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Smart-IP社 創業記 その6 ~資金を調達する(前編)~

会社の経営資源としては、「ヒト・モノ・カネ」が最小の構成要素だ。
「ヒト」は、優秀なボードメンバーが集まる兆しが見えていた頃だった(ボードメンバーについてはこちらの記事で)。「モノ」は、いろんなものを作りたい思いはあるものの、まずは「特許明細書作成の支援」という知財業界の一丁目一番地であるにもかかわらず、これまでだれも取り組まなかった領域に白羽の矢を立てた。最も課題が大きそうで、最もやりがいがあると思ったからだ。
最後に必要なのが「カネ」。つまり、資金調達である。


資金調達とは

知財業界にはそれほど多くのスタートアップがないので、資金調達について僕の言葉で少し解説してみようと思う。

会社の支配権は「株式の数」で決まるが、この株式自体が資産性を有し、譲渡などが可能になっている。この株式の一部を第三者に売ることで、会社は資金を得る。

例えば、資本金1000万円で会社を作り、発行株式数を1000株としたら、創業当初の1株の値段は1万円だ。第三者(仮にAさんとする)が100株を買いたいと思ったら100万円が必要になる。

非上場時には、相対での取引でしか株式の売買はできないため、一般的に非上場株を買える機会は多くない。しかし、会社が上場すれば、東証などの株式市場において流通性を確保された状態で売買され、株式自体の売買が容易になる。売買可能なプレイヤーが一気に増えるので、会社の価値も上がりやすい。これが会社が上場を目指す理由の一つになる。上場すると「株価が上がる」のだ(上場後株価が下がってしまう会社も、残念ながらあるけど)。

さて、会社創業期に100万円で100株買ったAさんは、なぜ株式を買うのか?
それは、その会社がその後上場などや、売上増加により会社の企業価値が高まり価値が1億円になれば、1株1万円だった株式の値段が、1株10万円と10倍の価値になる。
会社の企業価値がまだ低いときに将来性のある会社を見つけ、株式を購入しておき、企業価値が高くなったら売却することで、その差分を利益として得るわけだ。

このロジックを利用して、会社の株式を投資家の方に購入いただくことを提案し、事業資金を得るのが、資金調達である。


はじめての資金調達

Smart-IP社は、「知財業界のあらゆる業務をDXでアップデートする」というビジョンの下、会社設立当初から上場を見据えていた(上場は目的であって手段ではないため、なぜ上場するべきと考えたかは、また別の機会に文章にしてみようと思う)。

ただ、Smart-IP社の事業資金は、自己資金だけで賄える額ではなかった。そのため、資金調達に踏み切ることにした。
とはいえ、僕自身に投資家との人脈や、投資家向けのピッチ経験があるわけではない。そこで、資金調達については野副CFOに相談することにした。
彼は大手企業のM&A部門で投資に関する豊富な経験を積んでいたので、投資家とのネットワーク作りや、資料作りに協力してくれた。資料は見た目も大事ということで、知人のデザイナーにも協力してもらった。
まだ見せられるプロダクトのない中で、なんとか資料を完成させ、投資家へのピッチを始めることにした。
さあ、誰に会いに行こうか。


はじめてのピッチ相手は、本田圭佑

僕はちょうどその時期、サッカー選手である本田圭佑さんが東京都中央区をホームとして立ち上げた「EDO ALL UNITED」というサッカークラブのCEOを兼務していた。CEOの任期が2年で、ちょうど任期終盤くらいの時期だったと思う。

本田さんは個人投資家としては、世界的にも有名なひとり。出資先も200社超えているという。
本田さんに見てもらえれば、Smart-IP社の将来性や、僕のポテンシャルなどもシビアにコメントしてくれるのではないか。Smart-IP社への出資を断られたとしても、この機会は必ず自分の次の成長につながるはずだと考えた。

そこで、本田さんに「知財業務のスタートアップを作りました。上場を目指しています。投資するかは後で検討いただいてよく、企業のポテンシャルがあるかを見てもらえませんか?周りに本田さん以上にピッチを聞いていらっしゃる方がおらず、ぜひお願いしたいです」と相談した。本田さんは快諾してくださった。
30分のオンライン会議で説明。人生初の出資ピッチの相手があの本田圭佑というのは、本当に貴重な経験だったと思う。

ピッチを聞いてくれた本田さんの第一声は、「いくらから出資すればいいですか」だった。なんとか本田さんにも納得いく事業説明ができたと、ひとまずほっとした。
一方で、本田さんには世界中の企業から出資に関するピッチを受けている立場として、自分のピッチのどこを直したらいいかをぜひ指摘してほしかった。そこで、ストレートに「足りてないところもたくさんあると思うので、アドバイスがほしい。遠慮なくお願いします」と伝えた。
本田さんは「2年間CEOとしてEDOも見てもらっているし、湯浅さんの性格はわかっている。湯浅さんらしいピッチだった。知財領域が今後ますます大事なのはわかるし、出資します」と言ってくれた。嬉しい反面、やっぱり自分の改善点を探したくて、しつこいとわかりつつ「ありがとうございます。とはいえ、僕ももっと成長したいので、なんでもいいのでどこか改善点はありませんか?」と尋ねた。


ワクワク感

少し考えた本田さんは、「じゃ、一つだけ。」と前置きして、「ワクワクはしなかった」と答えられた。
「そつのない、穴のないきちんとしたピッチだったと感じた。そこには湯浅さんのこれまでの経験や几帳面なところが、いい意味で出ていた。一方で、きちんとしているがゆえに、20代前半のスタートアップ経営者におぼえるようなワクワク感は少なかった。投資家の中でも、湯浅さんタイプを好む人もいれば、きっちりした計画よりワクワク感を重視する投資家もいる。なので、どっちがいいというわけじゃないし、湯浅さんはそれでいいと思う。」とのことだった。
加えて、「湯浅さんはたぶんCTO探しに苦労すると思う」と言われた。
「今のエンジニアはどこにでも仕事がある。お金では動かない。むしろ、その事業やプロダクトに将来性やワクワク感を感じるかどうかで仕事を決めることが多い。その時に、ワクワク感がいる。」

一通りのコメントを聞き終わって、「やっぱり本田さんが最初のピッチ相手でよかった」と思った。
そして、「ワクワク感」。この先の僕や、Smart-IP社にとっての重要なキーワードの一つになるかもしれない、と思ったのだった。

(つづく、、、かもしれない)

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