おかしな2人〜拾われた先輩と後輩〜

おかしな2人〜拾われた先輩と後輩〜

 社長が出社して席に着くその時、俺は右脇から、社長お気に入りの挽きたてドリップコーヒーをデスクに置く。「ありがとう」、その一言も言わせない絶妙なタイミングで。その後、これまた絶妙なタイミングで先輩が選りすぐりのコンビニスイーツを左脇から差し出し畳み掛ける。

「角のコンビニの絶品ふわとろシュークリームです!今日は仕事取ってきますからね!」

 これが俺たちの朝の始まりの定番だ。なぜ俺が絶妙なタイミングでドリップコーヒーを出せるのか?それは簡単な話。社長が時間に正確な男だからだ。毎朝9:30に出社するから9:20くらいに淹れはじめるとちょうど良い。

なぜ先輩がコンビニスイーツを差し出して一言言うのか?いや、なぜ朝一から俺たちが社長のご機嫌を取るのか?それも簡単な話。俺たちがダメ従業員で、全く仕事が取れないからだ。「ありがとう」を言わせないためじゃない、社長に小言や文句を言わせないために俺はコーヒーを淹れ、先輩はスイーツを買ってくる。

 俺と先輩が仕事もロクにせずヤンチャしてフラフラしてた頃、酔った先輩が

「おっさんと肩ぶつかって、いちゃもんつけて、金を脅し取るってのテレビで見たことねぇ?それやってみねぇ?」

 と言った。酔った勢いとはいえ、すごい事言うな、って思ったのが正直な気持ちだった。ヤンチャしてたと言ったって、スカジャン着てガニ股で偉そうにセンター街の真ん中を歩くくらいで、怖そうなヤツ、強そうなヤツが歩いてきたら、ゴキブリが如くササッと端っこに寄る。なんなら走って後ろに逃げるくらい俺たちはビビリで根性なし。女の子が大好きでモテたくてエッチしたくてたまんないのに、ナンパの一つも出来ない情けなさ。もう一つ付け加えるなら素人童貞だったし。

 そんな俺たちがおっさんからお金を脅し取る、ってできるわけないじゃん!と思いつつも、俺も酔っていた。“ビビリから脱却するなら今だ!”と完全に思考の方向を間違え、

「やってみましょう!俺たち元ラグビー部でガタイだけはデカイからハッタリでイケますよ!」

と言っていた。

 弱そうなおっさんを探していると、ひょろっとしたおっさんが自動販売機で何か買おうとしていた。

「あのおっさん、イケそうじゃね?」と先輩。

「俺らよりもひと回りくらい小さいですしね」と俺。

「お前、行ってこいよ」

「いや、先輩行ってくださいよ」

「お前行けよ」

「いや、先輩行ってくださいよ」

 と、互いにやらせようとしている間に、おっさんが缶コーヒーを飲みながらこっちに歩いてきた。どんどん近づいてくるおっさん。先輩の背後での出来事だから先輩は気付いてない。おっさんが先輩に近づいた瞬間、俺は先輩を押した。先輩がおっさんに勢いよくぶつかった。よし、先輩のターン。先輩がいちゃもんをつければ、、、

