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『和漢三才図会』「麒麟」

 「麒麟(きりん)」とは、本来、「麕(くじか)の突然変異の一角獣」(「麕」はシカ科の獣。鹿よりは小型で角が無いのが特徴)を指しましたが、西洋のユニコーンとの関係で聖獣となり、さらに羽がついて、今のように派手なキメラ(日本で言えば鵺)になったようです。
 絵画や陶器では青い麒麟「聳孤(しょうこ)」を見ますが、五行思想では「土」ですので、本来は、鹿革のような(織田家のカラーの?)黄色とか金色になります。

 寺島良安編『和漢三才図会』には以下のようにあります。

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麒麟(起りん)
        ■(鹿+希)𪊺(正字、『広雅』に見ゆ)

『本綱』に「麒麟は瑞獸なり。麕身、牛尾、馬蹄、五彩にして腹下、黃なり。高さ丈二、円(まろ)き蹄、一角。角の端に肉有り。音、鐘呂に中(あた)り、行なひ規矩に中り、遊ぶに必ず、地を擇びて詳らかにして、後に處(よ)り、生蟲を履(ふ)まず、生草を踐(ふ)まず、羣居せず、侶行せず、陥穽(をとしあな)に入らず、網に羅(かゝ)らず。王者、至仁(しじん)の時は、則ち、出づ也」。

『三才圖會』に云はく、「毛蟲、三百六十にして、麒麟、之れが長為り。牝を「麒」と曰ひ、牡を「麟」と曰ふ。牡の鳴くを「遊聖」と曰ひ、牝の鳴くを「歸和」曰ふ。春、鳴くを「扶幼」と曰ひ、秋、鳴くを、「養綏」と曰ふ。王者、生を好み、殺を惡(にく)む時は、則ち、麟、野に遊ぶ」と。或は云はく、「麟、角、有り。麒は相ひ似て、角、無し」と。

【現代語訳】麒麟(きりん)
      ■(鹿+希)𪊺(正字は中国の字典『広雅』に載っている)

明の李時珍編『本草綱目』に「麒麟は、「瑞獣」(ずいじゅう。中国で、虫の長だと考えられた四大聖獣。応竜(魚のように鱗を持つ鱗虫の長)、鳳凰(鳥のように羽を持つ羽虫の長、鳥類の長)、麒麟(獣類のように毛をもつ毛虫の長、獣類の長)、霊亀(甲殻類のように固い殻や甲羅をもつ甲虫の長))である。体は麕(のろ。のろじか。くじか。シカ科の動物)、尾は牛、馬の蹄(ひずめ)を持ち、(背毛は)5色で、腹毛は黄色である。高さ(地面から頭頂部まで)は「丈2」(1丈2尺。漢代は1丈=10尺=225cmであるので、229.5cm)で、丸い蹄、角を1本持つ。角の端に肉がある。音声は鐘呂(しょうりょ。音律、楽律。「律呂」とも)と一致し、行動は規矩(きはん)に沿い、遊ぶにあたっては、必ず場所を選び、詳しく調べてから立ち寄り、(地に足を降ろさず、)生きた虫を踏まず、生きた草を踏まず、羣居(群居。群れて行動)せず、侶行(仲間と行動)せず、落とし穴に落ちず、網に掛からない(ので捕まえられない)。王が仁政を布(し)けば現れる」とある。

※明の李時珍編『本草綱目』に「麒麟」の記述がない?(異本にあるらしいが未確認。)

王圻編『三才図会』には、「(虫には鱗虫、羽虫、毛虫、甲虫がいて、それぞれ360種類いるが)麒麟は360種類の毛虫の長である。メスを「麒」、オスを「麟」という。オスの鳴き声を「遊聖」、メスの鳴き声を「帰和」、春の鳴き声を「扶幼」、秋の鳴き声を「養綏」という。王が生を好み、殺を憎む時、麟は野に遊ぶ(王が仁のある政治を行うときに現れる)」とある。
また、「麟には角があり、麒は似ているが角は無い」ともある。

※王圻『三才図会』鳥獣3巻「獣類 麒麟」
 『大戴禮』「毛蟲三百六十而麒麟為之長」。『說文』「牝曰麒、牲曰麟。牡鳴曰遊聖、牝鳴曰歸和、春嗚曰扶幼、秋鳴曰養綏」。『春秋感精符』「王者不刳胎不破邪則麒麟出于郊」。『孫卿子』曰、「王者好生惡殺則麟遊干野。或云、麟有角麒似麟而無角」。『宋均』曰、「麒麟色青黄」。『説苑』云、「麒麟麏身牛尾馬足圓蹄一角角上有肉」。

