旭ヶ丘の政治家 第二話 教祖様

真子は私を教祖様に仕立て上げる気だ。しかし、動画サイトのアクセスは増えない。最低な二桁。「何でこんなに伸びないんだろ? おかしいよ」
真子も困っているようだ。
「お前が信者を増やさないからだよ!」
私は真子に怒鳴った。すると、彼女はまた私のパソコンの画面を見つめて言った。
「あー、分かった! 信者さんたちに、もっと面白いことすると言っておくね。例えば……
そう言うと、真子は自分のスマホを手に取った。そして、誰かに電話を掛け始めたのだ。
「もしもし? こんにちは~。ちょっと聞きたいんだけどぉ。『教祖様』っていうのが居たらどう思う?」
いきなりとんでもない質問を始めた真子を、私は唖然と見つめた。彼女の声がスピーカーを通して聞こえてくる。
「えぇっ!? そんなの決まってるじゃん! 超嬉しいよ!! だって、神様みたいなもんじゃない!!」
「へぇ……。じゃあ、その人のことを好きになったりする?」
「当たり前じゃん! むしろ、崇拝するよ!」
「そっかぁ……ありがと。参考になったわ」
真子が会話を終える。一体誰と話したのか分からなかったが、真子の熱の入れようは異常に近い。
まるで、本当に神と話しているような感じだった。
「おい、今の誰と話してたんだよ?」
私が訊ねると、真子は笑顔を浮かべながら答えた。
「芸能界の友達だよ。今度、その子お祈りにくるよ」
……は?」
「だから、『教祖様』に会いに来るってば」
「いやいや、何考えてんだよ!? 絶対止めろ!!」
「私は真子の一億ボルトの瞳に魅了されてしまう。こうして、私は『教祖様』になってしまったのであった。それはいいが信者が10人前後の世界である。
「芸能界の友達だよ。今度、その子お祈りにくるよ」
……は?」
「だから、『教祖様』に会いに来るってば」
「いやいや、何考えてんだよ!? 絶対止めろ!!」
「私は真子の一億ボルトの瞳に魅了されてしまう。こうして、私は『教祖様』になってしまったのであった。それはいいが信者が10人前後の世界である。これはこれで寂しい。
私は考えた。どうしたら信者を増やせるのか? そして、思いつく。そうだ、インターネットだ! ネットで宣伝すればいいのだ!! しかし、私にはその知識がない。困ったものだ。でも大丈夫、真子ちゃんなら。スマートフォンがあるじゃない。
早速、スマートフォンからホームページを作ることにした。すると、なんということだろう。スマホから簡単に作れるサイトがあったのだ。そこで作った私のホームページがこれだ。
【この世の真理を教えます】
これではいけないと私は思った。もっとわかりやすくしなくては。そうしてできたのが、こちらです。
【あなたの悩みを解決します】
わかりにくいかもしれない。だけど、これが限界だったんだ。許してくれ。
それからしばらく経ったある日のこと。一人の女の子がやってきた。彼女は言う。
「あのー、ここの相談って、悩み相談ができるんですよね?」
やったぞ。ついに来たか。この時のために、私は日々努力してきたのだ。さあ、どんなお悩みかな?
