見出し画像

『イーロン・マスク 上』を読んで。

書名:『イーロン・マスク 上』
著者:ウォルター・アイザックソン
出版社:文藝春秋
発売年:2023年9月13日発売
2024年2月27日読了

イーロン・マスクについての本は竹内一正著の『イーロン・マスクの野望 未来を変える天才経営者』を昔読んだことがあったが、こちらの新しい方も読んでみた。
読み物として非常に面白い。驚きの連続である。

驚くようなエピソード満載

まず率直に、よくこれだけプライベートな内容まで詳細に出てくるものだと。
お世辞にもイーロンの性格にポジティブとは言えない方向に大きな影響を与えた父親のことにしても、イーロン本人、父親本人双方からのインタビュー情報が使われている。

パートナー関係についても詳細に情報が書かれている。
アメリカのセレブな人々は結婚・離婚をよく繰り返す印象が強いが、イーロンも然り。
その難儀な性格も相まって既に3人と結ばれては分かれ、子供を合計11人も設けている。

グライムスとの間の子供、エックス、エクサ、タウらのネーミングもまたエキセントリックで奇抜。(個人的にはカッコいいと思うが笑)

詳細な内容は本書を読んで楽しんでもらいたいところなのでこれ以上内容は漏らさないが、分厚い割にサクサク読める一冊である。

常軌を逸した要素を持つ者が社会を変える

凝り固まった組織に変革の風を送り込むのはよく「よそ者、若者、バカ者」と言われる。
この3つの共通点は、既存情報やそのロケーションにおける常識を知らないOR顧みない連中であることだ。

人間はどうしても既存の成功体験に囚われるバイアスがあるが故に、畢竟、それを打ち砕くのは既存の情報を無視できる人、常軌を逸した要素(ステータス)を持つ者になる。

エントロピーを増大するままにしていては何事も成せないが、最適化の結果小高い山の頂点に達してしまった分岐ルートをサンクコスト無視してご破算するには、イーロンのような存在が必要なのだろう。

電気自動車とロケットという異なる分野でその地殻変動を起こした彼であるから、今後も他の様々な場所で社会を揺るがすに違いない。
少なくともOpenAIやTwitter(X)では既にその動きが現れている。
(結果の良し悪しは別として。)

経済格差や環境問題などの社会的な課題が山積している中で、まだ世界各地では宗教、イデオロギー、覇権、経済的なイニシアチブなどを争って紛争・戦争を起こしている。
人はまだ別の惑星に住めていないし、どこでもドアもタイムマシンもないし、車もしばらく空を走る予定はなさそうさ。

このような状況を打破する常軌を逸した存在を多分我々は求めている。

ジョブスに次ぐこういったハイレベルなゲームチェンジャーは数多くない。
そういった存在なしに未来へ大きく飛躍できない状況は属人的に過ぎると情けなくも感じてしまう。

このようなヒーローはやはり稀有な存在なのだろうか?

どの程度天才なのか

佐藤優はイーロン・マスクを、「『資本論』で描いた資本の論理がそのまま受肉した人物」と称していて、ロシアにも同様の寡占資本家は何人もいると話している。(文藝春秋)

要するに「他の人とは全く違う類稀なる天才」という認識は正しくなくて、生育環境やタイミングが揃えば他にも現れ得る程度の人、という認識である。

言われてみれば確かに、
(自称ではあるが)アスペルガー障害持ちという特性、
子供の心に大きな穴を開けてしまうタイプの父親の存在、
冒険好きな血筋、
血と死が隣り合わせだった南アフリカの幼少期の住環境、
インターネットバブルのタイミングの大学時代などが、
今の彼を育てたと考えられる。

学生時代の成績は割と平凡だったことからも、佐藤優のその意見は納得できる。

メルマガで有名な真田孔明氏はそのメルマガ(ワンチーム)内でイーロン・マスク氏を、
「図書館の本を全部、完全読破だけに留まらず丸暗記してしまった」
「10歳の頃、父親に購入してもらったパソコンに同梱されていたプログラミングの教科書を丸暗記して、3日でプログラミングができるようになり」
のように誇張して描写しているが、本書の内容が正しいとすれば、読書に熱中する少年で、60hで読めるBasic言語の手引きを寝ずに3日で学んだ、という程度である。

もちろんこれらのエピソードは充分すぎるほど優秀な子供であることを示すものだろうが、彼を例えば神童だったモーツァルトの再来とまでの天才だとはさすがに言えなさそうだ。

イーロンを傑物とは言えないにしても、少なくともその実績から、偉人とは言って差し支えないと思う。歴史の教科書には載るかもしれない。

正直、そもそも「天才」という言葉の定義も、どこからが天才でどこまでが秀才なのかよくわからんし、そういった意味でも天才と呼ぶのは難しい。

イーロン・マスクから学ぶ

イーロン・マスクを参考にすべきかと問われれば、Yesとは言い難い。

本書から僕が得た並みな学びを挙げるとすれば、

「不可能を可能にするのは高い志を持つこと、そしてそれを徹底的に信じ貫き、達成するまで粘り強く挑戦すること」だとか、
「テクノロジーとビジネスという両輪をスピーディに回すこと」だとか、
「STEM教育にリベラルアーツを加えたSTEAM教育は効率よく社会変革を起こす起業家を生み出す土壌を作るだろう」だとか、
そんなところだろうか。

学びは模倣から始まるというが、生まれ育った環境という、真似しにくい要素が大きく関係しているため、そもそも参考にしようとしてできるものではない。

リアルタイムの偉人を楽しく見守る

資本主義を受肉しているというのであれば、その光の面に目を向ければポジティブな社会変革を純粋に期待できる。

・スターリンクの活用による利便性の向上や災害への対策、戦争紛争による被害の軽減
・火星の開拓
・電気自動車の普及による温暖化の悪影響の低減

のようなイーロンが目指す未来像は、資本主義の正の側面だ。
負の側面もあるかもしれないが、私がそこを突いてもあまり意味がない。

ともかく、憧れのヒーローがリアルタイムで存在しているという事実がある。
そして彼は社会を目覚ましく変化させている。

彼が偉業を達成することを楽しんで眺めつつ、明るい未来を期待したい。
また彼の活躍に元気をもらって、自分も目の前の仕事を頑張って行こうと思う。

下巻も同程度のページ数がある分厚いものだが、読むのが楽しみである。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?