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驟雨に流る1【相談No.01】黒い服の女1

今年はじめての春驟雨だった。
水の力技で道路が洗われて、端に溜まった砂が濁った水になって。その泥水に流されて、捨てられた煙草の吸殻が排水溝に詰まっていく。
この世の中も同じ様なモンだと思った。
自分が持っている仕事を後輩に放り投げ、自分の机の上だけ綺麗にする奴とか。
とにかく自分の前から消えてくれればそれでいい。消えた後は知らない。
では、流れてきたモノを受け取ることになった奴はどうなる?良いモノも悪いモノも、受け取り拒否できない立場の奴は一体どうすればいい?
例えば、何も知らないで異動してきた新人社員とか。
例えば、無名のタロット占い師の私とか。

“黒い服の女”から占いの依頼が入ったのは、そろそろ夏を感じるような暮れの春だった。
やわらかく、優しい驟雨に濡れた肩を上下しながら入ったのは薄暗いシーシャ屋。依頼者の“黒い服の女”は、シーシャ特有のけだるさを纏って店の奥座席にいた。
女は時折見せる危うい攻撃性を孕み、手首の傷と痩せた体が痛々しい。感情が分からない、なにも読み取れないようなミステリアスさ。

依頼された占いは問題なく終了。いただくモノはしっかりもらって。道具を片付け始める私に女はうっすらと微笑み、問いかけを“流して”きた。

「私って、呪われてるんじゃないかなって」

その微笑みに少しだけ薄ら寒いモノを感じつつ、「どうしてそう思うんですか?」と聞き返す。
女は赤い唇で甘い煙をふぅ、と吐き出す。
感じ始めた軽い頭痛の原因は、女の吐き出すこの煙のせいだろうか。

「私、「土着の呪いがかかっていますよ」って何人かの占い師に言われているの」
「思い当たること?詳しいことは分からないけど、母方の祖父が隣人トラブルに遭って。その時、鶏を切って裏庭に埋めて「俺はアイツを呪う××の儀式をした」って祖母に話したんだって」
「××の儀式?祖母も聞き取れなかったんだって」
「そもそも、祖父の家に鶏なんて飼ってなかったのに…」
「裏庭?特に変わった場所じゃないよ。山に向かう道に石仏が沢山あって、その道近くが家の裏庭だったの」
「暫くして、何があったのか分からないけど、その祖父が急に病気になって死んで」
「お葬式が終わって暫くしたら、祖母から母に電話があって、随分取り乱した感じで「あの呪いは私と、孫のアイツに感染る!」って言われたんだって。ああ、アイツって私のことね」
「私から祖母に電話しても、「さあ、そんなことあったかしら?」ってボケたふりされて」
「でも、祖父が死んでから、変なことというか…私の仕事とか人間関係が不安定になって、もう自殺未遂何度目だろうね…。私以外の家族にもちょくちょくトラブルが頻発してて」
「祖母?その電話の後少しして死んだよ。儀式?のあった家も取り壊して、今はとっくに更地。所有者は知らない」

話を聞き進めていく度、私は確実に体の不調を感じていた。
体の右側が痛い。右側には薄ら笑いで話す“黒い服の女”
相槌を打ちながら話を聞いているだけなのに、倦怠感と体の右側の痛みは強く、じわじわ広がっていく。
痛みは吐き出される度、天井に向けて広がっていく白い煙に似ていた。

「ここのシーシャ代、出しておくから。調べてもらえないかな」
「ああ、確か貴女も何かの呪いにかかっているんだっけ?“ROKUJOさん”」

心臓の鼓動の度に痛みが走る右半身を撫でながら、私は流されたモノを、しっかり受け取ってしまったことを察した。

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『驟雨に流る』1【相談No.01】黒い服の女2 ここから


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