「はい、できますよ。どんなことでも聞いてください」
「じゃあ……悩みというよりお願いなんですけど」
「はいはい、なんでも言ってください」
「実はわたし、好きな人がいて」
きたきたきたぁああああああああああ!!! 待ってました。こういう展開を待っていましたとも。もう心の準備はできている。どんなお悩みだって受け止めてやるぜ。
「ふむふむ、それで?」「はい、彼はアイドルのマネージャーをしてるんです。それで……」彼女の話をまとめるとこうだ。彼のことが大好きだが、自分は地味な存在なので彼に見向きもされないらしい。だから、自分を変えてみたい。そのための方法を知りたいと言うことなのだ。
なんていじらしく可愛い生き物なんだ。こんな娘がいるとは思わなかった。感動だ。
「う~ん、話はわかったんだけど、具体的なアドバイスはできないなあ」
「えっ、どうしてですか!?」
「君が変われば彼も振り向いてくれるかもしれないけど、結局は君の気持ち次第だし。私が言ったことをやって上手くいくとは限らないよね。それに君は地味なんかじゃないよ。普通にかわいいと思う」
「そんな……。でも、やっぱりあなたに相談したのは間違いだったかもしれません。他の人を当たってみます」
少女が立ち去ろうとするので私は引き止めた。
「ちょっと待ってくれ!」
「はい? まだ何かあるんですか?」
「もちろんだとも。ここで会ったのも何かの縁だ。私にできることがあれば協力するよ」
「本当ですか? ありがとうございます! それじゃあお言葉に甘えて一つだけ質問させてください」
「どんとこい!」
「あなたはどうやって『教祖様』になったんですか?」
「えっ!?」
予想外の質問に私は面食らった。しかし少女の目を見ると、そこには真剣な光が宿っていた。この子は本気で私のことを知りたがっているのだ。ならば答えないわけにはいかないだろう。
「分かった。話そう。私が『教祖様』になるまでの物語」そう言って、この経過を話すと、少女は、とても感動した様子だった。「すてきなお話でした! あなたのお陰で目が覚めた気がします」私は、指導力に長けてるわけでもない、信者が多いわけでもない。大半は、真子のInstagram受けである。何か、目覚めが必要だ。真子に聞いてみた。「何か目覚めたいことないか?」真子は言った。「目覚めるっていうより、もっとすごいことをしたいんだよねー。なんかさぁ、みんなを幸せにしてあげたいんだよね」その瞬間、ひらめいた。そうだ!「いいアイデアがあるぞ!」
「何々!?」
SNSで世界平和を訴えるんだよ!!」真子は、暫く黙り込んで、行動よ行動力。と言い出した。早速、YouTubeチャンネルを作り、真子自身が世界に向けて発信していくことにした。数週間が経ち。目的は、真子じゃない、龍太郎さんを世に出さなければ。先ずは、真子は龍太郎に街頭演説を進める。私は。選挙でもないのに、街頭演説する意味はあるのか。と思った。すると、真子が、いきなりこんな事を言い出す。「あたし達がやる事はね。ただ、普通に話すんじゃなくて、メッセージを伝えることが大事なの。だから、大勢の中でメッセージを語ろうよ!」そして、数日後に近くの交差点に立った。スピーカー片手に始めた。誰かに訴えてるわけではない。とにかく。「私。教祖様始めました。龍太郎です宜しく」とにかく、教祖様。龍太郎を訴えた。訴えまくった。最初は、全く相手にされなかったが、ある日を境に変化が訪れる。「あれ? あの人どこかで見たような……」それは、真子のブログからであった。真子は、こう言う。「これはチャンスだよ! どんどん広げようよ!」真子は、さらにこう続ける。「あたし達のやってることって、間違ってないと思うんだ。だって、世界中の人が、あたし達と同じ気持ちなんだもん。このまま何もしないなんて勿体無いじゃん!」確かにそうだ。私達は正しい事をしている。この国を変えれるかもしれない。そんな期待を込めて、私たちは路上ライブを始めた。。毎日毎日、歌った。自作曲もアプリを使い自動演奏。すると、少しずつだが、共感してくれる人達が増えてきた。私たちの行動は無駄ではなかった。半年後。ついに総理大臣が変わった。これで日本が変わる。私はそう思った。しかし、世の中は甘くなかった。次の総理もまた、変わらなかった。令和三年八月十日 午前九時五十分
「今度こそ変えてやる」私は、決意を固めていた。その時、「あっ!」思わず声を上げた。なんと、目の前を歩いていた女性が、車に轢かれたのだ。
