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語学の散歩道#番外編 秋に佇む 〜星の言葉〜

先日、カンノーロと出会った喜びを思わず呟いたところ、ミランヨンデラさんが星座入りの「ビレロイ&ボッホ」を持っておられるという、非常に萌える話をしてくださいました。


星座入りのビレロイ…。
いい…。

当然、ここはググるところです。

もちろん、ググりました。

すると、どうでしょう、12星座のマグカップがずらりと勢揃いしたではありませんか。

当然全部揃えたくなりますが、ここは冷静になるところです。

スペースがありません。

夜空にはたくさんスペース宇宙があるというのに、私の食器棚には、スペース余白がありません。

だったら、せめて自分の星座くらいは手に入れたいと思うものですが、その前に当然ほかの星座のマグも気になるところです。


というわけで、一つずつ絵柄を確認してみることにしました。画像はすべて天の川ならぬアマゾン川からお借りしています。


まずは、牡牛座から。

< Taurus 牡牛座 >

威風堂々たる輝きを放っています。まさに闘う前の牡牛のような猛々しさです。


< Gemini 双子座 >

仲良く手を繋いで夜空を散歩しているような姿がとても微笑ましく見えます。


< Cancer 蟹座 >

ハサミのように夜空をトリミング。
Yを逆さにしたような形が意味深で蠱惑的です。


< Leo 獅子座 >

百獣の王の貫禄を湛えながら、堂々たる姿で夜空に君臨しています。


< Virgo 乙女座 >

た、倒れかけているところでしょうか。
そういえば、20世紀初頭までの小説ではよく淑女が気絶する場面があり、女性の繊細さやたおやかさが表現されたものです。


< Libra 天秤座 >

絶妙なバランス(フランス語で天秤の意)です。LIBRAの文字が秤に掛かっているのも前衛的です。


< Scorpion 蠍座 >

実物の恐ろしい姿とは裏腹に、金色こんじきの点と線に神秘的な美しさが宿っています。


< Sagittarius 射手座 >

複雑な線が、目の前の蠍を射止めようとするリズミカルで躍動感に溢れた動きを表しています。


< Capricorn 山羊座 >

マティスのような線描画が、見事にヤギの姿を描いています。これこそまさに夜空の野獣派フォーヴィズム


< Aquarius 水瓶座 >

水瓶から、水ならぬ星が豊かにこぼれ落ち、静かな流れを湛えています。


< Pisces 魚座 >

二匹の魚が、仲睦まじく優雅に天の海を泳いでいます。


さて、みなさまの星座マグはありましたでしょうか?

それでは、いよいよ私の星座である牡羊座の登場です。

< Aries 牡羊座 >

なにこれ…
ただの、直線やん…

まぁ、流れ星に、見えなくもない
まぁ、金継ぎに、見えなくもない

あるいはこれは、ブラックジャック…

<じっさいは一等星よりももっと何十倍も大きな星かもしれないんだ。世の中には六等星みたいに はえない人間がいくらでもいる>


なぜなのでしょう?
他のマグはどれも線が2本以上あるのに、一体なぜ牡羊座だけが1本線なのでしょう?


きっとこれは、そもそもの星座表に関係があるに違いありません。

そこで、そもそもの星座表を確かめてみることにしました。

< 黄道12宮の星座たち >

蟹の足が1本欠けた感がないでもないですが、どの星座もその名のとおり、星々が絵柄をなぞっています。いや、ちょっと待った!

Aries 牡羊座、どゆこと?

尻尾と角だけやん…
前脚と後ろ脚は、どこ行ったん?

というわけで、今回は長谷川義史氏とコラボです↓


…ではなくて、星座の話です。

一体これはどういうことなのでしょう?
逆さにへの字を書いただけの牡羊座
尻尾と頭の角を書いただけの牡羊座

さらに調べると、牡羊座は秋の星座だそうです。
ホロスコープでは3/21〜4/19頃が牡羊座です。

秋の星座なのに、なぜ占星術では春の星座なのでしょう?

私の頭は大混乱です。
子どもの頃に天体観測を1週間で諦めた悪夢がよぎります。

いっそのこと、近くの星を繋げて前脚と後ろ脚を描いたろかな?
そしたら、春の位置まで走って行けるかな?

そんなことをモヤモヤと考えていると、土木な、いえ素朴な疑問が湧いてきました。
それは、一体誰が星座を考え出したのか、ということです。


星座の名前はギリシャ神話に因んでいることから、私は長年ギリシャ人が星座を考案したと思っておりました。ところが、実際にはずっと古く、シュメール人の時代に羊飼いたちが星を見ながら星座を考え出したのだそうです。

普通に考えれば、星や月、太陽の位置が最も必要とされるのは海の上。これらの星や惑星の位置は自らの座標を示すGPSにほかなりません。しかしながら、よく考えてみると、砂漠や平原もまた、目印となる目標物が少ないために自らの位置情報が必要です。とくに季節的移動を生業とする遊牧民にとって、天体はカレンダーであり、地図でもあったわけです。

こうして羊飼いが時刻と位置の情報を得るために発明した星座は、やがてギリシャへ伝わり、神々の物語と結びついていきました。夜空にはギリシャ神話に登場する神やニンフなどの名前が冠せられた星座が今も夜空を旅しています。