「あーあ、コーヒーこぼしちゃったじゃねーかよ。どうしてくれるんだよ。かみさんに買って貰ったばっかのスーツなんだぞ!」と、おっさん。

「!?」おっさんが先に文句を言うなんて、想定外。

「こっちはコーヒーどころじゃねーんだよ!肩の骨折れたかもしんねーよ!どーしてくれんだよ!」

 と、先輩が酔った勢いとテレビで見たまんまであろうセリフを言う。やるじゃん!先輩!と俺は思った。

「あん?肩なんて当たってねーよ。お前、背中から突っ込んできただろーが」

確かに、俺が先輩を前から押したんだから、肩が当たるはずない。

「ウルセー!肩がいてーんだよ、金よこせよ!」と食い下がる。

「なぁ、若いの。本当に怪我したくなかったらこのまま逃げたほうが良いよ」

「ウルセー!金よこせ!」

と、先輩がタックルをしかけた瞬間、宙を舞った。先輩が。倒れた先輩の肩は外れていた。

「だから怪我しないうちにって言っただろ。俺、合気道の師範もやってるんだよね」

外れた肩を押さえながら、その痛みに泣きじゃくり、そして、逃げようとする先輩。格好悪い。おっと、他人事じゃないぞ、早く先輩を連れて逃げなきゃ。

「ちょっと待てよ。すぐ、肩入れてやっから」

おっさんが慣れた手つきで、外れた先輩の肩を入れた。逃げるタイミングを逸し、全てに圧倒された俺たちは、その場で土下座して謝った。

「なぁ、お前ら。若いのに何やってんだ?金ねーのか?飯おごってやるから付き合えよ。俺のスーツ汚して、いちゃもんつけてきたんだから、言うこと聞けよな」

 おっさんの行きつけだという居酒屋でご馳走になりながら、俺たちは自分たちのことを話した。優しくされた気がしたからか、初対面なのになんでもかんでも話した。

「俺たち、高校でラグビー部の先輩後輩だったんすよ。俺は先に卒業したんすけど、受験に失敗して浪人中。本当は大学なんて行きたくないんすけど、兄貴が優秀で東大の院行ってて。なんか親からのプレッシャーが痛いっていうか。勉強も全然捗らないし、模試の結果も全部E判定。その上、昨日、予備校で好きになった女の子に勇気出して告ったんすけど、フラれて。もう、俺の人生って何なんだろうなって」と先輩。

 先輩が告ってフラれた!?今日先輩が酔ってめちゃくちゃなことを言った理由がわかった気がした。

「俺は大学行く気もなかったし、家もそんな裕福じゃないから高校卒業してすぐ働くつもりだったんですけど、どこにも就職できなくて。仕方ないからバイト始めたんですけど、どれも続かなくて。先輩と遊んだりフラフラしたり」

「なんだよ、お前らつまんねーな。受験に一回失敗したブラコンが女にフラれたくらいで人生語ってんじゃねーよ。後輩も後輩で、就職失敗して親を楽にしてあげられなかったとか思ってんじゃねーだろうな。たった一回の失敗で人生終わったみたいな面しやがって。失敗しない方法はただ一つ。成功するまでやり続けることだ。若いんだから、何度でもやればいい。ちょうどいい。お前ら、ウチで預かってやるよ。バイト代も出してやる。その代わり、この後、一緒にかみさんに謝りに行くぞ」

「奥さんに謝るのは良いですけど、合気道の道場でバイト?何するんですか?受験勉強あんすけど」と先輩。

「合気道の道場じゃねーよ。俺の本職は探偵。俺は探偵事務所の社長なの。浮気調査とかペット探しくらいはお前らでもできんだろう」

 探偵と聞いて、俺は正直、ワクワクした。先輩も格好良いと思ったのか、俺たちはおっさんの会社に厄介になることになった。

 そう、このおっさんが社長だ。

 社長が奥さんに謝るために、俺たちを連れて行ったのには理由があった。奥さんは美人だった。だけどすげー怖い、鬼のような人だった。まず、社長の帰りがいつもより遅いことに対して怒っていた。俺らのせいにされた。そして、なぜスーツを汚したのか?問い詰められた。これは俺らが悪い。スーツを元通りに綺麗にしないと帰さないと言われ、結局朝までシミ抜きをさせられることに。ちゃっかり、洗濯やキッチンの洗い物、部屋の掃除までもさせられるた。その夜から、この鬼と俺らは意外と長い付き合いとなるのだった。なぜなら、鬼は、探偵事務所の副社長兼経理だったから。

 2年後、先輩は無事東大に合格し、探偵事務所でバイトしながら学校に行っている。俺は、社員として働かせて貰っている。なんだかんだ社長には世話になりっぱなしなのだが、俺たちはあまり役に立っていない。なかなか新しい仕事を取れないのだ。たまに、ペット探しや浮気調査の仕事を取れるくらいでほとんど稼ぎがない状態。会社の主な収益は社長がやっている企業調査という仕事らしい。そのおかげで俺は月給を貰えているし、先輩も出社するだけでバイト代を貰えている。探偵が企業調査?と思うが、社長がそう言うのだから信じるしかないし、デリケートな内容らしく手伝わせてもくれない。

