今西 遼平

作家、ルポライターの今西 遼平(いまにしりょうへい)です。 元警視庁捜査一課の巡査部長…

今西 遼平

作家、ルポライターの今西 遼平(いまにしりょうへい)です。 元警視庁捜査一課の巡査部長「今西栄太郎」の次男として、 映画「砂の器」でよく知られた「国鉄蒲田操車場殺人事件」の犯人「和賀英良」のその後を追っています。

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固定された記事

映画 「砂の器」その後はどうなった? 後日譚として、続編を書く。

【連載】 「和賀英良」獄中からの手紙 がスタートしました。 2024年、それは映画「砂の器」公開から50年の節目。 ようやくその事件の全貌がここに明らかになる。 有罪…

今西 遼平
1か月前
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「和賀英良」獄中からの手紙(45)  ロサンゼルスの奇跡 New!

―ロサンゼルスの奇跡― 夏も終わろうとしていた日曜日の午後、吉村は高校の同窓会に出席するため目黒駅から坂を下った和風宴会場で有名なホテルに向かっていた。 吉村の…

今西 遼平
2日前

「和賀英良」獄中からの手紙(44)  ユタの予言  

―泡盛古酒とユタの予言― 銀座のギャラリーで田所重喜と出会った数日後、吉村は田所の秘書にアポイントを取り、等々力にある私邸に向かった。 しかし、その日に田所邸で…

今西 遼平
3日前
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「和賀英良」獄中からの手紙(43)  ギャラリーでの出会い 

―佐知子の個展― 銀座の「ギャラリー古藤」はすずらん通りの中ほどにあった。 外に面したガラス窓には車に貼るようなやや暗いフィルムが張ってあり、外からは中の様子が…

今西 遼平
4日前

「和賀英良」獄中からの手紙(42)  丹下の憂い

ー丹下恭二の憂いー 「ねえあなた、裕太の学費って振り込んでくれたんですか?」 丹下は夕食後に突然妻に問われて思い出した。そうだ、先週も言われたことをすっかり忘れ…

今西 遼平
11日前
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「和賀英良」獄中からの手紙(41)  吉村の推理

―吉村の推理― 蒲田操車場の事件では和賀英良が殺人罪で逮捕され裁判の結果、懲役15年の刑が確定し、控訴せず服役することとなった。 和賀は罪状を認め、三木謙一の殺害…

今西 遼平
12日前
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「和賀英良」獄中からの手紙(40)  紙吹雪の女  

―理恵子の役割― 小田急線の百合ヶ丘駅に近い高木理恵子の家は、踏切の音がはっきりと聞こえるほど線路の近くにあって、築四十年あまりの西日が当たる古いモルタル壁のア…

今西 遼平
13日前
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「和賀英良」獄中からの手紙(39)  パナマ帽の協力者 

―パナマ帽の協力者― 蒸し暑い夏の夜。時間は深夜十二時になろうとしていた。蒲田のトリスバーから出た和賀英良と三木謙一は操車場のほうに二人で歩き始めた。 この時間…

今西 遼平
2週間前
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「和賀英良」獄中からの手紙(38)  京都・亀岡での生活  

少年時代のお話になりますが、少し書いてみます。 長くなりますがお付き合いください。 ―京都・亀岡での生活― 大阪での空襲のあと「和賀英良」という名前を戸籍上使う…

今西 遼平
2週間前
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「和賀英良」獄中からの手紙(37)  秘密の広場  

―上野公園は「好色の森」― しばらくご無沙汰しております。 今日は少し上野公園のことを書いてみます。 まったくの雑文でございますので何卒ご容赦ください。 烏丸先生…

今西 遼平
2週間前
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「和賀英良」獄中からの手紙(36)  田島藍子との対話 

■ 田島藍子さんとの対談【世田谷区太子堂田島家にて】 ◇初めまして、私は『和賀英良からの手紙』という本を執筆中の今西遼平と申します。本日はよろしくお願いいたしま…

