灰色の深夜。

 悲しみに包まれていた。体は岩のように重く、冷たい。動かすのには、いつもより多くの体力が必要だった。呼吸をするのですら辛かった。
 とにかく悲しくて、涙が枯れるほどに悲しくて、そんな悲しみが、普段なら絶対に得られないほどの力を与えてくれた。
 それは脳から分泌されていた。へどろのようなそれは血液と混ざり合い、簡単に体中に伝わっていった。すると体は内側から温かくなって、なんだか、なんでもできるような気がした。
 しかし心のほうが、まだ悲しみに包まれていた。
 だから体内の力を、溢れるほどの力を自害に使おうと思った。
 そう決めるともう体は動いていて、近くの大きな湖に進んでいた。たどり着いた深夜の湖は底が見えない大穴のようで、辺りはどんよりとしていた。曇りの時に街中で感じることができるあれによく似ているが、真っ暗な空には白い月が浮いているだけだった。
 その雰囲気が、なんだか心地よかった。自分もその雰囲気に溶け込んで、一緒の存在になりたいと思った。
 強く思ったとき、すでに下半身は湖の中に居た。
 そのまま瞼を二つとも下ろして、ずっと湖の中心に進んでいった。水面が徐々に顔に近づくと同時に、体は生ぬるい水に浸されていく。体を動かす度に鳴る音が、自身のことを祝福してくれているような気がして気分が良かった。

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