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あの名建築に会いに行こう!

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記事一覧

日本建築の技のショーケース、田母沢御用邸がすごかった

こんにちは、建築ライターのロンロ・ボナペティです。 日光ですごい建築に出会ったので、ご紹介したいと思います。・・・・・・日光の建築といえば、東照宮だよね! という方がほとんどなのではないでしょうか? もちろん僕もその一人でした。この「日光田母沢御用邸」を知るまでは。 日光田母沢御用邸記念公園は、大正天皇が皇太子の時代に静養地として造営された御用邸が一般公開された公園です。 さすがは御用邸というべきか、これでもかとリソースが注ぎ込まれた日本建築を堪能することができます。 まず

名建築の横顔~人と建築と〜武蔵野プレイス【転載】

※初出「建設の匠(現・建設HR)」より転載 あの名建築は、いまどのように使われているのだろうか? 竣工当時高く評価された建築のその後を取材する本シリーズでは、建築とそれに関わる人びととの関係を探っていく。 2016年の日本建築学会作品賞を受賞した、東京都武蔵野市にある図書館複合施設、武蔵野プレイス。 受賞理由にも集客施設としての成功があげられている本施設は、日々多くの人でにぎわっている。 その背景にはどのような工夫が隠されているのだろうか。実際に訪れてみた。 つい長居してし

名建築の横顔~丹下健三「ゆかり文化幼稚園」~

ひとつとして同じ風景のない「こどもの城」 「こどもの城をつくる、それが園舎を設計するときのテーマだったんです」 そう語ってくれたのは教務主任の須藤友紀さん。一を聞けば十答えてくれる応対から、須藤さんのこの建築への愛が伝わってくる。 今回取材したのは丹下健三設計の「ゆかり文化幼稚園」。建築家として乗りに乗っていた1967年の竣工だ。 「『園舎に色は必要ない。こどもたち一人ひとりに色があるから』丹下さんはそう考えたそうです。一般的な幼稚園の園舎には、いろんな色やキャラクター

名建築の横顔~人と建築と~「駿府の教会」編

聖書の言葉に集中するための「完璧な空間」※初出「建設の匠(現・建設HR)」より転載 天井から降り注ぐ幻想的な光。 余計な要素が排除され禁欲的でありながらも、木の温かみのある空間。 壁面と天井に並べられた木材の密度を調整することによってのみ、光をコントロールし、季節や時間帯によって多様な表情が生み出されている。 西沢大良氏設計の「駿府の教会」といえば、現代の教会建築の名作として、竣工後11年(2019年当時)が経ったいまでもファンの多い建築だ。 「この教会堂はプロテスタントの

文化を乗せて未来へ運ぶ方舟──内藤廣設計「海の博物館」

船に乗って、大海原へと漕ぎ出す。 目の前を遮るものはなにもなく、ただただ水平線に至るまで、広大な海面がきらめいている──。 そんなイメージを頭に思い浮かべると、不思議と未来へと思考が伸びていきます。 幼少期から繰り返し刷り込まれた、冒険の象徴としての海のイメージもさることながら、地理的な制約から密集度の高い日本の国土利用と開けた海の対比もまたその理由となっているのかもしれません。 いずれにせよ、海にまつわるイメージや文化は、実態としても象徴としても、陸地のそれとはまったく異

建築のバックボーンに想いを馳せる旅~自由学園明日館~

こんにちは、ロンロ・ボナペティです。 建築の世界では、よく「コンテクスト」という言葉を耳にします。 コンテクストとは、日本語では文脈と訳され、ある事象の前後関係や背景などを指す言葉です。 建築においては「コンテクストを読み解く」などといわれ、たとえばある建築を設計する際に、敷地の周辺環境や景観、地形、その土地の歴史などといった前提に目を向け、そこからデザインの手がかりとなる要素を抽出していく作業を表しています。 こうした考え方は、建築を設計する段階では非常に有用、というよ

奇跡の建築、伊豆の長八美術館を生んだ必然の連鎖

名作と呼ばれる建築が生まれるとき、そこに至る背景には決してひとりの建築家の才能では説明しきれないドラマがある。 偶然の連鎖としか言いようのない奇跡的なストーリーが生んだ結晶のような建築であっても、そこにある必然性を読み解いてみる試みは、建築を見る僕たちの眼を養ってくれる。 今回はそのケーススタディのひとつとして、奇才・石山修武が手がけた静岡県松崎町にある「伊豆の長八美術館」について掘り下げてみたい。 伊豆の長八美術館外観 美術館外観 足元を見る 内観 伊豆の長八(本

