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【鈴木寛先生インタビュー】探究的な学びと教科の学びの往還で、これからの時代に必要な力を【五月祭教育フォーラム2024 「再考・総合型選抜 ~評価されるべき『学力』に迫る~」 特集】

この記事は、2024年1月28日に行った、東京大学・慶応義塾大学教授の鈴木寛先生との打合せ内容を記事化したものです。鈴木先生が入試改革や総合型選抜についてどのようにお考えか、本フォーラム企画班がお話を伺いました。

五月祭教育フォーラム2024概要

五月祭教育フォーラム2024「再考・総合型選抜 ~評価すべき「学力」に迫る~」

◆日時:2024年5月19日(日) 14:00~17:00
 (アフターイベント    17:00-17:30)
◆場所:東京大学本郷キャンパス 法文2号館2階31番教室 or Youtube Live
◆参加費:無料
◆ゲスト登壇者:
倉元直樹(東北大学高度教養教育・学生支援機構 高等教育開発部門入試開発室 教授)
後藤健夫(コラムニスト・教育ジャーナリスト)
佐々木隆行(山形東高等学校 教育企画課長)
(五十音順・敬称略)
◆学生登壇者:
谷津凜勇(カリフォルニア大学バークレー校1年)
◆パネリスト:
鈴木寛(東京大学公共政策大学院教授/慶応義塾大学SFC特任教授/NPO法人日本教育再興連盟代表理事)

お申し込みフォーム▶「五月祭教育フォーラム2024」参加申し込みフォーム (google.com)

【五月祭教育フォーラムとは】
五月祭教育フォーラムとは、東京大学の五月祭内で開催される日本最大級の教育フォーラムです。2006年から毎年開催されており、今年で19回目を迎えます。当フォーラムでは、その時々に即した教育の課題をテーマとして扱い、多くの方々と教育について考えます。昨年は「個別最適な学び」をテーマに熱い議論が繰り広げられました。
コロナ禍以前には800人以上が来場したビッグイベントで、近年はオンライン配信も併用し、場所を問わず多くの方にご参加いただけるようなフォーラムになっております。教育界の著名人を登壇者として招き、参加者の皆様とともにこれからの教育について考えるフォーラムです。教育に興味を持つ学生が主体となって運営しているNPO法人日本教育再興連盟(ROJE)が主催しております。

▼五月祭教育フォーラム2024特設ページはこちら
https://kyouikusaikou.jp/lp/mayfeseduforum2024/
▼弊団体HPはこちら
https://kyouikusaikou.jp/
▼五月祭教育フォーラム公式Twitterはこちら
https://twitter.com/roje_mayfes


取材メンバー

NPO法人ROJE 五月祭教育フォーラム2024企画班 知野皆弥、森山京香、下園絢音

①総合型選抜と教育格差に関する諸問題

森山:まず1つ目に、総合型選抜と教育格差について質問させていただきます。総合型選抜の推進によって、学校間での教育格差は起こり得るのでしょうか? 先生のお考えをお聞かせください。私たちは、これからの社会で必要だとされている「非認知能力」の濃淡にまつわる格差を想定しています。総合型選抜は高校までにしてきた経験や、それによって培われる非認知能力が重要になるため、総合型選抜が経済格差とともに体験格差を生むのではないかと考えまして。

非認知能力
IQや学力といったテストなどで評価している能力を「認知能力(cognitive skills)」と言います。一方、物事に対する考え方、取り組む姿勢、行動など、日常生活・社会活動において重要な影響を及ぼす能力を「非認知能力(non-cognitive skills)」と言います。

「非認知能力とは」日本生涯学習研究所https://www.shogai-soken.or.jp/non-cognitive-skills/(参照2024-4-16)

