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みちのく津軽ジャーニーラン266km完走記 その6 チームで動かないチームメイト(スタート~22.4km嶽温泉)

俺たちは、7月16日17時、ついにスタート地点の弘前市さくら野百貨店を後にした。

イマココ
イマココ


傲慢な漢たち


ついに、ついにスタートした。いや、何がってブログでやっとレースがスタートした。ここまで長かった。断固たる完走を誓ってダンコたる作戦もみっちり立てた。あとはやるだけだ。引いたと思った風邪も、許容範囲のダルさにしかなっていない。大丈夫だ。さぁ、行こうか。合言葉は、「何があっても125.9km龍飛地区コミュニティセンターまで一丸となって!」。ここから先のエントリは、頻繁にチームメンバーが出てくるのでこちらを再度参照してほしい。彼らの魅力にもたっぷりと触れていきたい。それぞれの素晴らしい部分も、愛らしい欠点も、余さず伝えていくつもりだ。

最初は街中を抜け、10km程度は平坦な道が続く。俺は出走前にトイレに立て籠りOPP(おなかPP)を済ませていたが、山に入る前にもう一度OPPをしておきたかったので、信号に絡め取られないように少し早めのペースで皆より前を進んでいた。10km地点のローソン(これが山道に入る前の最後のコンビニ)で完璧なOPPを済ませ、前を行っているであろうチームメイトを追った。

少しして、マッキーと思しき姿が見えてきた。長い髪をたなびかせて、リュックが不必要に大きく揺れている。あれはたしかにマッキーだ。その30mほど先には、我らがチームと同じ色のTシャツを着た人間が走っている。見間違えがなければおそらくエンディだ。しかしこの二人、ほぼ同じ場所を走っているはずなのにも関わらず、一緒に走っているわけではない。なんだ、もう仲違いしてるのだろうか。「みんなで一緒」にと言ったのに、もう一緒に走るのをやめたのだろうか。ずいぶん早いな。ヒロポンの姿はさっぱり見えない。だいぶ先を行っているようだ。 

2人に合流すると、エンディがしきりに聞いてくる。「もしかして、もう勝ちですか?」待て待てエンディ、たしかにここまで(スタートから10km)は計画通りに進んでいる。しかし、そんなのは誤差の世界であり、これからが勝負なのだ。明らかに早計なコメントである。が、先輩なのであまり強くは言い返せずにいると、「勝ちですよね?」と念を押してくる。俺は言ってしまった。「それはちょっと傲慢じゃないですか?」 


皆さんは、他人を諫めるときに普段どんな言葉を使われるだろうか?「マイペースですね」、「自分勝手じゃない?」、「本音を言いすぎだよ、もうちょっと考えて発言しなよ」あたりだろうか?それとも、「あまり強い言葉を使うなよ、弱く見えるぞ(※)」、「いちいち癇にさわるヤローだ!(※)」、「おまえ、もしかしてまだ、自分が死なないとでも思ってるんじゃないかね?(※)」あたりだろうか?
※(藍染惣右介隊長、皆大好きフリーザ様、戸愚呂弟 試験に出ます)

「傲慢」。チーム・サムライ魂で、他人を諫めるときに最も多く使われる言葉があるとしたら、この「傲慢」という言葉であるのは間違いない。サムライ魂の共同創設者、「カイザー」が極めて傲岸不遜、天上TENGA唯我独尊、「俺か俺以外か」の「ザ・傲慢」な人間であるため、必然的に「人間、ああなってはいけない」という雰囲気がいつの間にかチーム内で醸成されており、この言葉が流行することになった。

カイザーは若くして、合法的な範囲かつ他人に迷惑をかけない範囲でのありとあらゆる人としての間違いを犯してきた漢である。どの話を聞いても抜群に面白く、気が触れていて、それでいて本人は「そうですか?普通じゃないですか?僕は変わらないのに、みんながどんどんおかしくなっていったんですよ」などとのたまっている。俺は保険を生業としているため、自らの死後、家族はどう生きていくかみたいなテンプレの話をしたことがある。返ってきた答えはこうだった。「羅王さん、思うんですけどね。ボクが死んだら、その後の世界なんて意味ないと思うんですよ。だってそうじゃないですか?ボクがいない世界なんて、存在する価値すらなくないですか?そう考えると、保険なんて死後の話だから意味ないですよね?」

俺は鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしていたと思う。横を見ると、カイザーの奥様は豆が鳩鉄砲を食らったような顔をしていた。カイザーは、啞然とする二人を前に、民を魅了するいつものサイコパスな笑顔で語っていた。カイザーの名誉のために言っておくと、今は過去から決別し、素晴らしい漢になっている。(多分)


世界最高の名著、「銀河英雄伝説」には、ありとあらゆる学びが詰まっている。一見、スターウォーズのような軽いタッチのSF小説に見せかけておいて、その実、人類の歴史とその教訓全てがわずか10巻の物語に凝縮されている。D級妖怪からC級妖怪へ、A級妖怪からS級妖怪へと、今より1つ上のレベルを目指す諸氏は、今年中に必ず読破してほしい。絶対に後悔はさせないし、人生の航海をより良い形で進めていくために必須となる座右の書となりうる存在だ。

