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Le jardin de l’écriture :#8 エデンの園

〜このシリーズについて(全10回)〜
本シリーズはフランス文学をフランス語で読み、作品にちなんだ課題についてフランス語で書くことを通してフランス語の表現を楽しむというものです。オリジナル記事は全てフランス語のため、今回邦訳をつけて再編集しました。
再掲載に際しては、収録する作品を再度見直し、未公開分の2作品を加えて、全10話としました。
本編は、拙作の仏作文のみ掲載しています。拙いフランス語ではありますが、フランス語学習中の方々の一助、あるいは励みになれば嬉しいです。


Maryse Condé マリーズ・コンデは1937年、カリブ海のフランス領グアダループに生まれ、16歳の時にパリへ移住した。ソルボンヌ大学で英文学を学んだ後、1959年にギニア人の俳優ママドゥ・コンデと結婚し、ギニアで四人の子供とともに暮らしたが、のちに離婚。

1973年に再びパリへ戻り、その3年後、初の小説となる『Heremakhonon』を発表する。1981年に二度目の夫となるRichard Philcoxと結婚後、大学で教鞭をとりながら小説家としてのキャリアを積んだ。コロンビア大学でフランス文学を教えていたが、その後三度渡仏した。

本作『L’évangile du nouveau monde』(『新しき世界の福音』拙訳による仮題)は2021年に発表された作品である。


Pâques 復活祭の日曜日の夜、この世で最も美しいバラを作る園芸家であるBallandra バランドラ夫妻の庭に一人の新生児が置き去りにされていた。とても愛らしく、褐色の肌にカリブ海のような灰緑色の目の赤ん坊。しかし、この子は一体どこからやってきたのだろうか。あるいは、神の子か。


C’est une terre entourée d’eau de tout les côtés, une île, (…)
La nuit où Il naquit, Zebulon et Zapata se battaient dans le mitan du ciel, décochant des rais de lumière à chacun de leurs gestes.

 それは四海に囲まれた大地、島。(中略)
 主が生まれた夜、サビュロンとサパタは天空で戦いを繰り広げ、二人が動くたびに閃光が飛び散っていた。

< 日本語は拙訳 >


冒頭と、それに続く情景描写がとても美しい。

読解力を鍛えるために、文法や語彙力の向上は欠かせないけれども、「読む」という行為だけに注目すると、よい文章は感受性や表現力を豊かにしてくれるということがよくわかる。

それは同時に、「書く」という表現へも波及し、読み書きという行為が単なる文章力の鍛錬に止まらず、より豊かな感情や感性の表出につながっていることを表している。



Le jardin de l’écriture

〜エクリチュールの庭〜


<第8回> Writing 課題仏作文
自分に馴染みがある場所について書いてみよう。良し悪しに関わらず、なぜ好きなのか、印象に残った理由について説明してみよう。

*  *  *

L’Éden


 Quand je suis venue au monde, ma famille possédait une vigne. Je ne me souviens de rien, mais il y a des photos où je mangeais des raisins sur la terrasse, éparpillant des grains et des peaux. J’avais deux ans. Après que mes grand-parents ont arrêté la vigne, ils plantaient des cyprès là-bas. Les arbres se développaient avec moi.

 Chaque fois que mon père y allait, je le suivais toujours. À côté d’un petit temple, il y avait un sentier sinueux. On n’entendait que des voix des oiseaux et des sons feuilles flottantes. Le sentier pierreux continuait jusqu’à la vigne. À cette époque-là, les arbres étaient moins grands que maintenant, alors le sentier n’était pas tellement ombragé.

 En chemin, il y avait un petit sentier. Tournant à gauche, une roche m’attendait. Le sommet de la roche était plat, et le soleil rivait ses rayons sur elle. Je la montais et descendais sans me lasser. Lorsque j’étais fatiguée de jouer, je dormais sur le sommet.

 Un ruisseau coulait près d’ici. Il étais très calme et très limpide. Un jour, mon père planta des wasabis qui ne pouvaient vivre que dans l’eau tellement pure. Quand ils grandissaient assez bientôt, quelqu’un les déracina complètement et les vola. Mon père planta de nouveau l’année suivante. Cette fois-ci, il faisait la clôture en bois pour faire savoir que les wasabis ne poussaient pas naturellement, mais étaient cultivés. Pourtant, le voleur la franchit et les arracha. L’année suivante, c’était la même chose. Finalement, mon père arrêtait de planter des wasabis.

 Plusieurs années après, une chaussé non pavée se construisait traversant notre vigne d’autrefois. Au plus profonde des montagnes, des camions commençaient à faire l’aller et retour, pas afin de développer, mais de couper des arbres et d’extraire la terre pour matériaux de construction.

Je n’y allais plus comme auparavant.


エデンの園


私がこの世に生まれたとき、家族は葡萄園を所有していた。私には何の記憶もないけれど、テラスで葡萄の種と皮を撒き散らしながら葡萄を食べている証拠写真が残っている。私が二歳の時だ。祖父母が葡萄園をやめたあと、そこには杉の木が植えられた。杉の木たちは私とともに大きくなっていった。

葡萄園があった場所へ父が出かけるたびに、私はついて行った。小さな神社の脇に曲がりくねった小道があった。聞こえてくるのは、鳥の囀りと木の葉の擦れる音だけ。その砂利道は葡萄園まで続いていた。その頃はまだ今のように木が大きくなかったので、小道はそれほど鬱蒼としてはいなかった。

道すがら小さな脇道があり、それを左に曲がると、岩が一つあった。岩の天辺は平らになっていて、そこに陽の光が差し込んでいた。私は飽きることなく、その岩を登ったり降りたりして遊んた。やがて遊び疲れると、岩の上で眠るのだった。

岩の近くには小川が流れていた。とても穏やかで、澄んだ流れであった。ある日のこと、父はそこに山葵わさびを植えた。山葵は清流でしか育たない。まもなく収穫できるほどに育った頃、誰かが根こそぎ引き抜いていった。翌年、父はもう一度山葵を植えた。今度は、木で柵を拵えた。天然ではなく、栽培しているということを知ってもらうためだった。ところが、盗人は柵を乗り越え、山葵を根っこごと盗んでいってしまったのである。その翌年も同じだった。そして、とうとう父は、山葵を植えるのを諦めてしまった。

それから数年が経ち、かつて葡萄園があった場所には舗装されていない道路が貫通した。そうしてさらに山の奥までトラックが行き来し始めた。それは開発のためではなく、木材の伐採と土砂の採取が目的であった。

 私はもう、かつてのように葡萄園を訪れることはなくなった。


< Sempé 風に描いてみた >


— FIN —


<第8回> Reading 読解
オリジナル記事の最後に本文の一部を掲載していますので、ご興味がある方はご参照ください ↓

《L’évangile du nouveau monde》Maryse Condé

※このシリーズの過去記事はこちら↓




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