私が貴女と呼ばれた日
年度末の引越しを控え、私は職場を離れることは皆の知るところであった。
よくくる客である1人の老人が白い封筒を差し出してきた。
「これ…家で読んでください。」
私は受けとった。
「なんだろう…
…お金かな❤️?」
家に帰って開けてみるとそこには千円札の1枚も入っていなかった。
ザンネン!
がっかりした私はお金の代わりに入っていた便箋をペラっとひらいて読み始めた。
そこには普段からの私の働きぶりが
最大限に褒め称える文章があった。
ちょっと何コレ嬉しいじゃん。
例え客でも見てくれている人はいるんだな。
これを励みに新天地でも頑張ろう。
しかし
なんかキモチワルイ。
キモチワルイの正体はなんだろう。
……
「貴女」だ!
冗談だったらいいけど
関西女である私は
こんなのキモチワルくて仕方ない。
うっへー。
さっきまでの嬉しい気持ちがどんどん遠ざかっていくのを感じながら私はさらに読み進めた。
「本来なら餞別をお渡ししたいところですが、貴女のような立派な女性はきっとお受け取りにならないでしょう」
ええ!!どうして?!
私お金大好きよ?!
こいつの頭はイカれてる…。
勝手に妄想の私を作り上げ
勝手に崇拝している。
キモい…
私はこんな奴が大っ嫌いだ。
サブイボを堪えながら
私は読み進めた
「そこで私から貴女にお願いがあります。新しい住所を教えて下さい。私が作った野菜🥦🥬🥕🥔を送りたいと思います。」✨
いらん!!
食えるかそんなもん!
沸き立つイラダチを抑えて
翌日出勤した私のところに
またあの老人がやってきた。
「読んでもらえましたか?
住所を教えて下さい。大丈夫です。旦那さんにはわからないように送りますので。」
キモすぎる。
私は目眩を堪えながら
丁重に断った。
「せっかくですがお気持ちだけで。お野菜も送料がかかりますから。嬉しかったですよ。仕事ぶりを褒めていただけて。」
あの時なんで私はあいつの「貴女観」をぶち壊さなかったんだろう?
私はめんどくさがりなのか?
私はええカッコしいなのか?
未だ持って謎である。
引越で老人と縁が切れるのを
私は大いに喜びましたとさ。
なんのはなしですか
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