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[西洋の古い物語]「山の民とおかみさん」

こんにちは。
いつもお読み下さり、ありがとうございます。
今回は、自分の損得を優先して隣人に親切にしなかったおかみさんのお話です。
ご一緒にお読みくださいましたら幸いです。

※ 画像は、お話とは関係ないのですが、カール・ライヒェルト作「ディナー・パーティ」です。パブリック・ドメインからお借りしました。みんなで仲良くミルクを分け合っているのが微笑ましいですね。リボンの子猫も今にも参加しそうです。手前の黒い猫の邪魔にならないよう、わんちゃんが左の前脚をちょっとふんばっているのも良い感じですね。

「山の民とおかみさん」
 
妖精の種族がさもしいことに我慢ならないことはよく知られています。彼らは人間に何かをくれるよう頼んだり借りたりする時には、気前よく対応してもらいたいのです。そして彼らは、困窮して彼らのところへやってくる者には、決して物惜しみしないのです。
 
さて、あるところに一人のおかみさんが住んでおりました。彼女は自分自身の損得に鋭く目がきき、施しには自分がもう不要になったものを与えるのですが、それでいて何かお返しにお礼をもらうことを望んでおりました。
 
ある日のこと、一人の山の民が彼女のドアを叩きました。
「シチュー鍋を貸してもらえませんかね、おかみさん」と、彼は言いました。「山で婚礼がありまして、鍋はどれも使用中なもので。」
「一つ持たせてあげましょうか」と、ドアを開けた召使いの女の子がおかみさんに尋ねました。
「ええ、もちろんよ」とおかみさんは答えました。「ご近所さんには親切にしなくちゃね。」
 
しかし、メイドが棚からシチュー鍋を取り出そうとしますと、おかみさんは彼女の腕をつねり、鋭い声でささやきました。
「それじゃないよ、この役立たずめ!あの古いやつを食器棚から出しておいで。あれは漏れるけど、山の民は手先が器用で気の利く働き者だから、うちに返してくる前に修理するに違いない。妖精の種族に親切にしてやって、鋳掛けの6ペンスを節約するんだよ!」
(※ 鋳掛けとは、お鍋やお釜など金物のこわれた部分を、はんだや銅で修理することです。)
 
こう命じられたメイドはそのシチュー鍋を取ってきました。それは鋳掛け屋が次に来てくれる時まで使わずにおいておいたのでした。彼女がそれを山の民に渡しますと、山の民は感謝して立ち去りました。
 
やがてシチュー鍋が返されてきました。おかみさんが予言したとおり、鍋はきちんと修繕され、いつでも使えるようになっていました。
 
夕食時になりましたので、メイドはその鍋にミルクをたっぷり入れ、子供達の夕食用に鍋を火にかけました。ところが、数分たちますとミルクはひどく焦げて煙が立ち昇り、誰も触れることもできず、豚たちさえもそれを飲むのを拒否しました。
 
「ああ、役立たずの小娘め!」と、おかみさんは自分で鍋にミルクを入れ直しながら叫びました。「お前の不注意で一番のお金持ちでも破産させてしまうだろうよ!一度に上等のミルクがまるまる1クォート(約1.1リットル)も駄目になってしまった!」
 
「それで2ペンスだよ!」と叫び声がしました。その声は煙突から聞こえてくるようでした。自分の嘆きを繰り返す不満たらたらの老婆のような、愚痴を言うような調子の声でした。
 
おかみさんはシチュー鍋を火にかけ、2分間つきっきりで見ておりましたが、ミルクは沸騰し、先程のようにすっかり焦げて煙が立ちました。
「鍋が汚れているに違いないわ」とおかみさんはイライラして呟きました。「たっぷり2クォートのミルクなのに。犬にやった方がましだったわ。」
 
「それで4ペンスだよ!」と煙突の中から声がまた言いました。
 
すみずみまで洗ってからシチュー鍋にはもう一度ミルクが入れられ、火にかけられました。しかし、やはりうまくいきませんでした。ミルクはまた沸騰し、どうしようもないほど台無しになってしまったのです。この損失におかみさんは怒りのあまり涙を流して叫びました。
「私がこの家を切り盛りしてから一度だってこんなことは起らなかったのに!一回の食事のために3クォートの新鮮なミルクが焦げてしまったわ。」
 
「それで6ペンスだよ!」と煙突の声が叫びました。「結局、鋳掛け代の節約にならなかったね、おかみさん!」
 
そう言うと、あの山の民が煙突から転がり下りてきて、笑いながらドアを通り抜けて立ち去っていきました。
 
でも、その後はずっとシチュー鍋は他のどんな鍋よりも良い調子で使えたのですって。
 
 

「山の民とおかみさん」のお話はこれでお終いです。

おかみさんは多分、意地悪な人ではなく、節約上手で有能な主婦なのだと思うのですが、お礼に修理してくれることを期待して、山の民に壊れたお鍋を貸すなんて、ちょっとやり過ぎでした。

なかなか痛快なお話でしたね。スッキリしました!

でも、おかみさんを笑ってばかりはいられません。前回の「釘」もそうでしたが、私にとってはとても耳の痛いお話でございました。

小さな子どもにもわかりやすく、やさしい言葉で語られていますが、童話はたくさんのことを大人にも教えてくれるのですね。これからも、一つ一つのお話に謙虚に向き合いながら、丁寧に訳していきたいと思います。

このお話の原文は以下の物語集に収録されています。

今回もお読み下さり、ありがとうございました。
次回をどうぞお楽しみに。

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