秋になると、北の空にはカシオペア座が高く昇ります。

エチオピアの王妃カシオペアには、大変美しいアンドロメダという娘がおりましたが、あるとき、「私の娘は海のニンフたちより美しい」と自慢をしてしまったためにニンフたちの怒りを招いてしまいます。その噂が海の神ポセイドンの耳に入ると、海神は怒って海の怪物を海岸へ放ち、エチオピアの民を苦しめました。

困り果てたケフェウス王が神託に伺いをたてると、「娘のアンドロメダを生贄にせよ」とのお告げがあり、アンドロメダは海岸の岩場に鎖で縛りつけられてしまいます。そして、海の怪物に一飲みにされそうになったまさにその時、勇者ペルセウスに間一髪で助け出されました。このとき怪物から二人を救ったのが蛇の髪を持つメドゥーサの首でした。メドゥーサを見た者は石に変わると言われており、その首を見た怪物は見る間に石と化してしまったのでした。
最後には、アンドロメダはペルセウスと結ばれ、大団円となるわけですが、ギリシャ神話はいつもハッピーエンドとは限りません。

神々の姿は、地上の人間の姿と何ら変わることなく嫉妬や裏切りといった負の側面までも描かれており、そういうところにギリシャ神話の魅力があるのかもしれません。

ギリシャ神話はローマ神話と非常によく似ているのですが、時代的に見ておそらく前者が後者に強い影響を与えたものと思われます。登場する神々はほとんど同じですが、それぞれ名前が異なります。もちろん、なかには同じ名前の神もいますが、全能の神ゼウスはローマ神話ではユピテル、美の女神アフロディーテはヴィーナス、月の女神アルテミスはディアナ、そして海の神ポセイドンはネプチューン、という具合にまるで別人です。

人の名前を覚えることの苦手な私が、なぜギリシャの神々の名前をすらすらと覚えることができたのか、それは誰も興味のない世界七不思議の一つです。

いつかギリシャ神話について何か書きたいと思っていますが、ここでは一つだけ。それは、ギリシャ名とローマ名のどちらが好きか、というお話。


結論からいうと、私はギリシャ名が好きです。
ゼウスとユピテルでは間違いなくゼウスを選びますし、アテナとミネルヴァだと断然アテナを選びます(でも、ミネルヴァ書房さんは好きです)。アルテミスやポセイドンは、ディアナやネプチューンに比べると、ずっと神秘的な響きがします。難しいのはアフロディーテかヴィーナスか、という問題です。ルネサンスの画家ボッティチェリの『ヴィーナスの誕生』が、美の女神がアフロディーテであることを忘れさせるほど強烈な存在感を放っているからです。

フランスの作家フレッド・ヴァルガスは、作品名に『Sous les vents de Neptune(邦訳:ネプチューンの影)』とローマ名を使用しました。彼女は考古学者でもあるのですが、三叉槍(三又の矛)を持つ神といえばポセイドンだと思っていた私は、シヴァ神が沙悟浄(沙悟浄の武器は正確には月牙鏟ですが)に変わったのかと思うほど驚いてしまいました。

もちろん、どちらが正しいという話ではないのですが、名は体を表す、とよく言われるように、ギリシャ語とローマ(ラテン)語の響きの違いは、神々の印象すら変えてしまいます。


三年前、最後の猫たちが天を飾ってからというもの、実家は火が消えたような侘しい佇まいを呈しておりました。そこで、ある日、サバトラを譲り受けて実家へ連れて行きました。サバと聞くと私の頭の中ではすぐにÇa va?(フランス語で「元気」などの意)と変換されてしまうのですが、初版のまま、もう長いこと更新されていない語彙力の父親から、あっさり「シマ」と名付けられました。先代の猫にもシマと呼ばれた猫がいましたが、こちらはキジトラでした。どうやら縞模様の猫は誰であれ、シマという名を襲名するのが習わしのようです。


さて、こうして迎えられた新米のシマが真っ先にしたことは、暖かいベッドの上で寝ることでした。それまでは半野良で、ご飯と愛情だけを貰っていた彼は、初めての寝床に安らぎを見出しているようでした。

最初は話しかけても何も答えず、ただニコニコと甘えてくるだけでしたが、やがて名前を呼ぶと、「ちょっと待って!今行くから!」と大きな声で叫びながら、遠くから駆けつけてくるようになりました。言葉が通じるっていいものだな、そう思いました。そうして駆け寄ってくると、申しわけ程度にくっついた短い尻尾をピコピコと全力で振りながら足元に擦り寄り、全身で喜びを表そうとします。その様子を見ながら、言葉では表現されない多くの意思や感情を私たちは案外見逃してしまっているかもしれない、という事実にもまた気づかされたのでした。


もしかしたら、遠く何億光年も彼方から降り注ぐ星の光も、私たちに何かを伝えようとしているのかもしれません。

その星たちの言葉を翻訳するのが、きっと占星術なのでしょう。


どうか、牡羊座のマグカップの言葉も翻訳してください…


<語学の散歩道>シリーズ 番外編〜星の言葉〜

※このシリーズの過去記事はこちら↓


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