自宅マンション爆破事件

 火遊びが好きだった。火に魅了されていた。爆竹にも興味津々だったが、音が凄まじいため普段ひっそり1人で楽しむ派の俺には向いてないなと諦めていた。

「マイトの健二」とでも呼ぼうか。2つくらい歳上の健ちゃんとその友人は近所の公園のブランコで靴飛ばしをして遊んでいた俺たちを呼び寄せた。
「アリの巣、爆破するで。ここに2つ、巣穴あるから、2つともやる。」
「どうやって?」
「爆竹や!」
「花火のやつ?」
「そうや。」
「どう、どうやって、火ぃつけるん?」
健ちゃんはポケットからライターを取り出した。
「そんなん、持ってていいん?」
子どもの基準てのはこんなもんだ。爆竹を持っていてもいぶかしがらないが、ライターは持っているといけないものだ。そんな俺たちの風紀システムを適当にあしらい、シュッ、シュッ、シュボッと、火を灯し、爆竹の束から一本外したやつを巣穴にねじこみ、着火。パンッ。
「おぉぉぉ!」
そうやって、もう一つの巣穴もアリごと吹き飛ばし、捕まえたセミのお腹、というか命を吹き飛ばした。

 興奮にまかせ、ついに憧れの爆竹を公園横の駄菓子屋で買い(確か100円しなかった)、家に急いで戻った。発破仕事は公園でしたいのだが、ライターを持ち歩くほどのアウトローではなかったので、家に取りに行く必要があったのだ。我が家は誰もタバコは吸わないが、蚊取り線香や花火なんかに火をつける必要もあるから黒電話の後ろのカゴにそれがあるのを知っていた。火遊びは大好きだが、マッチ派の俺はライターで着火した経験はほとんどなかったが、マイトの健二の真似がしたく、ライターを使う必要があった。

 うちには母さんの友人達がよく集まりお菓子なんかを食べていることがよくあった。この日もそうで、みんなに「おかえりー。」「ただいまー。」とやりながら、手を洗って、できるだけさりげなく、サインペンなんかをとる素振りでライターをサッとくすねた。ほんとうはしばらく部屋に潜伏しているべきだったが、どうしようもなくダイナマイトしたかったので、なんと言って再び外出したのか忘れたが、一目散に家を出た。今思うと、母さんらにはもう何かやらかすな、マジで恋する5秒前であることは察知されていたと思う。

 公園まで行くべきだった。そのつもりだった。が、用意周到というか、我を忘れながらも爆竹の束がどんなふうになってるのかを確かめたかった俺は、ポケットから爆竹を取り出し、束から一本だけちぎり取ろうとしたが、どういうわけか同時にライターも点火してしまい、あろうことか束の方の導火線に着火してしまった。もうパニックだ。今なら、導火線先端をぎゅっと摘み、火を消すんだが、そんなことは思いつかず、手を離し、マンション中に轟くような爆発音を鳴らし、炸裂した。すごい火薬の匂いと煙。すぐにドアが開き、母さんらが出てきた。
「どうしたの?大丈夫?」
とか言っていたはずだが、もはや何も聞こえない。
「なんもない。」
背後に煙が残っているのに、もうそう言うしかなかった。爆竹より、やはり、なぜか、ライターを持ち出し使ったことを怒られるのをなんとかごまかしたかった。
「公園で拾ったライターで、、、、」
「ライター見せなさい。」
「いや、もうない、、、。公園にあるかも、、、。」
そんなわけない。公園で拾ったのだとしてもマンション階段室で使って、直後に公園にあるイリュージョンなど。母さんも追及モードに入ったので、
「じゃあ、公園に行こう。」
やばい。もういろいろ破綻している。バラ色の発破ライフを公園で送っていたはずなのに。とにかく、母さんがスリッパを靴に履き替えてる瞬間にポケットのライターをマンション隣の空き地に階段の踊り場から投げ捨てた。しまった。投げなくてよかった。公園まで行ってから、適当にゴミ箱なんかを探せばよかった。もうすでに全部バレてることなど頭にはなく、空き地に猛ダッシュ。母さんが階段降りてくるまでに、必死でライターを薮から探し(人間、必死になるとなんでもできる、いや、しなくていい)、母さんを後ろに速歩きで徒歩2分の公園に行き、シナリオ通り鉄ワイヤー編みの大型ゴミ箱の前に駆け寄りガサガサ。
「あっ!あった!ライター!」
「、、、わかった。あんた、それでいいんか?なんや、ライターって。何やったかわかってるか?」
「、、、。ごめんなさい。」

  これはこたえた。普段は、とにかく毎日、先生や両親に叱られたり、説かれたりしていたが、反省などほとんどせず、というかすぐに忘れてまた危ないことを実行する俺だったが、この件は内容は大したことないが、いたく反省した。目の前で起こしたことの結果を予想できず、パニックになり、程度の低い嘘をつき、ダサい小芝居をうったこと、それが母さんだけでなく近所のおばさんたちにもみえみえだったこと。それら全てがカッコ悪くて恥ずかしかった。夜、改めて父さんにも叱られた。一歩間違うと一生残る怪我につながったこと。そうなったらと思うと、母さん父さんがとても悲しみを感じること、燃えにくい鉄筋コンクリート造のマンションでも、今回のようなことで火事になることがらあること、、、。それらをまず説明され、ライターを勝手に使い、まあ、その後の愚かな顛末についてももちろん叱られた。

 その後も俺はお恥ずかしいあれこれを起こしていくんだが、それでもこの事件、いや、事変のあとは何かひと皮むけた、と思う。

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