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家族と家と


私は都会でもなく、かと言ってそれほど田舎でもない、ごく普通の地方郊外で育った。私が暮らした家は小さな古い借家で、家族は父と母、一つ年上の兄。4人での暮らしは、今思うとありふれた日常と少し変わった非日常が入り混じっていた。
これは、私が幼少の頃から成人するまで、愛すべき家族と暮らした実家での記録の一部である。


【お風呂】
 狭く古い、その浴室は満天の星空のように点々と天井を埋め尽くしていたものがあった。黒カビだった。それは尋常な数ではなかった。大自然の夜空で見上げる星空は感動を生むが、満天の黒カビは何とも言えない緊張感を生む。

少年時代、湯舟に浸かり天井のそれを見つめることは私にとって特別なことではなかったが、思い返すと良い環境であったとも言い難いものだ。
年に一度父が壁に白いペンキを塗り、壁や天井は黒カビなど全く無かったかのように静寂と平安を取り戻した。しかし、その平安はいつも一時的なものでしかなく、カビはすぐに繁殖した。

風呂場には脱衣所はなかったから、家族全員着替えは居間で行っていた。
それが普通だと思っていた。
浴室に入るためのあの僅かなスペースが脱衣所だったのか?いや、決してそうではないだろう。その僅かなスペースの床は腐りかけで今にも底が抜けそうだったので、床は踏まないという決まりがあった。

これは普通ではないと思っていた。


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