 ある日、時間に正確な社長が9:30に出社しない。コーヒーの酸化が進んでしまう。

「先輩、社長遅くないっすか?」

「遅い。珍しいな。何かあったのかな?」

と話していると、

「社長は1時間も前から会議室でお客さんと打ち合わせ中よ!アンタ達は早く仕事取ってきなさいよ!この給料泥棒ども!」と鬼、いや、副社長に怒鳴られ会社を出ようと会議室の横を通ると中の声が聞こえた。

「今回の調査結果も素晴らしい!これで奴等の息の根を止められそうです。それはそうと、前から相談していた件、考えてくれてます?」

「喜んでいただけて光栄です。何の件でしたっけ?」

「御社の若いの2人。うちにくれませんか?って話ですよ」

「その件なら、断ったじゃありませんか。大切な人材なので」

「いくら大切な人材でも仕事がなかったら給料払うのも大変でしょう。現に、利益を上げているのはほぼ社長ですよね」

「いやいや、彼らも頑張っていますし、後継者として育てている途中ですから」

「そんなこと言ったって、顧客減ってきてますよね?給料上げるのも大変でしょう。東大君じゃない方、家の面倒も見ているそうじゃないですか。給料上げて楽させてあげたいですよね。会社は傾きかけてますけどねぇ」

「なぜ、そんな事まで知っているんですか?」

「欲しいモノを手に入れる努力はする質でして。社長がそのつもりなら直接ヘッドハンティングします。御社より高待遇で招き入れたいと思っていますよ」

 俺らは身動きが取れずにいた。経営が厳しい?俺と先輩をヘッドハンティング?そもそも、社長と話しているのは誰なんだ?

「アンタ達、まだ出かけてないのかい!!早く営業行ってきなさい!!」

 という鬼の声で我に返った俺たちは会社を出た。

 「社長と話していた奴が誰なのか、確認してから行こうぜ」

 そう言って先輩は、ビルの脇に身を潜めた。考えていることは一緒だ。俺も先輩に倣った。

しばらくすると、仕立ての良い服を着たインテリヤクザ風の男が部下らしき人間と一緒にビルを出てきた。

「何で若造2人を引き抜くなんて言ったんですか?」

「目的は若造2人じゃないよ。あの優秀な社長を私の部下にしたいんだけれど、なかなか首を縦に振らない。あの若造らを育てたいんだと。育てる理由がなくなったら、ウチに来ない理由はないだろ」

「とはいえ、若造2人を引き抜いても、あの社長がウチに来るとは限りません。その時、使えない若造2人はどうするんですか?」

「その時はその時よ。今まで通り、あの社長のクライアントを潰していけば経営破綻するだろうし。若造も鉄砲玉くらいにはなるだろう。お、電話だ」

こいつは何者だ?俺たちは動けないでいた。

「報告ありがとう。じゃー、早速交渉に入りますか」

 と、ケータイを仕舞いながら男がこちらに向かってくる。

「探偵事務所のお2人じゃないですか。お会いしたことは無かったでしたっけ?これは、失礼いたしました。社長にはいつもお世話になっていまして。私、こういう者です」

 と、男は名刺を差し出した。

ISホールディングス株式会社 代表取締役 高山実

ISホールディングスといえば、TVCMも打っている上場企業だ。そんな男がウチのお客さんだったとは、流石!社長!

いやいや、そんな男が何で話かけてきて、そもそも、何でここに俺らが隠れていることを知ったんだ?

「こちらこそ、失礼いたしました。ちょっと営業がうまくいかなくて、社長に何て報告しようか2人で話し合っていたんです。お恥ずかしい」先輩がテキトーに答えた。

「営業がうまくいかないことってありますよね。わかります。ところで、お2人にお話したいことがあるのですが、お時間よろしいでしょうか?良い話だと思いますよ」

「はい、聞かせてください」と先輩。

 おいおい、先輩、話聞いてなかった?絶対なんか企んでるって。と思いつつ、俺も頷いていた。俺たちは高山を待つリムジンに乗った。きっと、運転手が電話で俺たちの居場所を知らせたのだろう。艶かしい照明、革張りのソファ、なぜか酒が並ぶ車内。リムジンの中って高級キャバクラみたいだなと思った。行ったことないけど。