今西 遼平
2週間前
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「和賀英良」獄中からの手紙(35)  しずのおだまき 

―しずのおだまき― 私が烏丸教授と知り合ったのは東京のある場所、正確に言うと上野の会員制のバーでした。「あーとのーと」というちょっと変わった名前の店で、芸術家が…

今西 遼平
2週間前
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「和賀英良」獄中からの手紙(34)  田島藍子が見た夢 

拝啓 和賀先生、ご無沙汰しております。世田谷の田島藍子でございます。 こういった寒い時期になりますと、先生が刑務所の中でどのように過ごされているのかとても気にな…

今西 遼平
2週間前
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「和賀英良」獄中からの手紙(33)  不安と焦燥  

―アンビバレントな芸術家― 和賀は自宅リビングのソファーに寝転がって煙草を吸いながら考え込んでいた。そして自分を取り巻いている人の心の動きを整理しようと、必死…

今西 遼平
3週間前
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「和賀英良」獄中からの手紙(32)   ふたりの攻防

―猫にリボン― 大蔵大臣である田所重喜の娘、佐知子は和賀に遠回しに結婚を迫るが、いつもはぐらかされていた。 佐和子は和賀が飼っている子猫の首に青色のリボンを付け…

今西 遼平
3週間前
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「和賀英良」獄中からの手紙(31)  佐知子の危惧    

―「ごんぎつね」撃たれて当然― 佐知子は等々力の自宅の部屋でベッドに寝ころがりながら、和賀との関係をぼんやりと考えていた。 それは親密な関係でありたいと思う反面…

今西 遼平
3週間前
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映画 「砂の器」その後はどうなった?  後日譚として、続編を書く。

映画 「砂の器」その後はどうなった? 後日譚として、続編を書く。

【連載】 「和賀英良」獄中からの手紙 がスタートしました。

2024年、それは映画「砂の器」公開から50年の節目。
ようやくその事件の全貌がここに明らかになる。

有罪判決を受け収監された犯人「和賀英良」は獄中で死亡。
当時捜査に当たった今西刑事も昨年ガンでこの世を去った。

若手だった吉村刑事は警察を退職。後に事件で知り合った「田所佐知子」と結婚、政界に進出して華々しく活躍、そして引退。

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「和賀英良」獄中からの手紙(45)  ロサンゼルスの奇跡  New!

「和賀英良」獄中からの手紙(45)  ロサンゼルスの奇跡 New!

―ロサンゼルスの奇跡―

夏も終わろうとしていた日曜日の午後、吉村は高校の同窓会に出席するため目黒駅から坂を下った和風宴会場で有名なホテルに向かっていた。

吉村の通っていた高校は目黒と蒲田の間にある武蔵小山駅のすぐ目の前にあった。高校のうたい文句は「日本で駅から一番近い高校」であり、駅から十分でなく「駅から十歩」。駅改札口を挟んですぐに校門がある。そんな東京の伝統ある都立高校で、都内でも有数の進

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「和賀英良」獄中からの手紙(44)  ユタの予言   

「和賀英良」獄中からの手紙(44)  ユタの予言  

―泡盛古酒とユタの予言―

銀座のギャラリーで田所重喜と出会った数日後、吉村は田所の秘書にアポイントを取り、等々力にある私邸に向かった。

しかし、その日に田所邸で起こったことは、自分にとってまったく予期していないことであり、理性的な判断を信条としている吉村にとってはまったく理解できないことだった。

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「和賀英良」獄中からの手紙(43)  ギャラリーでの出会い 

