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映画 「砂の器」その後はどうなった? 後日譚として、続編を書く。
【連載】 「和賀英良」獄中からの手紙 がスタートしました。
2024年、それは映画「砂の器」公開から50年の節目。
ようやくその事件の全貌がここに明らかになる。
有罪判決を受け収監された犯人「和賀英良」は獄中で死亡。
当時捜査に当たった今西刑事も昨年ガンでこの世を去った。
若手だった吉村刑事は警察を退職。後に事件で知り合った「田所佐知子」と結婚、政界に進出して華々しく活躍、そして引退。
「和賀英良」獄中からの手紙(45) ロサンゼルスの奇跡 New!
―ロサンゼルスの奇跡―
夏も終わろうとしていた日曜日の午後、吉村は高校の同窓会に出席するため目黒駅から坂を下った和風宴会場で有名なホテルに向かっていた。
吉村の通っていた高校は目黒と蒲田の間にある武蔵小山駅のすぐ目の前にあった。高校のうたい文句は「日本で駅から一番近い高校」であり、駅から十分でなく「駅から十歩」。駅改札口を挟んですぐに校門がある。そんな東京の伝統ある都立高校で、都内でも有数の進
「和賀英良」獄中からの手紙(44) ユタの予言
―泡盛古酒とユタの予言―
銀座のギャラリーで田所重喜と出会った数日後、吉村は田所の秘書にアポイントを取り、等々力にある私邸に向かった。
しかし、その日に田所邸で起こったことは、自分にとってまったく予期していないことであり、理性的な判断を信条としている吉村にとってはまったく理解できないことだった。
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「和賀英良」獄中からの手紙(43) ギャラリーでの出会い
―佐知子の個展―
銀座の「ギャラリー古藤」はすずらん通りの中ほどにあった。
外に面したガラス窓には車に貼るようなやや暗いフィルムが張ってあり、外からは中の様子があまり見えない。
ギャラリーらしくないブロンズ色のアルミドアをあけると、そこは十坪ほどの空間があり、中央にいくつかあるデコラ張りの小テーブルの上に、作品がさりげなく並べてあった。
田所佐知子は東京藝大彫刻科を卒業後は、等々力の実家で
「和賀英良」獄中からの手紙(42) 丹下の憂い
ー丹下恭二の憂いー
「ねえあなた、裕太の学費って振り込んでくれたんですか?」
丹下は夕食後に突然妻に問われて思い出した。そうだ、先週も言われたことをすっかり忘れていた。息子の大学の学費の納入は今月の末までだった。
「前期分の振り込み、あなたのほうから必ずお願いしますね」
妻の百合子は、汚れた食器を洗いながら突き放すように言った。手元の茶碗が他の食器とぶつかる音が「ガチャガチャ」と大きな音を
「和賀英良」獄中からの手紙(38) 京都・亀岡での生活
少年時代のお話になりますが、少し書いてみます。
長くなりますがお付き合いください。
―京都・亀岡での生活―
大阪での空襲のあと「和賀英良」という名前を戸籍上使うようになった自分は、ある篤志家の援助で京都府亀岡市の邸宅に身を寄せていました。
その篤志家の家には子供がおらず、聞くところによると戦時中に一人息子が病死されていたようで、孤児として各地を彷徨っていた私を、家に置いてくれたのです。
こ
「和賀英良」獄中からの手紙(36) 田島藍子との対話
■ 田島藍子さんとの対談【世田谷区太子堂田島家にて】
◇初めまして、私は『和賀英良からの手紙』という本を執筆中の今西遼平と申します。本日はよろしくお願いいたします。
「こちらこそよろしくお願いいたします」
◇事前にご説明しておりますが、和賀英良宛の田島さんのお手紙が先日発見されました。まずは和賀氏とのご関係を教えていただけないでしょうか。
「はい、私は和賀先生の大ファンでした。そのきっかけは
「和賀英良」獄中からの手紙(34) 田島藍子が見た夢
拝啓
和賀先生、ご無沙汰しております。世田谷の田島藍子でございます。
こういった寒い時期になりますと、先生が刑務所の中でどのように過ごされているのかとても気になります。先日こちらから座布団の差し入れをさせていただきましたが、届いておりますでしょうか。なにかお役に立っていれば嬉しく存じます。
本日の真夜中に急に目覚めました、それは実際に目の前で展開されるような事件の生々しいフラッシュバックがあ
「和賀英良」獄中からの手紙(33) 不安と焦燥
―アンビバレントな芸術家―
和賀は自宅リビングのソファーに寝転がって煙草を吸いながら考え込んでいた。そして自分を取り巻いている人の心の動きを整理しようと、必死に頭を巡らせていた。
佐知子はいつものようにリボンを着けた子猫と遊んでいる。
愛人である理恵子の存在を佐知子は知っている。つまり父親の田所も知っているに違いない。田所は一人娘の佐知子からそれを聞いて、娘の敵である愛人の存在さえも消そ
「和賀英良」獄中からの手紙(32) ふたりの攻防
―猫にリボン―
大蔵大臣である田所重喜の娘、佐知子は和賀に遠回しに結婚を迫るが、いつもはぐらかされていた。
佐和子は和賀が飼っている子猫の首に青色のリボンを付けた。
和賀はそんな佐和子の抑圧された心情をなにも理解していなかった。
佐和子は、キジトラの子猫を胸元に抱きながら言った。
「ねえ、英良さん、パパは早く結婚しろって、もう週刊誌のゴシップ記事はイヤ!」
「私はあなたとなら幸せになれる
「和賀英良」獄中からの手紙(31) 佐知子の危惧
―「ごんぎつね」撃たれて当然―
佐知子は等々力の自宅の部屋でベッドに寝ころがりながら、和賀との関係をぼんやりと考えていた。
それは親密な関係でありたいと思う反面「深入りしてはいけない」とささやく小さな声が自分を押しとどめていた。
和賀はまさに時代の寵児で、前衛的な作品を書かせたら右に出る者はいない作曲家。しかしながら、その表面的な輝かしい業績の裏に、なにか隠された暗黒の闇を感じる時がある。