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特許明細書の書き方が変わるかもしれない~スマートドラフティングという考え方とappia-engineで実現する世界~


特許明細書の書き方が変わるかもしれない

弁理士は、これまで特許明細書をWord(Microsoft Officeの提供するある種の「インフラ」)で作成し、納品していた。事務所によってはWordではなく一太郎を使っているところもあると聞く。僕自身は一太郎を使ったことはなく、かなり古いインフラだと思うが、「業務に直接の支障がなければ特に変える必要はない」というのは、日本に限らず当然の発想だと思う。

 ここでちょっと立ち止まって考えてみよう。実は特許明細書の作成は必ずしもWord形式である必要はない。特許庁にはhtmlで提出するので、Word形式であるかどうかは必須要件ではない。確かにWordやOffice製品は便利ではあるし、現時点では部分的にデファクトスタンダードではあるが、これらは特許明細書を書くために「最適化」されたツールではない。
 お隣の法律業界では、LAWGUEなど、契約書作成をWordではなくブラウザ上で行う世界観も登場してきた。会計業界も、これまでExcelで管理していたもののほとんどがSaaSに取り込まれ、マネーフォワードfreeeなどの簡便なソフトウェアでもって作業を完結させているようだ。

特許明細書の新しい書き方「スマートドラフティング」とは

一部の事務所では、知財業務のDX化の一環で、特許明細書作成に使用するWordにVBAやマクロを組むところが出てきた。拡張機能を何も入れないときよりも、効率的かつ精度高く特許明細書を書ける。
 もちろん特許明細書作成は「効率的」に書けばいいものではなく、ITツールの活用やDX化だけでは解決しない最もインテリジェンスな部分にその本質的価値がある。発明のヒアリング、把握、クレームの言語化などはその最たるものだ。
 一方で、特許明細書作成は、それなりの工数がかかる側面があるのも事実だ。文章量も膨大で、ちょっとした卒業論文よりも多い文章を、弁理士は日常的に量産しなければならない。

 特許明細書作成による売上を「インテリジェンス」という側面と、「工数」という側面とで分解した場合、売上の少なくない部分が工数そのものに支払われている現実もある。事実、ページ数やクレーム数で明細書作成料金を変動させる事務所は少なくない。そのような場合、マクロなどによる業務効率化は価値を発揮してくる。

 さらに、今では、ChatGPTなどの生成AIの存在も無視できない。僕が見る限り、実装の明細書作成に耐えうる要素はまだそれほど多くないものの、部分的な活用は割と現実的になってきていると思う。
例えば、発明提案書の内容をプロンプトに入力することで、それなりの課題のたたき台を書いてくれたり、クレーム案(のようなもの)を作ってみたり、バリエーションとしてどんな実施例があるかの参考材料を提示してくれる。
※内容が正しいかどうかの検証や、文章の整合性チェックは必要なので、実力のある弁理士でなければ利用できないのが現実。つまり、実力のある弁理士のサポートツールとしての位置づけだ。

こうなってくると、これまでのようなWord依存の書き方(これを仮に「レガシードラフティング」と呼ぶ)を続ける人と、ITツールを駆使して書く人(「スマートドラフティング」と呼ぶ)では、ナレッジの蓄積、再活用などに大きく違いが出てくるのは明らかだ


「appia-engine」でスマートドラフティングを実現する

そのため、Smart-IP社が提供する「appia-engine」は「SaaS」であることにこだわった。
SaaSの強みであるマメなアップデートや、特許明細書作成に特化した機能をバンバン追加できるため、今まで実務家が「こういうツールがあればいいなぁ」と思ったものを事後的にカジュアルに組み込むことができる。

例えば、特許明細書中に関連する技術分野の審査基準や、判例などを自動的にサジェストしたり、リンクを自動で表示しすぐに閲覧できるようにしたりすることだって無理ではない。日本語を書きながら、リアルタイムで英語翻訳を併記し、英語にしたときに主語がなくなっていることをリアルタイム検知するような書き方だって提供可能だ。
過去の近しい特許明細書を段落単位で複数サジェストし、流用しやすいフレーズをすぐに呼び出せたり、逆に過去の特許明細書と異なる表現を使い始めたらエラーを出すようなことも可能だ。
これらを企業の知財部が利用することで、特許明細書のクオリティの均質化にも貢献する。同じような書き方を特許事務所に求めるために、DX化に好意的な企業も増えるかもしれない。

弁理士や知財業界は常に最新の技術に囲まれ、最先端の技術知識を求められる。その意味でも、このような時代の変化に柔軟に対応できる思考が求められていると思う。

Smart-IP社では、このような動きを加速させていくことが会社としてのミッションである以上、これからの新しい特許明細書の書き方について「スマートドラフティング」という概念を提唱し、業界自体の特許明細書作成の在り方に一石を投じたいと考えている。
「スマートドラフティング」の定義、Smart-IP社としてのスタンスについては、後の記事に譲りたいと思う。


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