私が国公立大学の学費値上げに「賛成」の理由

最近慶応義塾大学の伊藤塾長が国公立大学の学費値上げを提言したことが話題になりました。
意外に思われるかもしれませんが、私は学費値上げに「賛成」です。
(私の生い立ちについては以下の記事を参照。)

賛成の理由は大きく(1)既に学費は高すぎるということと(2)教育・研究のためのお金がないことの二つがあります。

まず(1)に関して、私自身も学費の問題に直面しましたが、現時点で既に国公立大学の学費は高すぎます。
結局払えないという意味では50万円も150万円も変わりません。

大変ありがたいことに私は9年間ずっと授業料を免除してもらいました。
庇うわけではありませんが、伊藤塾長も奨学金(授業料減免制度を含むと解釈します)の整備の必要性に触れています。
学費を払えない層は免除や減額になることを前提とすれば学費を上げても困窮層への悪影響はないように思います。

ただ、現状の学費減免制度のままでは不十分だと思います。

一つ目の問題は授業料減免になるかどうかの審査が一々あって、通らない不安を抱えながら学生生活を送ることになる点です。
休学や留年をすると減免が受けられなくなることや、この審査には成績要件が含まれていることも問題です。

私自身、授業料免除にならない可能性に怯えながら9年間過ごしましたし、その場合に備えて貯金する必要に迫られました。
また東大数学科のように良い成績を取るのがそう簡単ではない学科もあるので、成績要件は原則撤廃すべきだと思います。

二つ目の問題は親の収入を根拠に審査が行われている点です。

学生の中には親と折り合いが悪い人もいて、例えば親が高年収なのに学費を払ってくれなかったり審査のための書類を提出してくれなかったりします。
私自身も親と連絡が取れなくなったことがあり、そのときは書類を出してもらうために地元に戻らざるを得なくなった覚えがあります。

こうした問題が起こる可能性を完全に排除して初めて学費の値上げは可能だと思います。
伊藤塾長の案はこの点が不十分ですが、あれはたたき台だと思うので誰かがこういう問題を指摘し解決策を提示して改善すればよいと考えています。

次に(2)に関して、これは大学教員としての意見なのですが、今の大学にはお金がなさすぎます。
これではまともな教育・研究を行うことは困難であり、これが学費の値上げが必要となる理由の根幹です。
(伊藤塾長はまた違う理由で学費の値上げを主張しているのかもしれませんが。)

もし教育・研究環境の劣化により国際競争力を失ってしまえば、もはやそれは通う価値のない大学だと思います。
これではいくら学費が安くても意味がありませんし、優秀な人材のうち学費の払える層が海外流出する懸念もあります。

こうした問題を解決するためにも、負担できる層には負担して頂くというのは必要だと思います。
学費に関して言えば、もっと払える層はいるはずです。
実際東大生の過半数は世帯年収950万円以上(2021年度)なのです。

筑駒出身の東大の知り合いが「自分はずっと国立で教育を受けてきたから大して学費はかかっていない。貧しいなら国公立に進学すればよい」というようなことを言っていた覚えがあります。
また東大理三の知り合いで「私立医学部の学費が高いというなら学費年50万円の東大医学部に来ればいいのに」と言っていた人もいました。

こういう人たちに共通するのは実家は裕福で、塾や習い事、海外留学をするには困らなかったという点です。
こういう恵まれた人たちが民間の教育に多額のお金を費やして東大やその他国公立大学に入学し、比較的安い学費で高いレベルの教育を享受しています。

彼ら彼女らにはもっと高い学費を払う余裕があるように思います。
大学への寄付文化も希薄である以上、そういう層に負担して頂くというのはある程度理に適っていると考えています。

このように学費を払えない層に対する授業料減免制度が絶対のものであることを前提にした上で、
現在の日本の教育・研究環境を改善するために国公立大学の学費を値上げすることに私は賛成です。

一方で、改革が中途半端に進み、実際には学費の値上げだけが残るといった事態を危惧している方々の懸念は理解しますし、まだ払える可能性のある50万円というラインを堅持したいと考えるのもやむを得ないと思います。
学費の値上げにはかなり抜本的な改革を伴う必要があるということを伊藤塾長は分かっていない気もします。

ですが、彼の意見を全否定するというだけでは物事はよくならないと考えています。
私は昔から相手の意見がどれだけ不快でも怒りを堪えて建設的な議論を心掛けてきたつもりです。

日本の大学の窮状を鑑みれば、学費の値上げ等の措置はある程度やむを得ないのではないかと思います。
私は伊藤塾長の提案に賛成しているというかはむしろ学費の値上げにより高所得層にもう少し負担して頂くという点に賛成しています。

ただ、私の言う絶対の授業料減免制度を現行制度の延長として実現するのは難しいのではないかという気がします。
大学側の持っている情報では誰を授業料免除すべきか判断しきれないという問題があるからです。

一つの案としては国公立大学の学費を一定額(例えば150万円)に措定して、その上で教育無償化を行うことがあります。
ここで言う教育無償化の原資は世帯年収に依って決まる税金で、ある意味学費を先払いしてもらうというような仕組みを想定しています。
各大学には措定した学費に学生数を掛けた額を配分するということになります。

こうすれば私が上に例示した問題は結構解決するような気がします。
とはいえ、子どもがいなかったり子供が大学等に行かない世帯もあると思うので、そういう世帯にも負担してもらうというのはどうなんだという意見もあるでしょう。
その他技術的な問題も多くあるのだと思いますが、かなり雑なアイデアとして置いておきます。

今回話題になった伊藤塾長の提案は多くの人から頭ごなしに否定されていた印象を受けます。
特に学費の値上げという部分に関してはかなりの拒否反応があったように感じます。

一方私はそういう可能性を排除すべきではないと考えています。
私は自分の案が完璧だとは思っていませんが、それでもこの記事では建設的に議論できる可能性を提示したかったのです。

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