「危ないっ!」私は女性の元へ駆け寄ろうとした。すると、女性はこちらを向いてニコリと笑った。「大丈夫ですよ。私死んでますから」
「えっ!?」よく見ると女性の体は透けている。
「幽霊……なのか?」「はい」「じゃあ、何故ここにいるんだ?」「分かりません。気付いたらここにいました」「成仏できないのか?」
「いえ。そうではないと思います。ただ、自分が死んだ事に実感がないんです」「そっか……。君はどうしてこの世に未練があるんだ?」「それが分からないんですよ……。気づいたらここにいて、ずっとここにいるんです」「そっか……」私は考えた。この人は本当に死んでいるのだろうか。もし、生きているなら、この人を救ってあげたい。私はそう思い、話しかけた。
「なぁ。君さえ良ければ、私の所へ来ないか?」
「あなたのところですか?」「ああ。ここよりも、もっと良い場所に連れて行ってあげる」「でも、そこがどこだか分からないんですけど……」「それは着けば分かるさ。きっと、楽しいはず」「じゃあ、お言葉に甘えてついて行きます」こうして私は彼女を連れて家に来た。真子が応対に出てきた。俺達は、同棲している。結婚はしていない。教祖さまを目指している。真子は、彼女を家に上げ、リビングへと案内した。彼女は言った。「お邪魔します」私は言った。
「遠慮なく上がってくれ」
「ありがとうございます」
真子は、彼女にお茶を出した。
「どうぞ」いただきます」
一口飲むと、
「おいしいですね」「そう? 良かった」
真子は笑顔で言った。
「自己紹介がまだだったな。俺は龍太郎こっちは真子」
「私は……
「知ってるよ。佐藤優香さん」「どうして私の事を知ってるの?」「SNSで見てたんだよ」
「そうなんだ」「あなた達のおかげで、世界が変わりつつある。もうすぐ、世界中が幸せになる。そんな気がする」「うん。そうだといいね。でも、まだ足りない。もっと幸せになりたいよ」
真子は、何かを決意したかのように、こう言い出した。「よし。決めた! あたしはもっと頑張るよ!」その時、幽霊の姿が消えた。一期一会の出逢いの意味するものは何だったのか、そして、真子は、世界平和を叶えるため、また動き出した。
平成三年九月二十一日 午後六時四十二分
「ねぇー。今日は何するー?」真子は、いつも通り聞いてきた。「そうだな。たまにはゆっくりするか」
「賛成ー! 最近忙しかったもんねー!」
「そうだな。明日は休みだし、久しぶりにゲームでもしようぜ!」
やがて貯金も底をつきそうだ。真子も私がお金を持ってると思い安心していたが、現実を打ち明けた。真子と出逢って一年。真子は仕事をしながらよくやった。
佐藤優香さんを、SNSで検索すると。小高い山の上にある、正倉院と言うお寺のお嬢様みたいだ。真子は、私に行ってみるとけしかける。幽霊の正体がわかるかもしれぬ。翌日、私はそのお寺に車を走らせた。お寺の門には『真言宗』と書かれてある。駐車場に車を停めて、境内に入ると、奥のほうから住職らしき人が現れた。
「あのう……
「はい?」
「こちらに、優香さんと言うお嬢様はいらっしゃいますか」
優香は、35歳になるらしい。住職の一人娘だ。二ヶ月前にコロナウイルスに感染して、容態が思わしくないらしい。そこへ。優香がやって来た。3人は同時に声を上げた。優香は夢に出てきた二人だ。そして。二人は。消えた幽霊。住職は。三人の不思議な話を聞いて、一言。
「何かの縁ですか、ここのお寺には、後継者がいません」すると。住職が私の顔を見た。
「失礼ですが。二人の関係は」真子は、ピンと閃いた。結婚を約束した。相手です」住職は、18歳の年齢差に驚く。そして、教祖様の話を伺った。
その日。私は、SNSのサイトで、悟取塾なるものの存在を見つけた。その中にエゴと言うものを解説している。スピリチュアルに興味を持った時に、魂の事が書かれていて。魂の成長にはエゴを手放すと言う事。エゴは太れば太るほど、本質を隠します。すると益々、思考的な答えを求めるようになりますし、エゴが求める刺激とはそういったものです。そこに自覚がないのなら、途中は途中でも停滞に入ります。変化を起こし続けている時こそ輝きが放たれます。私が最も気になるところは、変化し続けているか、変化し続ける在り方をしているかというところで、そこに高い段階も低い段階も関係ないのです。変化を起こし続けていくためには自覚が必要です。