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Pescaderíaのおじいさん

こんにちは、いとさんです。

魚屋さんを営んでいる仲良しのおじいさんがいまして、彼が肉ばっかりじゃ飽きただろうと言って、私の為にたくさん魚介類を準備してasadoに招待してくれたことがありました。これには大変感激しまして、その週は日曜日が来るのがとても待ち遠しかったです。

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まず最初にparillaに登場したのはVieiras(帆立貝)でした。味付けは塩とレモンのみ。これ以上美味しい食べ方はありません。元々潔さのあるお料理と言いますか、質素な物が好きだった傾向はありますけれど、アルゼンチンに来て尚更そういった「基本のき」で調理されたものを好むようになりました。ですから、この炭火で焼いた帆立貝は私にとってご馳走としか言いようがありません。

少しレア気味に焼かれた帆立貝を見て、海鮮をあまり食べないアルゼンチン人達は「え、それを食べるの?もう少し焼かないと!」と言いましたけれど、魚屋のおじいさんは大丈夫と言ってすっと私に一つ寄越しました。まぁ、確かに貝ですから少し警戒した方がいいかもしれませんけれど、「当たったら当たった時かな」と考えていた時にはもうすでに口の中に帆立がいました。躊躇することなく一口で帆立を口に放り込んだ私を見て、おじいさんは「美味いだろ」と満足そうにニンマリしました。

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続いて出てきたこの大きなお魚の名前はすっかり忘れてしまいました。こちらも炭火で豪快に焼き、レモンと塩、それから確か少しパセリを散らした気がします。タラのような食感でとても美味しかったです。こうしてasadoをする時は外で食事が出来ますから、それも味付けの一つになっているのだと思います。美味しい美味しいと喜んで食べる私を見ながら、おじいさんは「やっぱり日本人は魚が好きなんだな」と目尻を下げて言いました。

私に美味しい魚介類をご馳走してくれた彼はイタリアからやってきた移民です。戦後の不況で仕事がなくなってしまったお父さんと一緒にアルゼンチンに移住してきたと言います。当時2歳だったと聞きました。お父さんと一緒に荷車で魚を売り歩いたそうです。別の日に彼のお店を訪ねましたら、当時の写真が飾られていました。お父さんの代からコツコツと続けてきたビジネスは孫の代まで続いています。そして今彼のお店は街の中心地にあり、毎日多くのお客さんが訪れます。小さな白黒の写真に映っている青年がしわくちゃのおじいさんになるまで、長い時間が過ぎ去っていきました。

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彼はお料理がとても上手です。お店でも色々な手作りのお惣菜を売っていてどれも美味しそうでした。お家で振る舞ってくれるお料理も大体彼が作っています。お父さんに仕込まれたのかイタリアを感じさせるお料理が多いようです。彼自身がイタリアで育った時間は短いですけれど、今でも遠い故郷を想う心があるようで、休暇には近くのカリブ海ではなくイタリアへ好んで遊びに行きます。イタリア語が不自由なく話せるということもあると思いますけれど、イタリアを始めとするヨーロッパの国々の長い歴史の上に培われた文化が好きなのだと話していました。

昼間はお店を切り盛りして、週末はパートナーに頼まれて家中の電球を変えたり、庭の掃除をしたり、時には皆に振る舞うasadoを焼いたりします。「俺は働くのが好きなんだ」と言っていましたけれど、本当に働き者だと思います。それは手を見ればわかります。穏やかでよく働く彼を見ていると、少しタイプは違いますけれど自分の父親を見ているような気になります。私がホームシックにならずに済んでいるのは、彼がまるで娘のように私を可愛がってくれていることも関係しているかもしれません。

いとさん

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