 リムジンの中で高山は、俺たちに自分の会社に入って貰いたいこと、今の給料の3倍を支払うことなど、俺らにとって都合の良いことばかりを並べた。

「ホントですか!ありがとうございます。是非、お願いします!お前ももちろん一緒に行くよな?」

「え!?先輩、社長への恩は忘れたんですか?世話になりっぱなしですよ」

「バカ。だからだよ。最近、社長暇そうだし、俺たちが居ても利益が上がらないばかりか、減る一方、お荷物だろ。こんなに良い条件で高山さんに面倒見ていただけるんであれば、社長も俺らもWINWINだろう」

「でも、そんなにすぐ決めなくても」

「大丈夫だって。ISホールディングスって言ったら上場企業だ。信用できない訳がない。これはチャンスなんだよ」

「流石、東大生ですね。あなたのような人材を弊社は求めていたんですよ。では、来月からでお願いしますね」

 それからすぐ会社に戻り、社長に会社を辞めてISホールディングスに行く旨を伝えた。

「実は、会社の資金繰りが思うようにいってない。気を使わせたみたいだな。お前らが良いと思って決めたんなら止めはしない。但し、変な仕事をさせられそうになったら即辞めて戻って来い。席は残しておいてやる」

ちょっと寂しそうに社長が言った。

俺たちは、改めて今まで大変お世話になったこと、なかなか仕事が取れなくて迷惑をかけたこと、ありったけのありがとうと、ごめんなさいを伝えた。ちょっと涙が出そうになって、俺らは上を向いた。

「給料泥棒がいなくなってせいせいするね!社長業もこれで楽できるんじゃない?ほら、アンタら給料泥棒はさっさと荷物まとめて出て行きなさい!!」と、まくしたてる鬼の目がすこし潤んでいたのを俺は見逃さなかった。

 ISコーポレーションで働き出して数ヶ月。俺の仕事はほとんど雑用。暇な時間は探偵時代に培ったハッキングスキルで、社内外の情報を細かくチェックして情報収集している。培ったというか、ほぼ癖になってしまっていたんだと気がつく。スマホやPCから浮気の証拠は見つかりやすい。東大生になった先輩は研究が忙しいらしく、社長の会社にはほぼ毎日来ていたのに、ここには多くても週2日しか来ていない。まぁ、給料は3倍だから先輩としては、社長のところと同じくらいか多く貰っていることになるからいいのかもしれない。

 久々に先輩と一緒に出社したある日、高山とすれ違い、そのまま社長室に呼ばれた。

「実は、君たちに特別任務を遂行して欲しい」

「特別任務ですか?」と先輩。

「そうだ。実は1年前、前の代表取締役が暴力団とズブズブの関係で、その暴力団の関連会社に多額の仕事を発注していた事が発覚し解任された」

「その事件は知ってます。ニュースで見ました。その事件を処理したのが高山さんで、その後、代表取締役になったんですよね」と先輩。

「そうなんだが、ちょっと問題が起こった」

「どんな問題ですか?」と俺。

「“私が暴力団と関わりがある”、としてこの写真が送られてきた」

 料亭らしき廊下で高山と厳つい男が笑顔で話をしている写真だった。

「私と話をしているように見える男が暴力団の組長らしい。よくできている写真だ。確かに、私はこの料亭にいたが、この男と食事はしていない。仕組まれたんだろう。トイレから戻ってくる時にすれ違ってお見合いみたいになったのを覚えてる」

「あー、避けようと思ったら相手も同じ方向に避けて、また避けようと思ったらまた同じ方向に避けて、気まずくなるヤツですね」と俺。

「で、何が問題なんですか?実際、何もないなら問題ないんじゃないですか?」と先輩。

「相手はこの写真を会社にも週刊誌にも送ると脅迫してきている。たとえ事実でなくても週刊誌に載ったら、会社の信用は落ち、株価は下がってしまう。そんなことをしても暴力団にとっては何の得にもならない。目的は金だろう。今晩、その料亭で話をしようと呼ばれている。一人で行くのは不安だから、一緒に来て欲しい」

「入社したてのコイツやバイトの俺よりも、もっと適任がいらっしゃるんじゃないですか?」と先輩。

「知らないと思うが社内での出世争い、足の引っ張り合いというのは現実にある。私はここで失墜する訳にはいかないし、会社の信用を下げる訳にもいかないのだ。君たちは私がヘッドハントした人間だし、見た目は強そうだ。そして、この間まで探偵だった。探偵は口が固い。そうだろ?」