思考の中で変化を起こしても、残念ながら、この世の現象の枠の中での話でしかありません。その変化は記憶の中にしかないといっても過言ではありません。なんとなく。理解は出来るが。ちよっと私にはムヅカシイ問題だ。そんな日の、ブログ記事の文章が浮かんだ。地球の人間は、AIを破壊して。戦争や争い事の真っ只中で、地球が滅亡する。そして、アトランティス大陸とかして、滅びる。僅かながら残った人間は、物質しかない、文明で。古代文明を作るしかない。そして、歴史は繰り返されるのかもしれない。今。教祖様の存在は重要なのではないだろうか。私のブログを読んでいた。真子が何か閃いたと考えを述べた。
「周りの人に。教祖様って話をしたら。皆んな、オウム真理教の麻原彰晃を思い浮かべるらしいの。イメージが悪い。この問題を改めないと」と私に提案してきた。街頭演説で。教祖様になりますなどと発言したのは。受け入れられないものが。大半だと言う事実。真子はさらに述べる。
「寅さんよ。渥美清の寅さん」
真子が、提案しますと。私に質問をしてきた。
「スマホで声優募集してるよ。応募して見ない」真子は、私を芸能界に送り込もうとしている。真子には内緒にしていたが、私は、若い頃、テレビカメラマンの助手をやっていたと言う話を始めて語る。
「22歳の時、笑っていいとものカメラADを新宿スタジオアルタでやっていた。僅か半年間勤務。印象に残っているのは、毎日、カメラの色調整の為に、カメラの前に立つのが主な仕事だった。好きな芸能人は小倉優子だ。あの時、放送事故に遭わなければ、今頃は、スタジオアルタのスイッチャーをやってたかもしれない」真子は、じゃ役者目指したら、志村けんも他界したし。真子は私をからかっているのかと思いたくもなる様に。夢の様な話をしてくる。しかし、教祖様と言えば。アイドルの様なものかもしれない。
そう考えると、真子の話にも一理あるような気がする。「うん。でも、うちの教団。変な勧誘とかしないからね」
真子に言われるまでもなく、そんな心配はしていないが。ただ、真子との会話の中で、自分の気持ちが揺れ動いているのを感じる。
教団と言っても、宗教団体ではなくて、あくまで宗教団体風の組織。
信者の数は、現在10人程である。
しかし、教団の収入としては、それ程大きな額ではない。会費千円の一万円だ。これは、教団と言うより趣味だ。教団運営資金は、信者からの寄付で賄っている。信者を増やすしかない。真子は、新聞のチラシを持ってきた。数年前にニートが市議会議員選挙に自費で立候補したらしい。「この人のお兄さん、私のお父さんの秘書をしていたんだ」と真子は言う。その記事の下に小さく写真が載っていた。ただ、選挙演説の写真を見ると、目が死んでいる。これが、本当に当選できるのだろうか? 真子は、その選挙ポスターを指さす。「これ見て。こいつら、この人を馬鹿にしているのよ。こんな顔だから、ニートは立候補できないって」確かにそうだ。選挙ポスターの顔は、無表情で、目が死んだ魚の様に光がない。「何があったか知らないけど。この人は、きっと、自分がニートであることに誇りを持っているんだよ」
いや違うと思うが。ニートであることを自慢するのは、単に恥ずかしいだけだ。「それに、この人、凄く頭いいみたいだよ」
それは嘘だ。この人が頭がいいなら、なぜニートになったのか分からない。真子には悪いが、私は心の中で笑う。
しかし、私が立候補したら、同じく笑い者にされるかもしれない。この男を検索してみると。何と、今年は参議院選挙に宇宙党として出馬するらしい。コメント欄には。宝くじが一千万当たったらしい。私は、こいつは。なにか只者でない気がした。そして、自費出版で本を出している。その表紙には愛妻家のアップ。
そして、その下には。『あなたも私もこの国も地球も幸せになれる』とある。これは一体どういう意味なのか?この国の現状を知っているのだろうか? もし知っているとしたら、こんな呑気なことを書いていて大丈夫なのか? 私はますます興味を持った。翌日、仕事から帰ると、早速ネットで調べてみた。すると、どうやらこの人は。ある宗教団体の幹部らしいことが分かった。そして、その幹部が、最近出した本がベストセラーになっているようだ。
タイトルは。『幸福の秘訣~あなたの人生にも奇跡が起きる!』だった。
私はそれを見て驚いた。題名だけ見ると、いかにも胡散臭い感じだが、内容はそうでもないらしく、その証拠にアマゾンではレビューを見ると好評である。
