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矢口監督、これはWood job!後編

前編はこちら/https://note.mu/roki/n/n6139c287cd65?magazine_key=m171daa613949

さてこの映画、関係者の間からは「このような仕組みで林業に関わらせても良いのだろうか?」という声も挙がっていた。つまり、「命が関係するような業務において、こんな素人のような人間を簡単に関わらせていいのか?」ということだ。

確かにこれはその通りかもしれない。実際に林業ボランティアを行っていた際にも、結構危ないと思うような場面は何度かあった。何十年の年月を経て成長した樹木と対峙していると、一回のミスが容易に命取りに成り得る。色んな意味で、森というのはそれほど重いものなのだ。

なので、ミーハーな気持ちで参加してきた素人をマニュアル通りに数ヶ月教育しただけで、果たしてすぐにプロの林業家として現場に投入してもいいのだろうか……?ということなのである。しかも、このマニュアルの内容というものがスカスカなのは、これまでの農業と同じく第一次産業であればほとんど同じことだろう。……まだまだ形式だけで、「後は現場で覚えろ」という伝統工芸の世界なのだ……。

というわけで、いい機会なので林業振興について考えてみる。

かつての大学祭実行委員会時代での経験から言えば、「イベントには主催者を増やすことが大事」ということに尽きる。要するに、「マーケットを広げることが大事」ということなのである。

当時、私はどうしたら学祭を盛り上げられるか?ということをずっと考えており、多くの人々は「有名な業界人を呼んで、集客数を増やす」という方法を取りがちだったのだが、私はそれではいけないことを既に学んでいた。外部イベンター頼みになるということは、自分たちのイベントの成否が外部頼みになって依存してしまう、ということなのである。これは、地域活性化関係の事業などでもよく見られる光景だ。

所謂、箱モノを作る、というのも同じような考えだ。基盤となる足腰を鍛えることをせずに、外側だけ、上モノだけを飾ろうとすると、中身が無いのでいずれ衰退する。大事なのは、参加者たち側で十分に楽しめる内容を作り、その上で外部をうまく使って盛り上げる、ということなのである。

アーティスト頼みで失敗した過去の経験からそのことに気づいた我々は、とにかく「参加者を増やす」ことに注力した。参加者とは、「出展者」のことだ。当時から若者の口コミの強さに気付いていたので、「イベントに参加する者を増やせば、その人達がさらに友人を呼んで、イベントも盛り上がる」と思ったのである。

そのために何を行ったのかと言えば、簡単には「規制緩和」ということに尽きるのだが……と、そろそろ話を林業に戻そう。林業において、どうしたら参加者を増やすことができるのか?……これも、学祭と同じことが言えるのではないかと思う。

「規制緩和」を行い、母数を増やすのだ。そして市場を作る所から始める。前述した通り、林業には危険が伴うので、そこまで辿り着くには、結構ハードルを高くする。ある程度の技術と経験を積まなければ、林業には携わることはできない、と。ただ、そこまでの裾野に関しては、間口を広く開けておく。

例えば、最近流行っているコワーキングスペースだ。手ぶらでそこに行くだけで、林業に関するあらゆることが体験できる場所。それを作る。のこぎりなどの道具の使い方から、木っ端を使ったアイテム作り。さらには大径木を使った家具作りや実際に小径木の伐倒など……。こうした「生産から消費までの一連のサイクル」を「体験できる」ことがこれからのトレンドになっていくだろう。

そんな場所、今でも普通にあるじゃないか、と言われるかもしれない。確かに、そういったイベントが林業組合などを中心に開かれているのを見ることもある。……だが、残念ながらそこには「デザイン」が足りない。行政関係主体の発想というのは、どこも同じようなものだ。

さて、何故こうした体験が重要かというと、今回の映画の感想ともリンクしてくる。「林業の凄さが伝わっていない」と書いたように、やはりどうしても現実体験に比べて見劣りするのが現状だ。おそらくここにVR技術が入ってきたとしても、しばらくはこれは変わらないに違いない。なので、「リアル」という体験が大事になってくる。

特に今後、都市集中化して行く社会においては、「森」というのは非日常空間になっていく。もしかしたら、海を見たことがない人がいるように、今後は森を見たことがない人が出てくるかもしれない。……森というのは、実はディズニーランドになれる可能性を秘めているのだ。

同時に、これまでは「住んでいる場所」というカテゴリで区切られ、そこに住む人々でグループが作られていた時代だったが、そのように「場所」でカテゴライズするのではなく、「森を楽しみたい人たち」という、目的意志によってカテゴライズする時代が来てほしいものだ。そうした人たちの間では、より一層、森や林業を楽しむことができるかもしれない。

そして最後に、「田舎の良さ」を挙げておこう。伊藤英明のキャラクターが絶賛されている今回の映画だが、確かにあの林業関係者のリアリティは見事だった。実際に私が会ったことがある人が出てるんじゃね?というぐらいのナチュラルさだw

そんな、一見「怖いおっさん」である先輩林業家の伊藤英明だったが、最後のシーンでは、見事な田舎の人間関係の濃さ、その情の熱さというものを見せてくれた。私も思わずもらい泣きをしたものだw

実はこれも「都会」には少なくなっているものだろう。同様に「祭り」も挙げられる。こうしたものというのは、実は都会だけでなく「海外の人々」にとっても、とても希少な価値があるものなのである。あれだけ先進国のイメージがある日本において、こんな原始的な風習が残っていたのか……と。この「文化」は、間違いなく魅力的なコンテンツにもなる。

まだまだ日本の村は、その魅力をうまく外部に伝えきれていない。可能性は無限大だ。後は、実際に体験して「ハマった」人が、税金を頼りにせずに自分たちの力でそれを創りあげて行けるかどうか?ということだと思う。毎回念を押すように書いておくが、税金を頼りにしてしまうと、最も重要なその「感性」が鈍ってしまう。

地方創世でバラ撒かれる税金に目が眩むと、その先に待っているのは「外部アーティストに頼る学祭」だ。ぜひそうした目の前のニンジンに目を奪われずに、「自らの責任で」森の魅力を伝える人が増えていって欲しいと願う。そうすれば、きっと満足できる未来が待っていることだろう。……少なくとも、「誰かのせいでうまくいかない」などという愚痴は出てこないに違いない。

……あぁ、またあの静かな森の中で過ごしたいなぁ……!

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