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<ロダンの庭で> USBメモリと私

人の出会いとは、不思議なものである。

おそらく多くの人にとって、相性の良い美容師と歯医者は見つけるのは難しい。

私は虫歯がないので、歯医者とはとんと縁がないが、美容師の方は長いことノマドだった。


ところが、偶然入った店でようやくお気に入りの美容師と出会った。途中何回か担当者が変わったが、かれこれもう二十年以上通っている。


ある日のこと、フランスでの短期研修から戻ってきた担当の美容師さんが、水を得た魚のように生き生きしていた。実をいえば、ここ数ヶ月どこか塞いでいるように見えたので心配していたのだ。

本場の風に触れたことが彼の感性に大きな影響を与えたようだった。

その興奮冷めやらぬ姿を見て、私はふと小さなガイドブックを作ってプレゼントしようと思い立った。
こうして、40ページほどのスケッチを書き上げ、次の予約の日に持っていった。

この思いがけない贈り物は予想以上に喜ばれ、私はすっかり嬉しくなった。

そして、嬉しい出来事はこれだけではなかった。


「先日こんな本をいただいたんですよ!」
と、彼は自分のお客さんへ私のスケッチブックを紹介してくれていたのである。

その中の一人が、フレンチ・ビストロの女性シェフ。私が描いたブダン・ノワールが彼女の店で出されていると聞き、それから間もなく私は彼女の店を訪れた。オープンカウンターの内側で料理と給仕を一人でこなすかたわら、客との会話も忘れない。ワインも料理も美味しく、何よりシェフの細やかな気遣いが心に沁みる素敵な店だった。スケッチブックが繋いだ縁である。


スケッチブックは、やがて彼のお客さんの間でちょっとした話題になっていった。気をよくした私は2冊目を作成し、今度はシェフにも渡したいと思って、原稿のコピーを貼ったスクラップブックを二人に贈った。

3冊目、4冊目と、私は美容師さんや彼のお客さんが楽しんでいる姿を想像しながら、次々に書き上げていった。しかし本当は、自分が一番楽しんでいたのかもしれない。


この出来事があって以来、友人や知人にも折に触れてスケッチブックを贈った。私は、書くことの楽しさを久しぶりに思い出した。

書きたくとも書けなかったスランプが慢性化し、表現することの楽しさを私はもう長いこと忘れていた。


そんなある日、本屋で一冊の本を見つけた。ちょうど自分のブログを書きたいと思いはじめていた頃で媒体となるプラットフォームを探していたのだが、自分のイメージするものがなかなか見つからずにいた。シンプルで書きやすく、絵や写真などが自分好みに配置でき、広告がなく、無料で使用できるものならさらにいい。
これがnoteとの出会いだった。


はじめは使い方がわからず記事を投稿するだけだったが、しだいにコメントを通じて交流が広がっていった。


noteでの住環境が激変したのは、ウミネコ制作委員会さんとの出会いだった。つないでくれたのは、ジェーンさんである。

そこからあれよあれよという間に交流が深まり、とうとう文学フリマに参加するまでになった。

お会いできたnoterたちさんへ名刺がわりにと例のスケッチブックを渡したところ、これはぜひ本にするべきだとなんと全員が口を揃えて言われたのである。これは驚くべきことだった。


私は、自分の書いたものを書籍化することにほとんど関心がない。
なぜなら、本にしたところで私なら買わないからである。なぜ買わないのかといえば、それは、

自分で書けるから。


これは、重要な点である。

私のスケッチブックは、私が贈りたいと思った人たちへ渡したからこそ喜んでいただけたのだと思っている。

しかし、書籍化するということは、不特定多数の人に有料で販売するということである。はたして自分の本にどれほどの金銭的価値があるのか。それに、世の中には私よりも絵も文も上手く、知識豊かな人たちが大勢いる。そんな中で私の本は手にとってもらえるのか。


私は、この点について随分と考えた。
そして考え抜いたあげく、ウミネコ制作委員会さんへ画像を送ってみた。

すると、想像以上の好評をいただき、私はここでも背中を押された。

そのとき、ふと気がついた。

私は、この作品に金銭的価値があるかどうかということにこだわりすぎてやしないか。
最初のスケッチブックを書いた日から5年。
この間に出会った人々の笑顔を思い出しながら、一歩前に出てみようかなという気持ちになった。

もしかしたら、もっと多くの人を笑顔にできるかもしれない。
そう思うと、なんともいえない気持ちが心の内に込み上げてきた。
応援してくれた人たちの声が力強く響く。


私は、勇気を持って踏み出した。
作業が進む度に編集長から連絡をいただき、私は手作りの作品が本という作品になることに、しだいに喜びを見出していった。


そうして昨日、見本が届いた。
私はその小さな本を手に取って、大きな感動を覚えていた。

この本は、私が出会った人たちの思い出が詰まったUSBメモリだ。

こうして、完成したUmineko Sketch Book。
どうか皆さまのもとへも笑顔が届けられますように。



注)観葉植物とペーパーウェイトは非売品です。




<よくあるQ&A>

Q.どこで買えますか?
A.5月19日(日)に開催される文学フリマ東京*ウミネコ制作委員会さんのブース(た20)です。

Q.ネットでも買えますか?
A.ウミネコ制作委員会さんのBASE、およびBOOTHでネット購入**できます。

Q.いつからネット販売されますか?
A.近々…
(ウミネコ制作委員会さんにお問合せください)

Q.①とありますが、シリーズ化されるのでしょうか?
A.た、たぶん…
(ウミネコ制作委員会さんにお問合せください)

Q.ズバリ、面白いですか?
A.ど、どうでしょうか…
(ウミネコ制作委員会さんにお問合せください)

*2024年度より入場料(1,000円)あり
**2,000円以上の購入で送料無料


本書の制作および版権は、すべてウミネコ制作委員会さんへ委ねております。私個人では販売しておりませんので、万が一購入を希望される方がおられましたら、ウミネコ制作委員会さんへお問い合わせください。

というわけで、ぼんらじ編集長、殺到するであろう問い合わせを受け止めてください(笑)!


<ロダンの庭で>シリーズ(5)

※このシリーズの過去記事はこちら↓


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