因であることも忘れてはなるまい。


失ってはいけないもの

インターネットは群集心理による形なき怪物を今も産み出しつづけている。時にその怪物は差別や偏見を助長したり、あるいは集団で一人を追い詰めたりして、人間を死に追いやることもある。政府やマスコミなどの権力をも上回る強力な力で、狂気を振りかざし世界を翻弄することさえあり得るのだ。

一説によれば現代社会に生きる私たちが一日に得る情報は、江戸時代の人間の一生分に相当するとも言われている。それほど現代は情報に溢れかえっているのだ。そしてそこには人の役に立つ情報もあれば、虚偽や不正確な情報も当然あるわけである。

私たちにとってネットの世界はもはや日常の一部となっている。しかしそこは明らかに現実とは異なる世界であることを忘れてはならない。偽りの情報に翻弄されず、どうか冷静になり、他の人のことも考え行動してほしい。周囲に生きる人々の存在もまた、自分にとってかけがえのないものであることを忘れてはならない。

すべての人々が人間としての優しさを失わないことをここに祈る。


※現在ネットではSNSを中心として買い占めをやめるよう呼び掛けている声が多くみかけられます。一方的に買い占めや品切れのニュースを流しつづけるテレビ報道のほうが現状は問題かと思われます。SNSの正の連鎖というプラスの側面も同時に述べるべきだったと反省しております。

そういう意味でこの記事は中立性を欠いていることをお詫びいたします。 (2020年3月3日追記)

最後まで読んでいただきまして、本当にありがとうございました!