「和賀英良」獄中からの手紙(43)  ギャラリーでの出会い 

―佐知子の個展―

銀座の「ギャラリー古藤」はすずらん通りの中ほどにあった。

外に面したガラス窓には車に貼るようなやや暗いフィルムが張ってあり、外からは中の様子があまり見えない。

ギャラリーらしくないブロンズ色のアルミドアをあけると、そこは十坪ほどの空間があり、中央にいくつかあるデコラ張りの小テーブルの上に、作品がさりげなく並べてあった。

田所佐知子は東京藝大彫刻科を卒業後は、等々力の実家で

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「和賀英良」獄中からの手紙(42)  丹下の憂い

「和賀英良」獄中からの手紙(42)  丹下の憂い

ー丹下恭二の憂いー

「ねえあなた、裕太の学費って振り込んでくれたんですか?」

丹下は夕食後に突然妻に問われて思い出した。そうだ、先週も言われたことをすっかり忘れていた。息子の大学の学費の納入は今月の末までだった。

「前期分の振り込み、あなたのほうから必ずお願いしますね」

妻の百合子は、汚れた食器を洗いながら突き放すように言った。手元の茶碗が他の食器とぶつかる音が「ガチャガチャ」と大きな音を

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「和賀英良」獄中からの手紙(41)  吉村の推理

「和賀英良」獄中からの手紙(41)  吉村の推理

―吉村の推理―

蒲田操車場の事件では和賀英良が殺人罪で逮捕され裁判の結果、懲役15年の刑が確定し、控訴せず服役することとなった。

和賀は罪状を認め、三木謙一の殺害は一人で実行したこと、そしてその動機は自分の出自が世の中に公表されることを恐れてのことだと自供した。

西蒲田警察署刑事課巡査の吉村弘は、なにか釈然としない面持ちで毎日を過ごしていた。吉村は今日も一人で酒を飲んで十二時過ぎに布団に入っ

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「和賀英良」獄中からの手紙(40)  紙吹雪の女   

「和賀英良」獄中からの手紙(40)  紙吹雪の女  

―理恵子の役割―

小田急線の百合ヶ丘駅に近い高木理恵子の家は、踏切の音がはっきりと聞こえるほど線路の近くにあって、築四十年あまりの西日が当たる古いモルタル壁のアパートだった。

蒲田の操車場近くで盗んだ自転車で、百合ヶ丘まで二時間ほど走った和賀は、近くに自転車を打ち捨てて、錆びた鉄製の階段を上り二階にある理恵子の部屋に転がり込んだ。

途中で警官に出くわさなかったのは幸運だった。三木を始末したと

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「和賀英良」獄中からの手紙(39)  パナマ帽の協力者 

「和賀英良」獄中からの手紙(39)  パナマ帽の協力者 

―パナマ帽の協力者―

蒸し暑い夏の夜。時間は深夜十二時になろうとしていた。蒲田のトリスバーから出た和賀英良と三木謙一は操車場のほうに二人で歩き始めた。

この時間になると操車場周辺はまったく人の気配がなく、そこは遠くで犬が吠えている鳴き声がかすかに聞こえる、不気味な闇に支配されたような無機的な場所であった。

和賀英良は彼の暗い過去を知っている狡猾な老人、三木謙一を残酷な結末へと導くつもりだった

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「和賀英良」獄中からの手紙(38)  京都・亀岡での生活   

「和賀英良」獄中からの手紙(38)  京都・亀岡での生活  

少年時代のお話になりますが、少し書いてみます。
長くなりますがお付き合いください。

―京都・亀岡での生活―

大阪での空襲のあと「和賀英良」という名前を戸籍上使うようになった自分は、ある篤志家の援助で京都府亀岡市の邸宅に身を寄せていました。

その篤志家の家には子供がおらず、聞くところによると戦時中に一人息子が病死されていたようで、孤児として各地を彷徨っていた私を、家に置いてくれたのです。

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「和賀英良」獄中からの手紙(37)  秘密の広場  

「和賀英良」獄中からの手紙(37)  秘密の広場  

―上野公園は「好色の森」―

しばらくご無沙汰しております。
今日は少し上野公園のことを書いてみます。
まったくの雑文でございますので何卒ご容赦ください。

烏丸先生と漢の契りを交わしてから、上野周辺の話をよくするようになりました。昼にご飯を食べに行くのは上野の公園の中にある西洋料理の精養軒、ゆっくり話したいときは、東京文化会館の二階にあるその支店で「チャップスイ」という中華丼のようなものをよく食

