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企業法務の在り方 Part.05 - 会計・経理の知識を持つ法務が会社を助ける -

 企業法務の業務範囲はとても広いです。専門性の高い業務や、幅広い知識と深めの経験値を求められる業務など様々です。そのような状況の中で、企業法務の皆さんは会社、役員、部門・部署、従業員の方々からの要請・依頼に十分に応えられるかどうか。いろいろな角度を通して、皆さんの会社それぞれの企業法務の在り方を確認してみましょう。
 今回は、企業法務が会計・経理の知識を身に付けることについて考えてみたいと思います。



企業法務には会計・経理の知識が必要

 法務の皆さんは、日頃の実務で様々な法務対応に追われていることと思いますが、その多くは契約書対応とその管理、各実務部門からの法務相談でしょう。
 これまで「企業法務の在り方」の各記事で、法務の皆さんにはリスク管理能力を伸ばしていただくことが必要だとご紹介しました。これは法務の皆さんが基本的な法知識・経験等を持っていることが前提で、今後法務という職種がいままで以上に会社から必要とされるための必要なアイテムとしてご紹介しました。


 さて、法務の皆さんが基本的な法知識・経験等を持っていることが前提とご紹介しましたが、法務の皆さんが必要なのは、基本的な法知識・経験だけではありません。今回ご紹介するのは、法務の皆さんには会計・経理の知識が必要でありこの知識を少し深く知っていただきたいと考えてご紹介するものです。

 企業法務の仕事の中で多くの時間を費やすのは、契約書対応でしょう。他の会社等との契約にあたり事前にその契約書の内容を確認したり、一から契約書を作成するなどさまざまです。法務皆さんもお気付きだと思いますが、契約書対応では法知識・経験だけでは手に余ることが多くあります。例えば、契約書の各条項は多くの場合定型的な条項が使われます(例:損害賠償条項、反社会的勢力排除条項など)が、肝心の契約条件については納品物の引渡・受領の際の手続き(例:検査・検収)、その後の金銭支払方法などはその都度決められることが多いですので、これらを正確かつ適切に確認するには単に法知識・経験だけでは足りません。
 納品物の引渡・受領の際の手続きについては、その契約が請負の場合は民法第9節「請負」(第632条〜第642条)に定められていますが、契約書の内容を確認する際はこの条文の知識だけでは不十分です。理由は、納品物の引渡・受領の際の手続きにおいて実務的には受領書、検収書が存在しますが、これについて民法第9節「請負」には言及はありません。これは企業会計基準の「収益認識に関する会計基準」(以下「収益認識基準」といいます)に基づいているものだからです。法務の皆さんは、経験値としては受領書、検収書の意味をご存知かと思いますが、実際に収益認識基準の内容を詳しくご存知の方は少ないのではないでしょうか。契約書の内容を確認する際は、法知識・経験だけでなく、会計・経理の知識を持っていなければ正確かつ適切な契約書対応は難しいでしょう。契約に関する稟議のワークフローで、契約の際には経理部門に回付されるフローになっていればこの点の抜け漏れは少ないと思いますが、多くの場合は経理部門に契約書が回付されるのは契約後です。契約条件は契約書の中では重要事項です。ここで抜け漏れがないようにするためには、法務の皆さんに会計・経理の知識を持っていただくことが必要です。



どの程度の知識が必要か?

 それでは法務の皆さんがどの程度の会計・経理の知識が必要なのでしょうか。それは、経理部門の皆さんと同等である必要はありません。例えば、かなりピンポイントな具体例ですが「皆さんの会社の売上高はどのような手順を踏んで売上高計上されるのか?」のような、かなり基本的な会計・経理の知識が必要だと考えます。

 皆さんの会社の売上高は、顧客から入金される金額のすべてが売上高に計上されるわけではありません。本業ではない商行為によって得た収入の場合は営業外収益となりますので、勘定科目は売上高ではなく受取手数料となります。例えば皆さんの会社で、契約書に関する商談時において支払われる金額はすべて売上高に計上できると思っていたのに、契約条件に販売手数料として支払われると書かれていた場合は売上高に計上できません。売上高に計上したい場合は、仕入れ販売の形式を契約書上に記す必要があります。この形式が契約書上に記されているかどうかを最終的に確認するのは法務の皆さんです。事業・営業部門から法務に契約書が回付されてきたとき、事業・営業部門長が承認しているからといってその契約書に記されている契約条件がすべて正しいとは限りません。この点に気づくには、少なくとも皆さんの会社の売上高はどのような手順を踏んで売上高計上されるのか?この案件の趣旨とどのような商談を経ているのか?などを知ったうえで契約書の内容確認を行う必要があります。また、契約書上で先ほどの点を単に仕入れ販売の形式に修正するだけでは足りません。その商材・サービスの内容によっては前の項でご紹介した収益認識基準に合わせた商流にしなければ正しい売上高計上はできませんので、企業会計基準の知識も必要になるのです。

 法務の皆さんがどの程度の会計・経理の知識が必要になるのか。基本的な会計・経理の知識だけで良いのか。または少しレベルの高い知識が必要かは、皆さんの会社の事業内容、業種、事業・サービス展開等によってさまざまです。この点は、法務の先輩従業員等からご教授いただくか、他部門の同僚従業員とのコミュニケーションから学んでいただくことをお勧めします。



法務の皆さんが知る・学ぶ必要のある知識は無限大!

 以前の記事「企業法務の在り方 Part.03 - リスク管理能力を伸ばした法務が会社を助ける -」では、法務の皆さんにはリスク管理能力を伸ばしていただくことをお勧めしましたが、今回は会計・経理の知識を学んでいただきたいことをお勧めしています。じつは、これら以外にももっと幅広く知る・学ぶ必要のある知識がたくさんあります。今後それらをこのような記事にしてご紹介しますが、とてもたくさんあります。ただし、法務の皆さんにとってそれら知る・学ぶ必要のある知識がどこまで必要なのか。それはさきほどご紹介しましたように、皆さんの会社の事業内容、業種、事業・サービス展開等によって大きく異なります。それに、法務の皆さんが今後どのような法務職の経験、進んでいきたい方向性、なりたい自分等によっても大きく異なります。ただし、共通して言えることは「知る・学ぶ」ことは理論武装であり手段です。専門性を極めるまでの必要はありませんし、バランス良くできるだけ幅広く知る・学ぶことが必要でしょう。

 ぜひバランスの良いかたちの「知る・学ぶ」を作って、皆さんの会社の頼りになる存在になるように私も応援します。



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