それによると、この本の著者はある有名な大学教授らしい。そして、彼の研究によると、今の世の中は不幸な人間があまりにも多すぎるというのだ。
確かにそうだと思った。日本だけでなく世界中の国々を見渡しても、幸福そうな人間より不幸そうな人間の方が多いような気がする。しかも、その原因は、お金の問題ではないというのだ。
この人の話だと、人間は生まれた時から既に運勢が決定されているのだという。そして、その運命を変える方法とは、まず自分の魂を知ることから始まる。その方法は、次のように説明されていた。
1 毎日、朝起きた時に、「今日は何をしようかな?」と考える。
2 次に、「自分はどんな人生を歩んできたっけ?」と思い出す。
3 自分が今までやってきたことを思い出して、反省したり後悔したりする。
4 そして、これからの人生でやりたいことは何かを考える。
5 そして、最後に、これからの自分に期待することは何かを考える。
6 それを一日五回繰り返す。
7 これを一週間続けると、不思議なことに、自分の中にあるエネルギーのようなものを感じることができるようになる。
8 そのエネルギーを感じたら、今度はそれを外に出すイメージを持つ。9 それができたら、いよいよ祈りを始める。
10 祈りながら、自分に必要な言葉を思い浮かべる。例えば、『感謝』『希望』『平和』『愛』などなどである。
11 そして、願い事が叶った時の自分を想像しながら祈る。
12 これがポイントです! 13 そして、次の日から、実際に行動を開始するのです。
14
「ああ、神様。ありがとうございます!」と言って、心の底から喜ぶ。
15 そして、また三日ぐらい経ったら同じ事を繰り返す。
16 これを十年間続けた時、あなたは必ず変わることができます。
17 でも、勘違いしないで下さいね。別に宗教に勧誘しているわけではありませんよ。本当に変われるんです。
18 ただし、これを信じない人もいますよね。そういう人のために、この本を書きました。
19 この本は私の体験談であり、私の研究成果でもあるのです。
20 つまり、私の研究の結果、あなたも必ず幸せになれます。
21 だから、皆さん安心してくださいね。
22 そして、この本を読めば、あなたは自分の人生に自信が持てるようになり、きっと幸せになるはずですよ。
23 だって、この本を書いた私が幸せなんだから……24 皆さんも信じれば絶対になりますよ。本当の幸せ者に……
25 この本を読んで頂いた読者の皆様へ、著者から一言。
26
「人生で大切なものは三つあります。それは『時間』と『勇気』と『笑顔』です」
私は彼の援助を受け立候補する事になった。

しかし、私は彼に一つ条件を出した。それは、彼が書いた本の宣伝文についてだ。彼は、あの本の中で、私達国民一人一人の幸せを願っていると書いている。
しかし、私は彼の本を全く読んでいない。なので、彼の言っていることが正しいかどうか分からない。そこで、本音を聞いてみたいと思ったのだ。
「あのさあ、どうしてあんな本を書いたの? あれじゃ、まるで洗脳じゃない」
「えっ!? そうですか? 僕はただ真実を述べただけですが……
「いや、だって、あんたの信者はみんな幸福になったんでしょ? それって現実です。幸福の秘訣を実践したら、誰でも幸福になれるんですよ。だったら、あなたも同じでしょう?」
…………
「それに、私なんか全然幸福感がないんだけど? それなのに、なんで幸福になれるの?」
「それはですね。まず、あなた自身が自分の魂を知って、それに相応しい生き方をするべきなんです。それで、少しずつ魂のレベルが上がっていくと、自然といいことが起こってくるようになります。これは科学的にも証明されています。
つまり、あなたの魂がレベルアップすれば、それだけいい人生を歩むことができるということです。そして、そのレベルを上げるには、毎日の生活の中で幸福だと感じることが必要になってきます。だから、幸福になるためには、幸福になろうと努力する必要があります。
ところが、ほとんどの人は幸福になることを怠っているのが現状です。そして、幸福にならずに不幸なまま生きている人があまりにも多い。しかし、それではダメです。幸福にならないと。私は、真子と一緒に彼の宣伝カーにのり、幸せを訴えた。路上ライブを始めてから1年目の事だ。


ありがとうございます励みになります