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「和賀英良」獄中からの手紙(36)  田島藍子との対話 

■ 田島藍子さんとの対談【世田谷区太子堂田島家にて】
 
◇初めまして、私は『和賀英良からの手紙』という本を執筆中の今西遼平と申します。本日はよろしくお願いいたします。
「こちらこそよろしくお願いいたします」

◇事前にご説明しておりますが、和賀英良宛の田島さんのお手紙が先日発見されました。まずは和賀氏とのご関係を教えていただけないでしょうか。
「はい、私は和賀先生の大ファンでした。そのきっかけは国鉄の食堂車で働いていた時に偶然に車内で先生たちのヌーボーグループと出会ったことです。その時にサインをしていただき、いまだにそれを大切にしています。とても嬉しかったのを覚えています」

◇その後に和賀氏の演奏会や講演に出向くようになったのですね。
「音楽のほうは自分には難しいものだったのですが、先生のお顔を見たい一心で草月ホールや東京文化会館小ホールなどによく行っておりました」

◇なぜあのような手紙を送られたのでしょうか?
「私は小さいころから文章を書くのが好きで、自分勝手に詩を書いたり、空想のお話しを小説風に書いたりして遊んでおりました。国鉄の食堂車で働こうと思ったのもいろいろな場所に行けるので、紀行文なども書けるのではないかと思ったからです」

◇内容は非常に現実的な殺人の描写ですが…
「実は私の祖母は沖縄で『ユタ』と呼ばれる霊能力者というか『拝み屋』をやっておりました。私の旧姓も沖縄に多い『照屋藍子』といいます。母は沖縄から岡山の農家に嫁いだのですが、あの事件の映画を一緒に見た際に『この親子に会ったことがある』と申しました」

◇それはどういうことでしょうか。
「ある時、母が流行り病で高い熱を発し臥せっているところに、この親子が現れて、病気の人がいればお祓いをする、と申したそうです。家の者もこの田舎では頼るものも少ないので、お願いしますということになりました。そして子供だけ布団のそばに来て、母の額に手を当てながら。一心不乱にお祓いの言葉を30分以上も唱え続けたそうです」

◇父親はどうしていたのでしょう?
「外の軒下でこちらに向かって手を合わせていたそうです」
「そのあと、これからどうされるのかを聞いたところ、この罪穢れを自分が持ち去って海に流します、そのやりかたは砂の器を海辺でこしらえて、その中にご病気の方の悪いものを封じ込めて、波と共に遠くに持って行っていただきます、と説明されたのです」

◇そのあとお母さまはどうされましたか。
「夕方になって急に熱が下がり、起き上がれるようになったそうです。熱にうなされながら懸命にお祓いをしてくれた子供のことは、はっきりと覚えている、と申しておりました」

◇田島さんがファンになり演奏会に足しげく通うようになった和賀英良が、そのお祓いをした子供だということでしょうか?
「はい、そのような繫がりが分かって本当にびっくりしました。これは運命とも言うべき巡り廻った縁でしょうか、私がその時のご恩をお返ししなくてはいけないと思いました。それで先生の居る刑務所に差し入れをしたりしておりましたが、あるときから夢の中に現実ともとれる光景を見るようになったのです。沖縄で『ユタ』だった祖母が『夢のなかにお知らせがあるからよく覚えておけ』と言っていたことを思い出しました。私にも『ユタ』の血が流れていることは解っておりましたが、こういったことは初めてでした。ちなみに母はそういった霊感などはあまりないようでしたが、岡山の土地に合わなかったのか、連れ合いとは離婚して、東京蒲田の駅前にある居酒屋で働きながら元気に暮らしております」

◇それから夢で見たことを書いて和賀英良に送ったのですね。
「それが、そうではなく母からその親子の話を聞く前には送っていたのです。手紙には夢で見たままの状況を書きました。自分は雑文を書くのが趣味ですので、よくある三文小説の安っぽい文章のようになってしまいましたが、内容は夢でありながら写実的で目の前で見たような出来事でした」

◇和賀が獄中で亡くなったことはご存じでしたか?
「はい、つい最近知りました。母もまだ存命中なので、二人とも悲しい気持ちでいっぱいです。あの夢の内容からすると、和賀先生はお一人で事件を起こしたのではなく、共犯者や背後になにか大きな動きがあったような気もいたしますが、私たちには何も申すことはございません。私が和賀先生の気持ちを代弁するような役割を演じているような、そんな思いもありますが、今となっては先生のご冥福をお祈りするだけでございます。

◇聞くところによると和賀英良は父親の千代吉のお墓に一緒に埋葬されたそうです。
「(号泣しながら)それは……や、やっとお父様と一緒になれたのですね。教えていただいてよかったです。母にもそのように伝えておきます。少しでも時間があるとあの映画を見て、そして先生を思い出しながら一人で泣いております。合掌」

今西遼平記聞

第37話: https://note.com/ryohei_imanishi/n/n2aa664a92426

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