※参考:『御定淵鑑類函』「麟」
『原毛詩義疏』曰、「麟麏身馬足牛尾黄色圓蹄一角角端有肉音中鐘呂王者至仁則出」。『許慎說文』曰、「麒麟仁獸也」。『何法盛徵祥記』曰、「麒麟者毛蟲之長仁獸也。牡曰麒、牝曰麟、牡鳴曰游聖、牝鳴曰歸昌、夏鳴曰扶㓜、秋鳴曰養綏」。『廣雅』曰、「麟者行歩中規折還中矩游必擇土翔必後處不履生蟲不折生草不羣居不旅行不犯陷穽不罹罘𦉾文章彬彬」。『大戴禮』曰、「毛蟲三百六十而麟為之長」。

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『廣博物志』に云はく、「「麟」の青きを「聳孤」と曰ひ、赤きを「炎駒」と曰ひ、白きを「索冥」と曰ひ、黒きを「角端」と曰ひ、黃なるを「麒𪊺」と曰ふ。(「角端」は日に行きて一萬八千里。至つて速き獸也。)」と。

『五雜俎』に云はく、「鳳凰、麒麟は、皆、種無くして生じ、世に恒に有らず。故に王者の瑞と爲す。龍は神物なりと雖も、然も、世に常に之れ有りて、人、罕(まれ)に見ることを得るのみ」と。

△按ずるに、『瑞應圖』に曰はく、「牡を「麒」と爲し、牝を「麟」と爲す」と。『三才圖會』と表裏を為す。(『三才圖會』の說、訛(あやま)りか。)

【現代語訳】明の董斯張(とうしちょう)撰『広博物志』に「青い「麟」を「聳孤(しょうこ)」、赤い「麟」を「炎駒(えんく)」、白い「麟」を「索冥(さくめい)」、黒い「麟」を「角端(かくたん)」、黄色の「麟」を「麒𪊺(きりん、麒麐)」というとある。(『宋书祥瑞志』に「角端」は1日18000里を走る駿獣(足の早い獣)であるとある。)

※『広博物志』
麟之青曰聳孤赤曰炎駒白曰索冥黑曰角端黄曰麒麐
https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/2575586/4
※青い麒麟の絵をよく見かけますが、五行説の中央「土」には、麒麟、または、黄龍をあてはめるので、麒麟は土色(茶色。鹿の色)、黄色、金色でないとね。

明の謝肇淛(しゃちょうせい)撰『五雑組』には、「鳳凰や麒麟は、皆、種(卵)無くして生まれ、世に常にいない。であるから、現れれば、王者の出現の奇瑞といえるのである。龍は神物ではあるが、世に常にいるので、人は稀に見ることができる」とある。

※『五雑組』
鳳麟皆無種無而生世不恒有故為王者瑞龍雖神物然世常有之人罕得見耳
https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/2580836/5

△私(『和漢三才図会』の著者・寺島良安)が思うに、孫柔之『瑞応図』に「オスを「麒」といい、メスを「麟」という」とある。これは『三才図会』と逆である。(『三才図会』の説明が誤りではないか。)

※孫柔之撰『瑞応図』(『玉函山房輯佚書』第8帙卷77)

キリンの事を調べていて驚いたのは「麒麟座」って星座があったこと。

余談ですが、麒麟像といえば、日本橋。(「日本の道路の起点となる日本橋から飛び立つ」というイメージで付けられた翼がめちゃでかい!)「麒麟は、「麒麟、現れば聖人来る」という嘉瑞(かずい)の聖獣であり、東京市の繁栄を祝福するのにふさわしい」という理由で選ばれたようです。
https://www.soumu.metro.tokyo.lg.jp/01soumu/archives/0717nihonbashi.htm
原型製作は彫刻家・渡辺長男、橋上装飾の担当者は、上総妻木家第11代宗主・妻木頼黄(妻木煕子の子孫だと言えなくもない人物)です。

妻木頼安┬広忠─貞徳┬頼忠【妻木宗家】
    └範煕─煕子├頼久【上総妻木家】…頼黄
        ‖ └頼通【下郷妻木家】
      明智光秀

【参考文献】
北進一「麒麟・その聖なる獣ー起源と図像の変遷をめぐってー」
https://college.toho.ac.jp/artis-cms/cms-files/20100219-161646-9189.pdf
和泉雅人「麒麟考 : 東アジアにおける一角獣表象の基礎的研究(1)」 
https://core.ac.uk/download/pdf/145765114.pdf
和泉雅人「麒麟考試論―麒麟表象の淵源をめぐる考察(東アジアにおける一角獣表象の基礎的研究(2))」
和泉雅人「麒麟考日本篇Ⅰ:東アジアにおける麒麟表象の基礎的研究(3)」
大形徹「龍角考 ーその1、キリンの角」

【参考サイト】
キリンビール「聖獣麒麟」
https://www.kirin.co.jp/company/news/2019/0516_04.pdf

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