この物語には、大きく3人の傑出したリーダーが出てくる。腐敗した共和制を排し、自らが絶対的君主として君臨。後に最強ではあるが最悪の独裁者となり帝国を築き上げたルドルフ・フォン・ゴールデンバウム。そのルドルフの築き上げた帝国を内部から崩壊させ、公正と公平が闊歩するある種の理想的な新帝国を築き上げた皇帝、ラインハルト・フォン・ローエングラム。そしてそんな新旧帝国からは距離を置き、「最悪の民主制はそれでも最高の独裁に勝る」との信念を貫き、自らが守ろうとする民主共和制そのものに手足を縛られ自由を奪われながら、天才的手腕で様々な窮地を脱していくヤン・ウェンリー。ヒトラーとスターリンと毛沢東を足して3を掛けたような凶悪極まりない存在のルドルフが遺した失敗国家たる帝国という遺産に対し、ラインハルトとヤンがそれぞれの答えを戦いながら悶えながら導き出していくという物語である。

アマゾンプライムでアニメも見られるが、おススメは断然小説

カイザーは、為政者としてのラインハルトに憧れている。しかし我々チームメイトから見ると、明らかにルドルフみが多い漢である。そのうちルドルフのように自らの銅像を建てたり、不老不死を実現するためにドラゴン・ボールを探し始めたりするんじゃないかと俺は本気で思っている。カイザーは唯一無二して至高の存在であり、ゆえに孤独であり、聞くところによると真の友と認めているのは亀しかいない。あの亀やで。びっくりするわ。カイザーの名誉のために言っておくと、今はかつての自分を悔い改め、素晴らしい漢になっている。(おそらく)

チームメイトとは写真を撮らず、将来自らが埋葬される予定の桜の木を背景に撮るカイザー

何度かの議論を重ねた後、我々は、カイザーの過去の過ちのすべてはその比肩するもののない「傲慢性」によるものと結論づけた。ルドルフ・フォン・ゴールデンバウムがそうであったように、自らを至高の存在とし、その傲慢性と共存し得る卓越した手腕により、まずは破壊を、後に創造を繰り返していく。しかし「傲慢」の行く末は、今は良くとも遠からず決して明るくない未来につながっており、我々一般人は自己の調練と変化変革を心掛けつつも、傲慢という名の陥穽にハマらないように謙虚に生きていくしかない。カイザーの名誉のために言っておくと、今は過去の自分を叱咤激励できるほどに、素晴らしい漢になっている。(かもしれない)

傲慢にならない。そう誓ってからは、お互いに少し調子に乗っている素振りが見えると、「あれ?大丈夫ですか?今の発言はちょっと傲慢になっていませんか?」、「よろしくないですね、少し傲慢になっているように見えますが・・」とフリーザ様のように丁寧語で注意喚起することが、もはやチーム内のマナーとなっていた。褒めるときは「謙虚ですね、またさらに徳を積んでしまいましたね」が定番だ。

相手を威圧するときも丁寧語を忘れない、謙虚なフリーザ様(Souce:DB)


ちなみに、本当にカイザーの名誉のために少し付け加えておくと、カイザーは今回の第6回みちのく津軽ジャーニーランには出走していない。自らが経営する会社の上場準備で忙しく、3年前に行われた第5回の「短い方」177kmを俺とともに完走したに過ぎない。つまり、今回のメインキャストではない。にも関わらず、ここまで紙面を割いてわざわざカイザーに言及しているのはなぜか?それは、カイザーと共に作ったチームであるからという理由以上に、カイザーが我々にとって強敵(とも)であり、戦友(とも)であり、この上ないほどのクソヤローであり、過去見たことがないほどの傲慢野郎であり、そして結局のところ憧れであるからである。チームメイトはみんな、カイザーが好きなのである。本人の話はクソつまらないが、いないときにこんなに話題になる漢もまたいない。

予告しておくと、どうやら来年の「長い方」にカイザーは出場するつもりのようである。もし見かけたら、「高身長、高収入、高慢のカイザーですね?」とか、「ラインハルトというよりはルドルフなカイザーですね?」と声をかけてあげてほしい。「そうです、私がカイザーです」と、全盛期の志村けんを彷彿とさせる返しをカマすはずである。


小さくとも厄介な揉め事たち


10kmを過ぎたあたりから22.4km嶽温泉に向けて、緩やかではあるが確かな坂道が続いていく。このあたりはキロ8分から8分半程度で登りたいところだが、夕方スタートで気温が全然上がらないせいか、幸いにして計画通りに進むことができた。隣にはずっとエンディがおり、一緒に走ったり遅れたり先に行ったりする安定感のないマッキーがおり、そのさらに少し先にはおそらくだがヒロポンがいる。