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「和賀英良」獄中からの手紙(36)  田島藍子との対話 

「和賀英良」獄中からの手紙(36)  田島藍子との対話 

■ 田島藍子さんとの対談【世田谷区太子堂田島家にて】

◇初めまして、私は『和賀英良からの手紙』という本を執筆中の今西遼平と申します。本日はよろしくお願いいたします。
「こちらこそよろしくお願いいたします」

◇事前にご説明しておりますが、和賀英良宛の田島さんのお手紙が先日発見されました。まずは和賀氏とのご関係を教えていただけないでしょうか。
「はい、私は和賀先生の大ファンでした。そのきっかけは

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「和賀英良」獄中からの手紙(35)  しずのおだまき 

「和賀英良」獄中からの手紙(35)  しずのおだまき 

―しずのおだまき―

私が烏丸教授と知り合ったのは東京のある場所、正確に言うと上野の会員制のバーでした。「あーとのーと」というちょっと変わった名前の店で、芸術家が集まるという触れ込みの、上野というより元浅草に近い東上野のゲイバーでした。

こういう上野界隈や会員制というキーワード、そういったところに踏み込む輩たちということで、すぐに想像できる方も多いと思いますが、私は実際のところ「男色」があるので

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「和賀英良」獄中からの手紙(34)  田島藍子が見た夢 

「和賀英良」獄中からの手紙(34)  田島藍子が見た夢 

拝啓

和賀先生、ご無沙汰しております。世田谷の田島藍子でございます。

こういった寒い時期になりますと、先生が刑務所の中でどのように過ごされているのかとても気になります。先日こちらから座布団の差し入れをさせていただきましたが、届いておりますでしょうか。なにかお役に立っていれば嬉しく存じます。

本日の真夜中に急に目覚めました、それは実際に目の前で展開されるような事件の生々しいフラッシュバックがあ

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「和賀英良」獄中からの手紙(33)  不安と焦燥  

「和賀英良」獄中からの手紙(33)  不安と焦燥  


―アンビバレントな芸術家―

和賀は自宅リビングのソファーに寝転がって煙草を吸いながら考え込んでいた。そして自分を取り巻いている人の心の動きを整理しようと、必死に頭を巡らせていた。

佐知子はいつものようにリボンを着けた子猫と遊んでいる。

愛人である理恵子の存在を佐知子は知っている。つまり父親の田所も知っているに違いない。田所は一人娘の佐知子からそれを聞いて、娘の敵である愛人の存在さえも消そ

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「和賀英良」獄中からの手紙(32)   ふたりの攻防

「和賀英良」獄中からの手紙(32)   ふたりの攻防

―猫にリボン―

大蔵大臣である田所重喜の娘、佐知子は和賀に遠回しに結婚を迫るが、いつもはぐらかされていた。

佐和子は和賀が飼っている子猫の首に青色のリボンを付けた。

和賀はそんな佐和子の抑圧された心情をなにも理解していなかった。
佐和子は、キジトラの子猫を胸元に抱きながら言った。

「ねえ、英良さん、パパは早く結婚しろって、もう週刊誌のゴシップ記事はイヤ!」

「私はあなたとなら幸せになれる

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「和賀英良」獄中からの手紙(31)  佐知子の危惧    

「和賀英良」獄中からの手紙(31)  佐知子の危惧    

―「ごんぎつね」撃たれて当然―

佐知子は等々力の自宅の部屋でベッドに寝ころがりながら、和賀との関係をぼんやりと考えていた。

それは親密な関係でありたいと思う反面「深入りしてはいけない」とささやく小さな声が自分を押しとどめていた。

和賀はまさに時代の寵児で、前衛的な作品を書かせたら右に出る者はいない作曲家。しかしながら、その表面的な輝かしい業績の裏に、なにか隠された暗黒の闇を感じる時がある。

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