「そういうことであれば、同席させていただきます」と先輩。

「暴力団って、正直怖いんですけど。。。」と俺。

「金を要求してくるだけで、身の危険はないだろう。暴力を働いたところで、相手に何のメリットもない。18:30に駐車場で待ち合わせよう。よろしく頼むよ」

 俺たちは社長室を出た。

「いやー、先輩。なんか大きい会社って探偵よりもスリリングですね」

「浮かれてじゃねーよ。一大事じゃないか」

「先輩もなんだかワクワクしてるように見えますけど?」

「ワクワクなんてしてねーよ。俺、早退するわ。夜、学校行ってやろうと思ってた研究資料まとめておかないと。じゃ、駐車場でな」

 夜、駐車場からリムジンで料亭へ。個室に通されると、写真に写っていた暴力団の組長と幹部らしき厳つい人間が2人。組長の隣の席は空いている。俺たち2人は上座に促され、組長の隣に高山が座った。

「君たち、よく来てくれたね」と高山がニヤニヤしながら言った。

「ど、どういうことですか?」俺は焦った。

「どういうことも何も、こういうことだ。この組長、私の舎弟。暴力団とズブズブなのは私なのよ。前の代表取締役をハメて今の地位を手に入れたってわけ。上場企業のトップという地位をね」自慢げに高山は笑った。

「話が読めないんですけど、何で俺らにそんな話をするんですか?バラしますよ」ビビりながらもがんばって俺が言った。

「今の状況わかってる?この部屋から出るのも難しいと思うよ。出られて、今の話をバラしたとしても証拠がない」

「目的は何ですか?」先輩は冷静っぽい。

「君たちの元社長。なかなか私の部下になってくれないんだよねぇ。調査力、情報分析能力、先を読む力、全てにおいて、あの人、優秀でさ。暴力団という武力と上場企業のトップという権力は手に入れたんだけど、日本一でもないし、ましてや世界一でもない。あの人の能力が手に入れば競業先に圧勝して、世界一になれるんじゃないかなぁって。あの人の競業企業の調査結果と戦略予測って未来でも見てきたかのように当たるのよ」

 本当に社長の仕事は企業分析だったんだ!情報分析と未来予測が優秀ときたら欲しい人材だろうなと俺はのんきに思った。

「で、君たちを育てたいから私の部下にならないって言ってたから、君たちを私の会社に入れて引き離したんだけど、今度は私のことが嫌いだから私の部下にならないって言い始めてさ。だったらとことん嫌われちゃおうって、こいつら使って暴力で脅してみたんだけど、あの人強いのね。全然歯が立たなかったから、君たちに人質になって貰おうかなって」

「知ってましたよ」

「え!?」と俺。

「え!?」と高山。

「知ってましたよ。高山さんが暴力団とズブズブの関係で、社長のこと部下にしようとしてるの。俺らを人質にするとは思わなかったけど」

 先輩が資料を出しながら話しはじめた。

「色々と調べさせていただきました。高山さん、学生時代からチンピラ集めて愚連隊みたいなの組織してますよね。そして、会社を脅したり、違法風俗店やったり、かなり悪どい商売をしていた。隣にいる組長さんをはじめ、当時の愚連隊の人たちが、全国各地で暴力団や関連会社をやっている」

「悪どい商売とは聞き捨てならないねぇ。れっきとしたビジネスだよ、ビジネス」ちょっと怖い顔になった高山が言った。

「ISコーポレーションに入社してからも変わらず、暴力団をつかって脅したり、悪どいやり方で自分の営業成績を稼いで出世。自分が発注する仕事は、暴力団関連の会社に回し、高山さんの言葉で言うところの、権力と武力を上げてきた。で、1年前、前の代表取締役をハメてISコーポレーションのトップになった」

「よく調べたねぇ。証拠はあんのか?」

「証拠はありますよ。10年前から吉岡工業への発注金額がどんどん膨らんでいる。1年前、吉岡工業が暴力団系列の会社であることをリークして、前代表取締役との関連性をでっち上げた。前代表取締役は解任、吉岡工業は倒産。その後、TYインダストリアルという会社が新たな発注先として出てきています」

