医療改革TF(第3回)中間とりまとめ- 医療介護等サービス強靭化に向けて一豊かな社会保障と現役世代の活力の好循環を生み出す

1.現状認識

・高齢化・長寿化の進展に伴い現役世代の社会保険料負担が限界を迎えつつある。

・ 現役世代への過度な負担が、経済社会の活力を低下させ、ますます少子化が進展する、という悪循環が加速化している。

・ このままでは財政と労働力の両面で医療介護等サービスを維持できなくなることが明らかであるにもかかわらず、政府与党の取り組みは中途半端で弥縫策にとどまってきた。

2. 対応方針

・ 医療介護等サービスを持続可能なものとし、その強靭化を図っていくためには、これまでにないレベルの大改革に取り組む必要がある。

・第一に、自動車産業にも匹敵する一大産業である医療介護等サービス産業の生産性向上を図るため、診療報酬、介護報酬等の体系、地域ケアの提供体制等を再構築する。

・ 第二に、後期高齢者への過度な給付と現役世代への過度な負担という構造問題を抜本的に是正するため、窓口負担改革や保険制度改革に取り組む。

・こうした「産業」と「給付と負担」の両面にわたる改革を断行することにより、医療介護等サービスの強靭化を推進し、豊かな社会保障と現役世代の活力の好循環を生み出す。

3. 改革提言

(1) 窓口負担改革

・高齢者医療制度の原則3割負担化

給付(受益)と負担の世代間格差を是正するため、高齢者医療制度における窓口負担を一律に現役世代と同じ3割負担(注)とする。ゼロコスト問題が指摘される生活保護の医療扶助にも、「低所得者等医療費還付制度」(後掲)の創設を前提にワンコインの負担を求める。
(注)現在1割負担の高齢者については、大幅な窓口負担増を緩和するための経過措置として、2割負担への移行から始める。

・低所得者等医療費付制度の創設

マイナンバー制度、マイナ保険証をフル活用し、年齢及び生活保護受給の有無にかかわらない低所得低資産者等向け医療費還付制度「低所得者等医療費還付制度」(仮称)を創設する。将来的には、より普遍的な「給付付き税額控除」制度の体系の中に位置付けていく。

(2)保険制度改革

• 後期高齢者医療制度の税財源化

現役世代から後期高齢者医療制度への支援金等を廃止し完全税財源化することにより、後期高齢者医療制度の福祉化を推進する。高齢化が急速に進展し「給付と負担」の対応関係(対価性)が不明瞭になっていることに対応する。

・後期高齢者向け診療報酬体系の再構築

後期高齢者の心身の特性を踏まえた診療報酬体系導入の試みは、民主党政権下で廃止されたまま現在に至っている。後期高齢者医療制度が既に定着していることを踏まえ、後期高齢者の生活を重視し、その尊厳に配慮した、後期高齢者向け診療報酬体系を再構築する。

・ 終末期医療の在り方の検討

人生の終末期の自己決定権を実現する観点から、診療報酬体系の中で終末期相談支援の適正な評価等を行うとともに、リビングウィル(事前指示書)を全国医療情報プラットフォームの対象化、人生会議(ACP)の法制化(尊厳死法の制定)進める。

・ こども医療制度(仮称)の創設

少子化対策および全世代型社会保障制度の確立のため、税及び保険料を財源とする「こども医療制度」(仮称)を確立する。こども医療制度では18歳以下の医療費及び出産費用を無償とする。(併せて、過剰医療を防止するための措置も検討する。)

過度に複雑な保険者の統合再編

職域、地域によって保険料の仕組みが変わる現在の社会保険システムは過度に複雑になっており、保険者機能の十全な発揮、国民の理解を得ること等が困難となっている。公正かつシンプルな保険制度を確立するため、その統合を検討する。

診療報酬への変動制の導入

全国一律に 1点10円となっている診療報酬を変動制にし、人件費や家賃費用などの評価(都会は高い、地方は低い)、医療機関の集中率(競合が多い地域では低く、医療過疎地では高い)などを適切な割合で組み入れることを可能とする。

(3) 生産性向上

・DX、設備投資等の促進

電子カルテ、電子処方箋からオンライン資格確認まで徹底したDX、標準化、共通化等を国が主導する。情報機器、介護ロボット等設備投資を促進し、従事者の負担軽減、技術の均
霑化等を促進する。オンライン診療、A1診断、治療アプリの報酬点数をアップする。

・全国医療情報プラットフォームの整備

オンライン資格確認システムからアクセスできる「全国医療情報プラットフォーム」の整備を急ぐ。電子処方箋の利用を義務化する等により服薬情報を一化し、重複投薬、多剤投与を重複服薬、多剤服薬を半減させる。

・経営情報・診療介護等情報の見える化

営利・非営利にわたる公正な競争環境を整備するとともに、医療機関コード、医籍番号等をフル活用し、レセプト(診療報酬明細書)にアウトカム(経過情報)を記載する。診察等情報の「見える化」を実現するとともに診療報酬決定に際してのエビデンスを構築する。

・創薬支援の強化

中央社会保険医療協議会に医薬品・医療機器メーカーを追加するとともに、薬価等部分のプラス改定を実現し、ドラッグラグ・ロスを解消する。薬価の算定制度として企業届出価格
承認制度を導入し、医薬品の価値に基づく価格設定を可能にする。

