あれはなんだったんだろうの話
私があの体験をしたのは、翌日に高校の入学式を控えた深夜の出来事だった。
私は離島出身で、島には中学校までしかなく
高校に通うためには沖縄本島に引っ越しをしないといけなかった。
高校の入学式が始まる直前まで、生まれ育った島でゆっくり過ごし、入学式前日、母と共に沖縄本島へやってきた。
引越し先
これから通う高校の近くに祖母が一人で住んでおり、私は祖母の家でこれからのお世話になることに。
家自体、築年数はそこそこ経っていて
玄関から各部屋までの廊下とキッチン以外の床は全て畳が敷かれていたり、横にスライドするタイプの押入れがあったり、和の雰囲気が印象的だったが、老人の一人暮らしにしては広い作りとなっていた。
祖母が使っていない5畳程度の和室が一室あり、
その部屋を私の部屋としてもらえたことはとても嬉しかった。
夜になって
荷物を持って母と祖母の家に向かい、みんなで夕ご飯を食べた後、明日から着用する制服の準備などをすませ、私の部屋になったばかりの自室でイヤホン付けて音楽を聴きながら一人で寝ることにした。
明日からの高校生活にドキドキするし
16歳で親元離れ生活することの不安さもあるし
緊張感でいつもより寝つきが悪かったものの
いつの間にか寝落ちしてしまっていた。
寝てしまってどれぐらい経ったのだろうか…
ふと目が覚めたのだ。
カーテンの隙間から太陽の光は見えず、部屋の中は真っ暗。
イヤホンを付けてる耳にはまだ音楽がかかっていた。
まだ夜っぽいな…何時からわからないけど、寝れるうちにもう一度寝よう…
そう思い、音楽を聴きながらそっとまぶたを閉じた。
そうしたらどういう訳か分からないが
急に右耳から音楽が聞こえなくなり、音のボリュームがだんだんと絞られるような感覚で左耳も聞こえなくなり、何の音も聞こえない、急に無音になった。
初めての感覚だったが、充電が切れたのかと思い
イヤホン外すのも面倒だったのでそのまま耳に入れたままにしていた。
無音で過ごしていると突然、チャンネルのチューニングを合わせるように機械音がキュルキュル聞こえだしたのだ。
何だこれ…
心臓がバクバクし始めると、チューニング音がピタリと合ったかのようにザワザワとかなりの大人数で同時に話している声が聞こえ始め、直感でこれはヤバいとすぐに分かった。
5畳一間しかない部屋に一人で寝ているはずなのに
何十人もの人が同時に会話している声が聞こえるなんて…
初めての経験で怖くてぎゅっとまぶたを閉じたまま、身動きとれずじっとしていた。
すぐおさまるだろうと思っていたザワザワ声は全然おさまらず、何か楽しげに会話しているような様子。
一体何の話しているんだろう…
恐怖心もあるが少しの興味本位でなんの話をしているのか単語だけでも聞きとってやろうと思い、耳を澄ませた。
急に布団の左右、私の腕や肩あたりにゴソゴソと何かが入ってきたような感触があり、今までにこんな経験したことなくパニックになりかけたその時、
右耳のイヤホンから子どもの男の子の声で
『一緒にあーそぼっ!!!!』
とはっきり聞こえた。
怖すぎて目が開けられず、静かにしていると左耳のイヤホンから子どもの女の子の声で
『私も〜〜〜〜』と。
その直後、なぜかザワザワ声がだんだんボリュームしぼられていくようにまた聞こえなくなり、
今まで聴いていた音楽が突然流れ始めたのだった。
起きることも、動くことも、また眠りにつくことも怖すぎてできず、朝母に起こされるまでずっと布団の上で寝たふりして過ごした。
朝を迎えて
これから住む家に来た初日であんな体験をし、
母や祖母に私が体験した出来事をすぐ話したかったが、あの家にいる中で話す気分にはなれなかった。
入学式を終え帰りの車の中、幽霊を信じない母に一連の出来事を話してみた。
「緊張してたり、疲れてたりしてるんでしょ。
夢よ夢。大丈夫よ」と反応は案の定クールなものだった。
起きてる間の出来事だったけど、夢だったのかな…夢じゃないとそんなはずないよな…
夢だと自分に言い聞かせ、母は島に戻り
祖母と私の二人の生活が始まった。
住み始めてしばらく経ってもあれ以降、あのような体験をすることはなく、夢だったんだと思えるようになっていった。
母からの告白
しばらく経って、本島の生活にも慣れてきた頃。
母が出張で祖母の家にやってきた。
二人で夕ご飯食べに夜出かけていた時、
「どう?あの家慣れた?」とふと聞いてきたのだ。
そんな質問してくることに違和感があり
何でそんなこと聞くか理由を尋ねると
『実はさ…あの家で何度か見てるんだよね。』と。
昔から母は幽霊や宇宙人、そういった類いのものは全く信じていない。そういう人が何度も見てると告白してきたことに鳥肌がたった。
住んでるから聞くのは怖いが、何を見たのか聞いてみると、夜中お手洗いに行く祖母の後ろ姿を複数の子どもたちが楽しそうに追いかけて走って行ったり、長身の男性が私の寝ている姿を覗き込んでいたりしていると。
私が体験した出来事を聞いた母は、自分も見てるから夢ではないと思ったらしい。
これから私が住んでいく家だから怖がらせないようにしていたけど、あの家は幽霊信じない母でも見えてしまうほどだったようだ。
高校卒業するまでは祖母の住むお化け屋敷で何とか過ごしたが、その後は老朽化で壊すことなった。
今だに当時の出来事を思い出しては怖くなってしまうが、あれは一体なんだったんだろうか。
おわり
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