「それは、吉岡工業の代わりの会社だね。それの何がおかしい?」

「TYインダストリアルへの発注金額は吉岡工業の倍。何かおかしいですよね」

「TYインダストリアルが優秀だということだろう」

「高山さん、頭の悪いチンピラを部下に持たない方が良いですよ。TYインダストリアルの内部資料をハッキングさせて貰ったんですけど、裏帳簿が出てきて、高山さんの個人口座への振り込み履歴を発見しました。何より、TAKAYAMAインダストリアルってメモもあったんですよ。TAKA(高)YAMA(山)だからTYインダストリアルってバカ過ぎるでしょ。ちなみに、吉岡工業の資料も出てきて創立メンバーに高山さんの名前が載っていましたよ。結局、吉岡工業もTYインダストリアルも実体と構造は一緒だったんですよね」

「なぁ?君たちの元社長を部下にしたい気持ちがわかるだろ?バカが多いんだよ。足ひっぱりやがって。おい!証拠を全部今すぐ消せと連絡しておけ。消し方わからないなら、パソコンごと燃やせと言っておけ!」

 冷静な高山しか見たことがなかったが、今の高山の目には憤怒の炎が見える。

「ポンコツだと思ってたけど、良く調べたね。褒めてやろう。でも、お前が持っているのは原本じゃないだろ?お前の都合が良いように改ざんしたものだと言い張るよ。証拠にはならない」高山がバカにしたように言った。

「あーあ、もうちょっと研究時間があれば、完璧な証拠を押さえられるはずだったんだけどなぁ」先輩が残念そうにつぶやいた。

「なんだ、先輩、研究ってこのことだったんですね。研究材料として必要だからってわざわざハッキングしてこの会社調べろって俺に言った意味が今わかりました」

「隠してて悪かったな。でも、正直後半は俺の推測だ。推測はバッチリ合ってたみたいだけど、警察に突き出す決定的な証拠がない」

「お前ら何2人で話してるんだ?状況わかってんのか?」高山はイライラしている。

「でも、高山さん、今までの話で自供したも同然ですよね?今までの会話、全部ビデオに撮ってたら証拠になるんじゃないですか?」

「え!?」と高山。

「え!?」と先輩。

「だって、暴力団と会うっていきなり言われたら怖いじゃないですか。下手打ったらテトラポットに埋められて海に沈められるとか聞いたことがあるし。万が一に備えて、これ、ボールペン型カメラ。映像と音声はサーバーにリアルタイムで保存されて、俺が24時間以内にサーバーにアクセスしなかったら、このビデオが社長に送られるように設定してあるんですよ。社長だったら俺たちのこと探してくれるかなと思って」

「お前のビビリも役に立つ時があるんだな!」

「お前ら、無事にここから帰れると思ってんの?」

そう言って高山が先輩に、組長が俺に襲いかかった瞬間、宙を舞った。高山と組長が。

「100%無事で帰れると思ってるよ、途中から」と先輩。

「俺たち、営業は全然ダメだったけど、暇なときにシゴかれた合気道は社長より強くなったから」と俺。

高山たちは捕まった。高山の暴力団組織は予想以上に巨大で前代未聞の大ニュースになった。ISコーポレーションの幹部のほとんどは高山に大きな不満を持っていたようで、高山を逮捕に導いた俺たちはヒーロー扱いだった。でも、逆に居心地が悪くて俺たちはISコーポレーションを辞めた。

「先輩、これからどうします?」

「俺は学生だからどうでも良いけど、お前どうするんだよ?家のこともあるから、稼ぎがないと困るだろ」

「社長、“戻ってこい、席は残しておいてやる”って言ってましたよね。戻りましょうか」

「調子良いヤツだなぁ。でも、高山逮捕されたのは社長も喜ぶんじゃね?」

「先輩も一緒に行きましょうよ」

「おう、ISコーポレーションっていう太い顧客のお土産もあるしな」

 久々の探偵事務所。ドアを開けて2人でふざけて言った。

「潜入調査より、ただいま戻りました!!」

「お、遅えよ、バカども!」ぼんやり見える社長の声が少し震えて聞こえた。

「おかえり〜〜!」と駆け寄ってくる鬼が天使に見えた。

それは、俺の目の前の風景が、涙で滲んでいるせいだ。


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