長く焦がれた建築を見に行くことが、好奇心の種をもたらしてくれる

こんにちは、ロンロ・ボナペティです。 突然ですが質問です。 皆さんには長い間、「一度は見に行ってみたい!」と焦がれている建築はありますか? 僕にはそんな建築が国内にも、海外にもごまんとあります。 たまの休暇を利用してそのうちのひとつでも見に行こう、と出かけるのですが、そのたびに手に負えない量の宿題を抱えて帰って来ることに気づいたんです。 宿題って何だ、と思ったそこのあなた。ご安心ください。タイトルに書いてあります。 そうです、「いつか行ってみたい」と思っていた建築を見に

動物性を喚起する!美術館の役割をアップデートする富山県美術館の建築

富山県美術館。 富山県富山市の駅近く、観光名所にもなっている「環水公園」のほど近くに位置する美術館です。 絶賛進行中の渋谷再開発プロジェクトでも検討委員を務めるなど、日本を代表する建築家・内藤廣氏が設計しました。 先日ようやく見に行くことができ、建築としての美しさもさることながら、美術館としての新たな挑戦に大興奮。 ひと言で言えば、「動物性を喚起する美術館」。 この美術館が、これからの美術館(または美術との関わり方)を考える上で、避けては通れないほどの強さをもっているな、と

その建築は、何を媒介しているか?

神奈川県箱根町に、POLA美術館という美術館があります。 印象派絵画の重要作品を多数コレクションしていることもあり、美術好きにはよく知られている、箱根の定番観光スポットのひとつ。 このPOLA美術館は建築学会賞を受賞するなど建築作品としての評価も高く、いつか訪れたい建築のひとつとして建築好きにも人気が高い美術館です。 こんにちは、ロンロ・ボナペティです。 意外に思われるかもしれませんが、建築としての評価と美術関係者からの評判はかならずしも一致しないようです。 建築家の表現が

土地の文脈から設計者の意図を想像する――すみだ北斎美術館

皆さんは建築を見るとき、どんな見方をしていますか? 建築を学んできた、あるいは仕事として関わっているという方は、歴史的な視点やご自身の専門との関係などそれぞれの見方があるでしょう。 詳しく知っているわけではないけれど好きだという方は、居心地の良い空間が好きだったり、ある特定の建築家のデザインが好きだったりするのでしょうか。 いろんな建築の見方があるなかで、今回はその建築が建つ場所との関係について、考えてみたいと思います。 こんにちは、ロンロ・ボナペティです。 東京都墨田区に

フランク・ロイド・ライトの遺伝子——札幌の田上義也建築2選

こんにちは、ロンロ・ボナペティです。 皆さんは、絵画や小説といった作品で好きなものに出合った時、次の作品をどのように探していますか。 良いと思った作家さんのほかの作品を調べる、という人が多いのではないでしょうか。 ある作家さんの作風が好きになったら、その師匠に当たる人や同系統の作品を探すこともあるのではないかと思います。 特定の作家さんの作品にたくさん触れることによって、ひとつひとつの作品に対する理解度が増したり、思わぬ発見があってより楽しめることもあるでしょう。 建築に

あの名建築に会いに行こう!——大分県のふたつの坂茂作品

こんにちは、ロンロ・ボナペティです。 今回は大分で見られる坂 茂さんのふたつの作品、「大分県立美術館」と「由布市ツーリストインフォメーションセンター」をご紹介します。 坂さんの建築家としての魅力は、下記にまとめましたので、本稿を読む前にこちらを読んでいただけるとうれしいです。 有料設定にしていますが、無料で読める部分も多く取っています。 さて、前掲の記事では坂さんの建築と社会との関わりについて書いています。 建築家が社会にどんな価値を与えられるか、という時に、近代の建築家

あの名建築に会いに行こう――千葉県の小さな美術館2選

みなさんこんにちは、ロンロ・ボナペティです。 今回は千葉県にある、小規模な美術館建築をふたつご紹介します。 GWにひとりで千葉に行った、という話を友人にすると大概「何しに行ったの? まさかひとりでディズニー……」という反応になるのですが、千葉にはディズニー以外にも面白い場所がたくさんありますよ! 今日ご紹介する美術館も、どちらも東京駅から1時間ちょっとで行けるので小旅行にオススメです。 ◆建築を見に美術館へ みなさんは何を目的に美術館へ行きますか? 開催されている企画展を目