・介護人材の強化

介護職員の不足が熾烈化することが確実となる中、国内の介護職員の待遇改善とともに、外国人材の活用が避けられない課題となっている。技能実習や特定技能中心の現状から、外国人材が介護福祉士の資格を取得する等のキャリアパスを大幅に拡充する。

(4) 地域ケア改革

- 広域行政への徹底した分権

都道府県への徹底した分権を進め、医療計画と介護保険計画の統合、公立・公的病院の再編統合、地域包括ケア改革、かかりつけ医機能の強化、ケアマネージャー改革、総合事業改革、外国人材の活用等について、地域事情に応じて機動的に推進できるようにする。

・病院と診療所の外来機能の役割分担明確化

大きな病院において「医学管理料」を算定できないようにすること等により入院医療に専念すれば病院経営が安定する環境作り(診療報酬体系整備)を進めるとともに、外来機能を地域の診療所等に任せることで、地域医療連携を更に推進する。

・ かかりつけ医機能の強化

政府は「地域包括ケアシステムの推進」を掲げているが、その内実は依然として曖昧模糊としている。病院病床から地域への流れを加速するため、かかりつけ医に求められる機能を指標化し登録制を導入するとともに、報酬上の評価において明確な差別化を図る。

・ 居住系施設での医療提供の強化

高齢者がいつまでも住み慣れた地域や家庭で自分らしい生活を続けることができるよう、在宅ケアとともに居住系施設(介護医療院、特養、グループホーム、サ高住、有料老人ホーム等)における効率的な医療提供体制を強化していく。

・健康寿命の延伸

年金の支給開始年齢を65歳から70歳に近づけていくと同時に、高齢者の労働市場・労働条件の改善を図る。併せて、健康寿命を伸ばす対策(スポーツ、健康体操など)を推進し、要介護を減らしていく。

医薬分業

医薬分業が概ね実現したことを踏まえ、インセンティブとして講じてきた政策誘導的な加算については廃止する。後発医薬品の普及に伴うインセンティブ廃止、一般医薬品の保険適用除外を進めるとともに、調剤薬局の一部業務の外部委託を解禁する。

・医師、看護師、薬剤師等の職能の再編

医師や歯科医師、看護師、薬剤師、理学療法士、介護福祉士、ケアマネージャー等の職能の再編を検討する。薬剤師を育成してきた薬科大学の在り方、薬剤師への処方権の付与等についても検討の組上に載せる。

(5)障害者の就労促進

・ 障害者雇用率算定方式の改革

障害者が希望する環境で働ける権利を尊重する観点から、障害者の多様な働き方を促進する。諸外国に例があるように、雇用契約を前提とする法定雇用率一辺倒ではなく、フリーランスや就労継続支援事業所等への発注額を評価する仕組みを導入する。

・就労続支援と雇用契約との併用(無期限)の解禁

改正労働者雇用促進法及び改正障害者総合支援法が来年4月に施行されるに当たり、20時間未満の短時間雇用契約やフリーランスについては、通常の事業所に雇用されることが困難な方として無期限で就労継続支援事業と併用できることを法令上明確にする。

・精神疾患患者の地域移行促進

社会的入院の地域包括ケアへの一層の移行(前掲)とともに、精神療養病棟に入院する患者の半数が在宅サービスの支援体制が整えば退院可能であること等を踏まえ、退院に向けたインセンティブを付与するとともにグループホーム等受け皿の整備を推進する。

4. 結語

高齢化・長寿化の進展に伴い医療介護等に要する国民負担は今後とも増大を続ける。本提言では、現役世代の社会保険料負担を軽減し豊かな社会保障と現役世代の活力の好循環を生み出す観点から、歳出改革に向けた高齢者の窓口負担改革、後期高齢者医療の税財源化等を打ち出した。

今後は、給付と負担の対応関係(対価性)が不明瞭な後期高齢者医療等に「支援金」の名目で現役世代に負担を求めること等は控え、医療介護等サービスの生産性向上、利用者・患者等の行動変容を促すこと等による徹底した歳出改革で給付を適正化した上で、資産ベースを重視した給付と負担に舵を切っていくべきである。

本提言で示した大改革を実行すれば、最小の負担で最大の厚生を実現できるが、改革が後追い型の弥縫策に止まれば、社会保険料負担の際限のない増加、消費税等の大幅な増税を回避できない。税と社会保障と労働市場の三位一体改革、いわゆる「日本大改革プラン」のサービス給付部分を具体化した本提言を、日本大改革のセンターピンとして推進していく。

以上

編集後記

1)高齢者医療制度の原則3割負担化については、当面は、全体の8割以上を占める1割負担の高齢者が2割負担に移行することが中心となる点について、十分な説明が必要との指摘があった。

2) こども医療制度(仮称)の創設については、これまで自治体の取り組みとして実施してきたこども医療費の無償化を国が責任をもって行うということが本質であって、新しい医療保険制度を創設するのではないかといった誤解を招かないようにすべきとの指摘があった。

3)本稿をもって医療制度改革TFの「中間とりまとめ」とするが、引き続き、「一般向け説明WG」、「プロでも納得WG」および「数字を詰めるWG」という3つの作業グループを設置し、医療制度改革の在り方に関する検討を継続する。

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