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“良い音”を探し求めて、辿り着いた作品 ~加納奈実『mawsim』リリース記念Interview&Disc Review~

サックス奏者として、ジャズのみならず、2021年に公開された映画、『竜とそばかすの姫』の登場人物でアルトサックスを吹く”ルカちゃん”の音を担当するなど、多方面で活躍を続ける加納奈実

加納奈実

ピアニストの永武幹子とのデュオユニット、
Jabuticaba」でも、印象に残る演奏を披露してくれた加納だが、3月15日に自身のリーダーグループ名を冠した、初のリーダーアルバム『mawsim』を発表した。

『mawsim』アルバムジャケット


5月10日からは本作のリリースツアーを控える加納に本作についてのインタビューを敢行。
また、筆者によるディスクレビューも付記するので、ぜひ併せてご覧いただきたい。

さらに発展していくために


-今回、加納さんのレギュラーカルテットでの録音となりましたが、このメンバーとはいつ頃から演奏していたのでしょうか

名古屋から上京をした2013年からカルテットの編成でリーダーライヴをしていますが、このメンバーになったのは2017年の8月からです。

左から、吉良創太(Drums,Percussion)、加納、石田衛(Piano,Rhodes,Key)杉本智和(Bass)

-今回のアルバム制作のキッカケを教えてください

2017年から長く続けてきたバンドなので、
1つの良い区切りとして、そして、さらに発展していくキッカケにしたいと思い立ち、アルバムを作ろうと思いました。

-それぞれのメンバーの演奏の魅力について教えてください

ピアノの石田衛さんは特にソロに対して独特なラインを紡いでいく格好良さを感じています。エネルギーが溜まってからの爆発具合が大好きです。


石田衛

ベースの杉本智和さんはこのバンドのアイデアマンでもあり、1番音楽の事を話し合っています。このアルバムを一緒に創ってくれた共同製作者です。一緒に演奏をするだけでなく、"音楽"を教えてくれた恩人でもあります。

杉本智和
レコーディングの様子

ドラムスの吉良創太くんの花火のように弾けるドラムが好きで、ふとした時に見せる笑顔にも癒されるし、演奏しながら、彼の心地良いグルーヴに体を揺らしてしまいます。

吉良創太

『mawsim』収録曲について


-個性溢れる収録曲について、各曲紹介していただけないでしょうか

① Crepuscular Rays
ディスコサウンドにメンバーのインプロビゼーションが光るダンサブルな1曲です。私自身がコーラスも担当しています。

②Le Bourgeon
“ル・ブルジョン”と読みます。その意味は“新芽”という意味のフランス語なんです。イントロ部分では寒い冬をイメージしていて、春を待つ新芽が、曲が進むにつれて季節が移り変わり、春を迎え新芽を出すまでを描いています。

・“Le Bourgeon” 6年前のライヴ動画

③Doubt
全て私が吹いた楽器の音を使って制作しています。この曲の中ではDudukというアルメニアの民族楽器を使っているんです。曲のイメージからDoubtという言葉が浮かんで、そして、その言葉から頭の中に浮かび上がったダークファンタジーな映像を元に、その世界観を創り上げた1曲となっています。

・加納自身のDuduk演奏動画
この演奏をさらに発展していったものが今回のアルバムに収録されている

④ Far Away Far in the Sky
ゴスペル調な暖かいサウンドになっています。リスナーの方には、特に黄昏時に聴いてほしいですね。広い空をどこまでも遠く飛んでいくイメージを持っている曲です。

⑤Whisper of the Moon
美しいストリングスのサウンドと叙情的なサックスの音が特徴です。
心が浄化される様なバラードに仕上がっていると思います。

ストリングスには、maiko(写真左、バイオリン)と平山織絵(写真右、ヴィオラ)が参加。
また、ストリングスアレンジは、ピアニストの持山翔子が行い、さらにそこに加納と杉本が追加して行っている

“良い音”を求めて

-今回のレコーディングにおいて、
印象に残っている事、難しかった点など、
教えていただけませんでしょうか

今回のレコーディングはCDでしか叶わない多重録音をたくさんしました。自分たちで出来るレコーディングはマイクの立て方など試行錯誤をして行い、“良い音とは、欲しい音とは"という事を研究しながらの作業でした。
毎回大変だったけど、学びが多く、機材の事を全然知らなかった私ですが、それがだんだんわかっていくのも楽しかったです。

-アルバムの特に聴いてほしいポイントがあれば教えてください

アコースティックとエレクトロニックなサウンドどちらも楽しめる点!
特に“Doubt”は必聴です!

-最後に、このアルバムを聴くリスナーへのメッセージと、リリースツアーへの意気込みを聞かせてください

5曲とも自信たっぷりな意欲作が出来上がりました。カラフルなサウンドを隅々まで聴いていただきたいです!
そして、ツアーはコロナ禍以降初です。
とっても楽しみですし、皆さんに生のライヴ、そしてCD、どちらも楽しんでいただきたいと思っております。是非聴きにいらしてください!

『mawsim』Disc Review

冒頭の“Crepuscular Rays”で、
加納のサックスとコーラスによって彩られた、
ダンサブルなサウンドが飛び出してきて、
良い意味で意表を突かれた。
そこから、本作が壮大な世界観を有している作品の予感がしたが、まさにその通りの作品だった。
1曲目から転じて、“Le Bourgeon”はストリングスを加えた穏やかな曲調で生命の息吹を細微に表現している。
3曲目の“Doubt”では、ヨーロッパや中近東の香りを纏い、敬虔な祈りを音楽で捧げるような神秘的な楽曲。加納の幅広い音楽の素養が伺える。
また4曲目“Far Away Far in the Sky”は、加納のサックスが暖かい旋律を奏で、広大な大地を闊歩するような力強さを感じた。石田のフェンダーローズの心地良い響きも素晴らしい。
5曲目の“Whisper of the Moon”は再びストリングスを迎え、加納の清らかで伸びのあるサックスの音色が映える叙情に満ちたナンバーだ。

杉本と吉良は、多彩な楽曲に柔軟に対応し、
曲の世界観を克明に映し出していく。
石田はピアノ、キーボード、フェンダーローズを使い分け、加納のイメージする音世界を仔細に具現化していく。そして、彼らの盤石のバックアップを得て、加納は天真爛漫に演奏に邁進する。

今回のアルバムで、壮大な世界観の一端を垣間見せてくれた「mawsim」の活動は、今後のジャズシーンでも特筆すべきものとなるだろう。

『mawsim』リリースツアー情報

〈mawsim〉
加納奈実(sax,fl) 石田衛(pf,key)
杉本智和(b,eb,etc) 吉良創太(ds)

▶︎5/10(金)&5/11(土) 御茶ノ水NARU
…w/maiko(vln) 平山織絵(vc) 5/10
…w/岡部洋一(per) 5/11

▶︎5/17(金) 名古屋jazz inn LOVELY

▶︎5/18(土) 神戸100BANホール

▶︎5/19(日) 岐阜Island Cafe


〈加納奈実 Official Site〉

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