見出し画像

第三十七話 華人とマレー

 メルシンという港町に到着。
しかし船の時間に間に合わず、ここで一泊する事に。

特に何もないこの街。

浅野さんは宿の部屋で昼寝。
僕は椅子を屋上に持っていって、街を眺める。
近くの店で買ってきた飲み物と肉まんを片手に。
 
ここまで来るとマレー人だけでなく、華僑の人間も目立つようになる。
 
目の前がスーパーだったので、ボーッと、スーパーに出入りする人達を眺める。マレー人のおばちゃんの洋服って派手だなあ。
 
そんな感じで、のんびりと街を眺めていたところ、事件が発生しました(何故、僕の旅はこうアクシデントに遭遇しやすいのでしょう?)。
 
スーパーの隣にある駐車場で、車から出て話しをしている華僑のカップル。

歳は25歳前後かな。
白いシャツを着て、メガネの少しお金持ちそうな男性と、スタイルの良い綺麗な女性。

そこに一台のスクーターが来る。
ヘルメットを外し、華僑の男と話し始める。
どうもマレー系らしい。

表情が穏やかでない。
その場で口論になる。
 
喧嘩だ!(また)
 
僕は屋上から身を乗り出し、観察する。
 
華僑のカップルとマレー人との口論が激しく展開される。
 
 僕は部屋に戻り、浅野さんを起しに行く。
「浅野さん!喧嘩ですよ、喧嘩!外でマレーとチャイニーズが喧嘩してますよ!」
「なんですか?折角良い夢を見ていたのに…。それより、私の残り少ないリンギット(マレーシアの通貨の単位)を返して下さいよ。肉まんの。」
 
(ちっ、まだ覚えてる)
 
「そんな事より!ほら!窓から見える、喧嘩ですよ。」
 
 ここからの方が、より近くで見える。
暫くそんな口論が続いた頃でしょうか。

突然、沢山のバイクと一台の車が集まってくる。マレー人の集団。

その手には角材や鉄パイプ、金属バットみたいな物が。
(なんで角材が、いたるところにあるいんでしょうか??)
 
 いきなり華僑のカップルの車を破壊し始める。
3人くらいのマレー人に囲まれ、男はボコボコ。眼鏡も砕ける。
車はどんどん破壊される。全てのガラスが粉々に砕ける。
上に乗り、ボンネットから何から潰される。

「警察!連絡しましょうよ!今直ぐに!!ヤバイですよ!あの人数に囲まれたら、女のコが危ない!」
僕はどうやって警察に連絡するか、浅野さんに尋ねる。

しかし浅野さんは乗り気じゃ無い。
「地元の事は地元に任せましょう。部外者の我々が首を突っ込む問題じゃないですよ。」

「ええ?目の前で人がやられてるのに?」

僕の中国人の先生はある武術の、それは凄い達人でした。

その先生から教わってきた言葉がある。
仁(優しさ)と義侠心、即ち、弱い者達の立場になって、その者たちの為に戦う事。
私利私欲ではなく、常に弱い人達の為に優しさを持って接し、そして働きなさいと。

だからこそ人がやられてるのを、多勢に無勢なのを黙って見てるわけには行かない。
ちょっと行ってくると、下に降りて行こうとする僕。
しかし浅野さんに止められる。

「理由も判らないのに止めましょう。何か原因があるからこそ、こんな事になってるんですよ。地元の人が警察も呼ぶはずです」
と。
納得は行かない。だけど、確かによく分からない外国人の部外者が突然現れても、話がややこしくなるだけかもしれない。
それも一理あると思った僕は、半分は納得出来ないままに、仕方なく、また窓から状況を見守る。

これ以上ないというくらいに、破壊される華僑カップルの車。
これ以上ないというくらいに、ボロッボロな華僑の男。
 
そして最後は華僑の女性が男達数人に歯がいじめにされ、車に詰め込まれ、急発進。
拉致される。
 
その間、10分弱でしょうか。
 
 後に残る華僑男性は、レンズの無い眼鏡を掛け直す。髪の毛もボサボサ、洋服も破け鼻から血を流しているが、何かコントみたいで少し「リアルさ」に欠ける。
 
スーパーで買い物していたおばちゃん達も見ている。
 
「あらあら。やられちゃって。」
 
おや?何故だろう?
対して驚いている様子もない。
同情なんてこれっぽっちもしていない様子。
あっという間に何事もなかったかのように、戻る周囲の人達。
 
浅野さんも僕も、一部始終を見ていた。

「何で警察が来ないんですか?通報もなし?」
マレーシアの荒っぽさを垣間見た気がしました。
 
 たぶん華僑とマレー人との民族、経済的な軋轢から、こんな事が起こるのでしょう。
中国人に経済という心臓を持っていかれてしまった、ここマレーシアやインドネシア。
ブミプトラ(マレー人優遇政策)というものがあっても、実質、経済的には完全に負けている。

火種はそこいらじゅうに存在しているのでしょう。
 
 これからきっとアジアの覇者、世界の覇者に成長するであろう中国。(当時がこれで、今や言うまでも無し)

いつか日本でもこういう状態が起きないか心配です。
何せ海に囲まれて守られている島国。
駆け引きなどの戦いが苦手だし、下手な民族。
 
大陸の連中は手強い。

頭脳・度胸・駆け引き上手。
決断力もあり、押しも強い。
一人一人が手強いのに、集団になると更に強い。
今後、こんな人達とガンガンやり合っていかないと、アジアの中で生き残るのは、容易ではないような気がします。
 
 車にエンジンをかけ、どこかへ行く華僑男性(ていうか動くんだ?)。
窓もなくなり、風通しも良いようだ。
拉致された女性とは反対の方向に向う(心配ではないのだろうか??)。
 
この事件は、これで終わりでした。
このまま。

この後、この女性がどうなったのかも分かりません。
この華人男性も周囲の人達も誰も気にしなかったら、もう彼女の事を助ける人達は居ないと思うので、それを考えるだけ恐ろしい。

 そんな事件のあった翌日、僕らは遂に「龍伝説の島」ティオマン島へと向ったのでした。

出航前に、また凄い経験をしました。

この記事が参加している募集

夏の思い出

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?