鈴木先生:今も格差はあります。既に濃淡はあるのです。今格差がないという前提から議論を立ててはいけません。今、格差を測る物差しがとても多様になっています。認知能力と言っても、非認知能力の中にさまざまな能力があり、一般入試での濃淡の分布に比べれば、総合型選抜の方がフェアネスは増すと思います。なぜなら、大学や学部側が、特にどのような非認知能力を見たいかによって試験の内容を決めればいいからです。
例えば、自然観察能力は都心の高校生は劣り、山間部の高校生はその能力が高い可能性があります。だから、何をもって「能力」と言うかなのです。認知能力の差はオンラインの普及で改善しました。そうすると次は体験的な格差の改善が必要です。格差には自然体験の差だけでなく、文化体験の差もあります。文科省の追跡調査によると、自然体験は山間部の高校が強いのはもちろんですが、文化体験は東京都と地方の県庁所在地にあまり差はありません。
東京に住んでいるからといって毎日のように劇場に通っているわけではないですよね。地方の学生の方が音楽や芸術に親しんでいるかもしれません。首都圏と地方の差よりは、むしろ県庁所在地と山間部の差の方が大きいのです。アクセスの良い県庁所在地に住んでいれば、主要都市まですぐに行くことができます。そういう意味では、県庁所在地と都会の差はあまりありません。
地方は文化格差について問題意識を持っているので、問題を意識したり改善のために予算をつけたりしています。一方で、東京都は文化格差改善のための取り組みはほとんどしていません。

知野:確かに、私の地元(山形県酒田市)でも市の予算で交響楽団を呼んだり、劇団の体験をしたりと地方の逆風を跳ね除けるような努力をしてくれていました。

鈴木先生:地方では問題が認識されていることによって解決のために努力しています。だから、今議論すべきなのは関東の貧困層です。世の中でなんとなく言われているこの「文化資本と機会の不平等」の問題は、東京は良いという前提で地方に目を向けがちですが実態は違います。東京の中で見ると一部の富裕層が文化にアクセスできる機会が多いだけなのです。

下園:それは感じますね。私が上京したときに一番最初に驚いたのは、富裕層とギリギリで生活している人が隣にいる感覚です。地元に戻れば、家庭によって多少違いはありますし、私が違いを感じ取れなかったのかもしれませんが、目に見えた差を感じることは少なかったです。本当に、高層ビルに住む人と地べたに座ってご飯を食べている人がすぐ隣にいるってことにすごく衝撃を受けました。

鈴木先生:それが都市です。東京は数十分歩くだけで全く違う景色になります。体験の格差についてもうちょっと解像度を上げると、実は東京はアメリカと似ていて、一部の富裕層以外の人が文化資本にアクセスできていないのです。ちなみに皆さんはクラシックコンサートを見にいくことはありますか?

知野:私は地方出身なので、地元でそういった機会を設けてくれていたことはありました。なおかつ、家族が子どもにいろいろな経験をしてほしいという意識を持っていたため、美術館や音楽、お笑いなど文化資本に触れる機会は多かったと思います。一方で、やはり他の人は海外に行くなどさまざまな経験をしていたので、地方の中でも人それぞれという感じですね。地方の人と東京の人とで経験の差はあまりないのではないかと思いました。無理にカテゴライズ化せず、個人ごと家庭ごとの違いを見ていくのが重要かと。

鈴木先生:むしろ、東京の中とか地方の県内での問題の方が大きそうですね。
一方、貧困の話になると、日本の貧困率が最も高いのは足立区です。就学支援を受けている貧困層はそもそも大学に進学しませんし、できません。だから、大学進学する人の中での格差の話とそもそも大学に進学しない/できない人の抱える格差とを分けて考える必要があります。また、自然体験格差や地域交流格差、探究に関する格差は地方が優位です。なぜなら、地元の中小企業も農協も漁業者も、高校生が学ぶにくることを拒否しないからです。一方、都会は探究のネタにアクセスできません。こういった点では総合型選抜は地方の人にもチャンスがあると言えます。反対に、一般入試では歴然と機会の差が生まれてしまいます。
総合型選抜で探究活動の成果を重視していくと、むしろ地方の有利さが出てきますよね。だから、どのように対応すべきかを認識することはとても大切で、かつ格差と言ったときに、ちゃんと多様な物差しで、多様な定義でそれぞれ解像度を上げて議論すべきということですよね。
海外で言うと、森山さんが高校時代過ごした香港も格差が大きいですよね。

森山:本当にそうです。香港では、高層マンションの1フロア全部が自分の家だという人もいれば、椅子2つ分くらいの「ケージハウス」で生活している人も少なくありません。また、香港は英語社会なので、英語力の有無によって給料にも格差が出てきます。

②入試改革のトリクルダウン効果

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