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心と荷物の整理

こんにちは、いとさんです。

アルゼンチンへやって来た時は、スーツケース二つとリュック一つ、貴重品を入れたウエストバッグ一つを持ってきました。多いか少ないかは分かりません。一年間だけアルゼンチンに住むためにあまり多くのモノは必要ないと思い、渡航までに色々と整理したのですけれど、改めて私の持ち物は大したものがないことに気付かされました。

自分の部屋の中をひっくり返して見てみたところ、私は本と服しか持っていませんでした。本はざっと見渡して旅と食に関するものが多く、大阪の地に腰を下ろしていても、心は常にどこか遠くの違う世界を夢見ていたことが伺えました。その時は自分のことなのにまるで他人の心に触れたような気がして、ようやく違う世界に身を置くことができるその人に良かったねと言いたくなりました。本棚からスペイン語の辞書と参考書、体調が悪くなった時に自分で体を整えられるようにとハーブの本、地球の歩き方、そして兼高かおるさんの小さな文庫本を選びました。

服に関しては、よくもまぁこれだけたくさんの服を持っていながら毎日のコーディネートに代わり映えがなかったものだなと思いました。一週間のうち五日間は仕事へ行きますけれど、仕事中は何よりも着心地がいいものを好みましたので、二本のボトムを取っ替え引っ替えして、後はトップスを三着程度ローテーションしていました。仕事の後に用事がある日は着飾っていくこともありましたけれど、仕事中に服を痛めたり汚したりしないかと気にしなければならないのが煩わしかったです。

服の仕分けの際は、まずお気に入りを選出することから始めました。そしてその中で一軍二軍に分けます。基準は着回しができるかどうか、どうしても着たいかどうかです。靴も同じです。仕事用とお出かけ用の二択しかない為、双方の差が激しくなかなか決断できずに来る日も来る日も組み合わせを考えて、使えないと判断したものはさっさと売るなり捨てるなりして、同時にタンスの整理もしました。結局一軍にはベーシックなものしか残りません。気に入っていても着回しができなかったり、嵩張るものは日本においていくことにしました。仕事で毎日のように着ていた服はくたびれてしまっていたのでお別れすることにしました。

学生の頃はあれもこれもとたくさん買い込んでメイクに一生懸命でしたけれど、高校を卒業した後あたりから、毎朝多くの時間を費やさなければならない大仕事をする割に、どれだけ色付けしても自分はあまり化粧映えしないことに飽き飽きし出して、どんどんメイクをしなくなりました。そんなこともあってファンデーションももう使っていませんでしたし、メイク道具もほとんど持っていませんでしたが、それでもなるべく荷物の量を減らしたかったので、使う頻度が少なかったものは思い切って処分しました。ほぼメンバーは変わりませんでした。

消耗品はアルゼンチンでも手に入りますから、あまり心配はしませんでした。こだわりを持って生きていたわけではなかったので、ある程度のことには順応できるだろうと気楽に考えていたのです。しかし海外の水が合わず髪が痛むということは、多くの経験者が語っていらしたので、先輩方のご忠告を素直に聞き入れてお守り代わりにヘアオイルとシャンプー、リンスを一つずつ持ってきました。これがなくなる頃には自分の髪が現地の水とどのような化学反応を起こすか、見定めることが出来ているであろうと思ったからです。

お世話になる人たちへの心ばかりのプレゼントと、日本が恋しくなった時のための特効薬に柚子胡椒や海苔など僅かな日本食をスーツケースに詰め込むと、あっという間にスーツケースは満杯になってしまいました。元々モノを多く持っていませんでしたけれど、それでも改めて整理してみると色々と持っていました。これからこれだけの荷物だけでやっていくのか、向こうへ行って困ったりしないかな、後悔しないかな等と心配しましたけれど、実際のところ一旦手元から離れてしまうと、時々思い出すいくつかの品を除いて、日本に残してきたものの存在はすっかり忘れてしまいました。

その程度のものだったということに気付くのはいつも別れた後です。傍にある時はそれを捨てるのが惜しいと思ったり、どういうわけか手放すことに罪悪感さえも感じます。どれだけ惚れ込んで高いお金を出して買ったとて、ある時期を過ぎたらまるで関心を示さなくなることもあり、男女の関係にそっくりそのまま言い変えることが出来るなぁと思います。好きな服と似合う服が違うところも、好きになる人と結婚して幸せになる人が違うと言われることに似ている気がします。

今暮らしている部屋にはクローゼットがありませんので、キャビネットの上にお店のように畳んだ服を積み重ねています。建築関係の仕事に携わっていた頃、収納収納と言って多くのお客様が小さなスペースを見つけては扉や可動棚をしきりに付けたがる様子を見ていましたけれど、収納するところがない場合はそれ以上にモノを増やさずに済みます。

自分の持っている服を見てみれば、心が移り変わってきた様子が見て取れるように思います。今回服を整理したことによって自分の心に向き合ったような気がします。そして自分にとって必要なものを厳選したことで、心も整理された気がしました。いつも「気がする」だけなんです。時間が経てばまた同じような悩みに出会したり、怒ったり笑ったりを繰り返します。そうやって迷いながら悩みながら選んで生きていくのが人生だなと、一向に括れない腹を抱えて今日も生きています。

いとさん

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