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【第40回】急げ、西の空が暗くなるまえに。 肺腺がんstage4

Medipathyという活動の振り返りです。
活動報告というより、僕が思ったことを本や映画などを踏まえて考察を深めています。ちなみに掲載順はバラバラです笑

Medipathyとは主に、医療系学生が昨今の教育ではあまり機会のない、患者さんのお話を深聴き、語り合い、そして笑い合うをテーマに月に一度のペースで開催しています。
参加ご希望の方は、こちらのリンクのお問い合わせからどうぞー。


急げ、西の空が暗くなるまえに

表題はダンテの『神曲・煉獄編』を参考にしました。
文字だけ読むと『暗くなるから早く帰れ。』という意味です。
ですがちょっと深読みすると、太陽は東から昇り西に沈むことから、ここでいう「西の空」は暗に最後の時(終末期)を意味している言葉でもあります。

今回の患者さんは肺腺がんstage4のYさん。
2018年に肺腺がんstage4と診断され、2023年に5年目を迎えています。
Yさんと出会ってから2年。9回目のゲストです。

過去のNoteに僕とその方の関係性は詳しく書いているので、ここでは省略しますが、いろいろな縁を繋いでくれた方でもあります。

今年の3月。コロナも落ち着いたこともあり、Yさんと銭湯サロン@東京神田の稲荷湯さんで、子を持つがん患者さんの患者会であるCancer Parentsさんとも共同開催することができました。


思い出はいつも雨


思い出は〜いつの日も〜雨〜♪
といった曲のように、その会は思い出に残る土砂降りの1日でした。
2018年に肺腺がんstage4と診断され、2023年に5年目を迎えたYさん。
2023年の3月に東京神田の銭湯で合同企画を進めていた頃のYさんは、新しい治験を始めたものの、体と薬の相性は最悪で2月・3月と絶不調。薬の効果よりも副作用の方が激しく治験を中断するという判断を下したところでした。

進行が止まらない病気。
日に日に落ちていく体力。
出来ないことが増える現実。
有効な解決策がないままながれる時間。

Yさんはあまり弱音を口にされる方ではありませんが、なんとなくこういった雰囲気は伝わりました。

銭湯サロンの解散後、Yさん含めた運営メンバーが雨の中で歩いていると、無機質なコンクリートの隙間に植えられた桜の木が一本ありました。

土砂降りの中でも花びらを散らすことなく健気に咲いている桜。
コロナでお花見ができなかった鬱憤も溜まっているのか、都会の片隅で咲き誇る桜に女子たち(笑)はキャッキャしながら写真を撮っていました。

しかし、桜を愛でる女子たちを眺めた僕は
「もしかすると、来年はこのメンバーで桜を見ることはできないかも」と思いました。

Yさんも実は同じ思いだったのかもしれません。その時のnoteにはこの一文がありました。

みんなと別れた後、泣けてしまいました…
こんなステキなやさしい人たちと、会えなくなる日が来るのかと思うと、寂しくて…
信じられないほど、具合が悪い日も多い中、朝から、別れる前までは、アドレナリンのおかげで、痛みもほとんどなく…
本能だけで、生きているわたしです。
今日は本当に本当にステキな1日でした。

https://note.com/yuko_mitobe/n/n718b00c63013
湯を沸かすほどの熱い愛情

Yさんだけでなく、みな口には出しませんでしたが、おそらく他の方々も同じ思いだったのかもしれません。

頑張れが言えなくなる日

全国医療者流行語大賞というものがあったら、頑張れという言葉は100年連続ベスト5に入るんじゃないでしょうか。
「治療を頑張りましょう」とか「痛みに耐えてよく頑張ったね」とか、色々な時と場所で頑張れはカロナールのごとく気軽に多用されていると思います。
 しかし、その便利な頑張れには消費期限があると思っています。

・病気の進行がどうにもならなくなったとき
・流れる時間の中で痛みに耐えなければならないとき
・生の苦しみに耐えねばならないとき

こんなとき、それまで気軽に使えていた頑張れは、効能を成さなくなります。
それどころか、消費期限を過ぎた食べ物は体に健康に害を与えるように、言った方も言われた方も苦しめてしまう言葉にもなりえます。

前述した雨の日は、頑張れと言いたいけど、頑張れが言えない時でした。

では、そういう時が来たときはどうすれば良いのか。

答えはとても単純で、自分ができることを急いでやること。
ではないかと思っています。
会えるならば急いで会いに行く。
やりたいことがあるなら急いでやる。

3月の銭湯サロンが終わった後、cancer parentsのTさんと次回もやりましょう!とのことですぐ決まった本企画。
テーマは「わたしのエピローグ」
Yさんの体調も考慮し、Yさんのホームタウンである東京小平市で開催しました。

企画当初は体調が危ぶまれた本企画。
ところがどっこい、薬が効いたのかYさんはめちゃくちゃ元気でした笑笑
当日は素敵なカフェをお借りして、Yさんが考えるエピローグ(終末期)をシェアしていただきました。
医学生、子を持つがん患者さん、患者さんではない一般の方も含め20代から50代まで、エピローグがテーマでありつつも、朝からランチまで笑いが絶えない楽しい時間でした。

詳しい実施概要はこちらをどうぞ笑

いつかまた頑張ってと言えなくなる日が来るかもしません。
ただ、西の空が暗くなる前に急いでよかったなと思っています。

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