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「和賀英良」獄中からの手紙(34)  田島藍子が見た夢 

拝啓

和賀先生、ご無沙汰しております。世田谷の田島藍子でございます。

こういった寒い時期になりますと、先生が刑務所の中でどのように過ごされているのかとても気になります。先日こちらから座布団の差し入れをさせていただきましたが、届いておりますでしょうか。なにかお役に立っていれば嬉しく存じます。

本日の真夜中に急に目覚めました、それは実際に目の前で展開されるような事件の生々しいフラッシュバックがあったのです。目が覚めてもその映像が目に浮かぶような強烈な既視感でした。そしてなにか手が自動的に動くような不思議な気持ちで文章をしたためました。

その日は珍しく近所の神社にお参りに行ったのですが、その際に家族の健康とともに、先生の息災もお願いしてまいりました。私は元々沖縄の家柄で、旧姓は照屋藍子と申します。祖母の代までは「ユタ」と呼ばれる祖先の霊や守護霊などと交信をする「拝み屋」として生活しておりました。

ちょっと話は飛びますが、私の息子は音楽のほうに進みまして、西武池袋線の江古田にある大学の芸術学部音楽学科で打楽器を専攻しております。

その息子が先日妙な事を申しました。大学の図書館でこの事件を題材とした映画ビデオをライブラリーで見つけて鑑賞したところ、後半のオーケストラの場面で演奏している交響楽団のティンパニー奏者は自分の大学の担当講師だと言っております。

妙な縁があるものだと確認したところ、まさしくそうでした。とは申しましても和賀先生はこの映画をご覧になっていることは無いかと存じますので、そういった縁があることを書いただけのことでございます。

話が戻りますが、そんなこともあり急にイメージと閃きが増して文章を勝手に書いております。

これは私の考えではなく勝手な妄想です。事件のことが雑誌や新聞でたくさん報道されているから、それらを頭の中で勝手に組み上げた創作だろうなど、これが事実ではないことは先刻承知ではあるのですが、自分の直感というか霊感ともいうべき邪推は、あながち間違いではないような気もいたしますので、失礼を承知の上でご献上させていただきます。

相も変わらず初心者が書いた三文小説のような文章ですが、何卒ご容赦くださいませ。いつもながらご一読いただき感謝いたします。

敬具

田島藍子

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―田島藍子が見た夢―

和賀英良とその年老いた男は、鉄道の操車場に忍び寄るように姿を現した。彼はこの場所で、彼の暗い過去を知っている老人、三木謙一を残酷な結末へと導くつもりだった。

かつて和賀は、幼い頃に助けてもらった三木謙一の家から金を盗み、逃亡していた。その時、彼は伝染病に冒された父親と共に放浪の旅を続けていた。年若き和賀は、困難な状況の中で生き抜くために非情な選択を迫られ、金を手に入れることを決断したのだ。

時は流れ、和賀は東京で前衛音楽家として名声を築いた。しかし、彼の前に突如として三木謙一が姿を現した。かつての行為を知られ、金の返還を求められたのだ。和賀は窮地に立たされ、途方に暮れた。自らの未来と名声を守るためには、この問題を解決しなければならなかった。

彼は婚約者の父である政治家、田所に助けを求めた。田所は和賀の苦悩を理解し、彼の計画に協力することを決めた。そして、政治家の命令で雇われた共犯者が操車場に潜んでいた。暗い陰謀がこの場所で巡っていたのだ。

和賀英良は、三木謙一との対峙の瞬間を迎えた。彼は彼自身の過去と向き合いながら、決断を下す覚悟を持っていた。血と闇が交錯する中、彼は過去の罪と現在の苦悩に埋もれながらも、冷酷な行為に身を委ねた。

殺人の瞬間、和賀は大量の血に包まれ、それを浴びながら恍惚の表情を浮かべていた。過去の悪夢と現在の絶望が混ざり合い、彼の心は暗黒に染まっていった。

この悲劇的な出来事は、まるで一篇の小説のような物語であった。和賀英良の過去と現在、三木謙一の復讐と和賀の苦悩、政治家の陰謀と共犯者の存在が、電車の操車場で絡み合っていた。

彼らの物語は、血と闇に彩られ、暗い運命に翻弄された存在たちの苦悩と絶望の交錯を描き出していた。それは人間の欲望と罪深さ、そして時と場所の中で紡がれる運命の網によって結ばれた人間模様の一端に過ぎなかった。

暗闇の操車場は、和賀英良と三木謙一の運命の交差点となった。彼らの出会いと因縁、そして壮絶な結末は、永遠にその場所に刻まれることとなるだろう。

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ー操車場の夜ー

蒸し暑い夏の夜。時間は深夜十二時少し前、蒲田にある電車の操車場。トリスバーから出た和賀英良と三木謙一は操車場のほうに二人で歩いていった。和賀は彼の暗い過去を知っている老人、三木謙一を残酷な結末へと導くつもりだった。

彼は幼いころの名前は「本浦秀夫」と言い、伝染病に侵された父親とともに村を追われ、放浪の旅の途中で当時巡査であったこの三木謙一に助けられた過去がある。

和賀はこの巡査の家から子供の時に金を盗んで逃亡し、その後名前を和賀英良と変え、東京で前衛音楽家として地位を築いていた。和賀はこの三木謙一の家から金を盗んで逃亡した過去を封印していた。しかし三木謙一が突然自分の前に現れて金を返せと要求されて困っていた。

そこで自分の暗い過去を知っている三木謙一を殺すことを計画。婚約者の父である政治家の田所にこの殺人の手助けを依頼していた。操車場にはその政治家から依頼された殺し屋、つまりコントラクトキラーが潜んでいた。そしてその協力者は三木健一を撲殺した。

和賀英良は殺人の時に大量の返り血を浴びて恍惚としている。
その協力者は和賀にとって驚くべき人物であった。

コントラクトキラーはこの暑い季節に黒い皮の手袋を両手にはめていた。
そしていぶかしげにこう言った。

「なんで君は…こんな状況で白いシャツを着ているのですか?」

和賀はシャツの血を右の手のひらで確認しながらニヤリとして答えた。

「返り血を……たくさん浴びたいんですよ」
「男の罪穢れをこのシャツにしみこませるために……」


※ここで目が覚めたのでございます。【田島藍子記】

昭和時代の蒲田操車場近く © 1974 松竹株式会社/橋本プロダクション

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第34話:  https://note.com/ryohei_imanishi/n/n4ba15435e939

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