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「マザーズ・プレイヤー」(1994米)

 母を描いた映画は星の数ほど、つまりもっとあっていいのだけれど。一本選んでと頼まれたら何を選ぶだろうか。頼まれることなどないし、頼まれなくても考えちゃうんだけど。

 その一本とは……いやタイトルに書いちゃってるんでね。そうですそれです、なんかすみません。

 主演はシュワちゃんロボをやっつけたサラ・コナーとして知られるリンダ・ハミルトン。このテレビ映画「マザーズ・プレイヤー」においては、息子がいるシングルマザーで、HIVポジティブと診断される女性ローズマリーを演じている。まだ死の影が濃密にたちこめていた時代のこと、母親は自分の代わりに幼い息子を守り育ててくれる人を探す決断をする。

 この映画の問題はVHSしか出ていなくて、観られる人が限られることだ。本当にどういうことなんだよ。せめて海外のDVDを探しているのだが、今のところ探し当てていない。

 この映画の細部を、実は私も覚えていない。ただ忘れがたい場面がある。自身がHIVポジティブだと知らされたローズマリーが街をさまよい、ゲイ・センターにたどり着くシーン。ローズマリーは言う――「場違いなのは分かってる。でも他になかったの。ここしかなかったの」。ゲイ・センターのスタッフは「ここで良かったんだよ。ここでいいんだ」と答える。そして、彼女をその場にいたゲイたちに紹介する。新しい友人として。

 若かった私がゲイ・コミュニティに抱いた夢はここに始まっている。

 私はこの映画を観ていなければ、HIV/AIDS予防啓発活動に傾倒しなかったし、ゲイコミュニティに強い思いを抱かなかったし、あの本を作っていなかったと思う。……いや、そんなこともないか。それぞれめぐり合わせで、関わったかもしれない。ただずいぶん思いは異なったのではないか。この映画との出会いによって、私はゲイのための活動がゲイのためだけにあると考えたことは一瞬もなくて、ゲイがこの社会で果たす役割を思い続けて来た。そう、私はゲイに役割があると考えていたのだ。今もそうだ。
 「そんなの押しつけだ。誰であれそんな役割を強いられるいわれはない」と言う人がいるなら、私は「いいえ。どのような人間になりたいのかを考えろ」と答える。これは私の信頼であり、私が人間を愛する理由である。


 

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