エンディが言う。「ヒロポン、ちょっと先に行き過ぎじゃないですかぁ~?あれは傲慢と言わずして何と言うんですかぁ?」ねっとりと言っているがその通りである。あれだけ一緒に行こうと行ったのに。少し想像力があれば前にいたはずの俺がずっと見えないのであるから、OPPでもしているんじゃないかと後ろを振り返っても良いものだが、ヒロポンは一向に見えてこない。きっと、山王戦のみっちーこと三井寿のように、「オッケー、しかし今日のヒロポンはいいぜ、みちのく津軽よ・・・」とでも思いながら走っているのではないだろうか。三井寿はこの日序盤で調子に乗り、そして後半で大きく失速する。ヒロポンはどうだろうか。(実際、彼は後にチームメンバーいちの地獄に見舞われることになる)

山王戦序盤で調子に乗る三井寿 Source:スラムダンク



だいたい、ヒロポンは前日入りした俺、エンディ、マッキーと違い、弘前には当日入りしているのだが、大宮から新青森までなんと新幹線のグランクラスで来ている。あの至れり尽くせりで有名なグランクラスですよ、奥さん。もうこの時点で傲慢さを指摘する内容証明が弁護士のエンディから届いても仕方がないと言える。走っても走っても追いつかない腹いせに、ヒロポンへのほのかな怒りが湧いてくる。そういえばこんなこともあった。ロングランの練習中に学生時の「現役時代」の女性関係について聞いても、「あの頃は、だいたい目が合うと向こうから来てたんですよ」などと言っていたが、こんな傲慢なことを言ってたのは俺の知る限り、ヒロポン以外だと藤井フミヤだけだ。くそ、俺も一度でいいからそんな傲慢なことを言ってみたい人生だった。カルロス・ゴーンとアンドレ・アガシを足して2.5で割ったような顔をしている親父のDNAを受け継いだ俺は、ついぞそんな恵まれた人生を生きることはできなんだ。

ロードレース界の英雄、ファビアン・カンチェラーラに瓜三つのヒロポン


横を見ると、あれほど謙虚に生きる、傲慢さとは距離を置く、他人を赦し菩薩のように心穏やかに暮らすと言っていたエンディが、27回ぐらいねちねちと「勝手に先を行くヒロポンがいかに傲慢か」の話をしていた。全然菩薩じゃないじゃないか。自分が指摘されると不機嫌になり、他人の指摘は容赦なくするのがエンディである。なかなかに傲慢なところが見て取れる。しかも、エンディは先輩、俺が後輩だからか、いちいちヒロポン傲慢説への合意を求めてくる。ツライ。

傲慢に独りで先を行くヒロポン 撮影:こしかわしづ女史

マッキーはどうか?これまた傲慢と指摘せざるを得ない走りをしていた。何はともあれ、10km地点で合流した後、とにかくペースが合わない。俺、エンディと共に走れば良いものを、先に行ったり後ろに行ったりしている。そんな燃費の悪い走りをしていては後々ツラくなるだろうに、「おっかしーなー?」、「なんでかなー?」と不必要にデカい声で言いながら、徐々に遅れたり猛スピードで追い抜いたりを繰り返している。いや、歩幅は違うかもだけど、ピッチをコントロールして同じスピードにすれば良いだけじゃないの?ちなみにマッキーは直前の野辺山ウルトラ100kmを見事に完走しており(俺は67kmでリタイヤ)、走力は圧倒的に俺より上であるからして、ペースのコントロールは容易なはずである。走りたいペースではなく、走るべきペースで走るべきなのだが、マッキーは「これがちょうどいいんすよ!」と言っていた。俺は基本的に、原理原則(物理法則や大数の法則により導きだされる至極妥当と考えられる合理的論理的な回答)より私理私則(自分の考え方、自分のやり方、自分の経験値)を優先する人間は、漏れなく傲慢だと思っている。マッキーは本能で動く人間なので、ちょっとこの私理私則に則って行動する傾向が強い。


そんなわけで、何はともあれさっぱりチームワークが働かない。要するに、最初に誓った「何があっても125.9km龍飛地区コミュニティセンターまで一丸となって!」が最初の2kmぐらいしか守れてなかったのである。ペースは悪くないものの、これは明らかな不安材料であった。こんなんで、限界を超えるレースに耐えられるんだろうか?こんなんで、いざという時に協力しあえるんだろうか?こんなんで、皆でゴールだなんてできるんだろうか?口には出さなかったが、序盤から大きな不安を抱えるレースとなった。

ほどなくして、22.4km嶽温泉に開始から2時間55分で着いた。計画の3時間からは5分程度アドバンテージ。体力の損耗もそこまでない。完璧だ。先についていたヒロポン、マッキーとも一瞬すれ違ったが、「何があっても皆で125.9km龍飛地区コミュニティセンターまで一丸となって!」の合言葉もむなしく、2人はなぜか先に行ってしまった。なんなんだお前らは。 横を見ると、最近笑顔が自慢だと言っていたエンディが、土偶のように無表情になっていた。。。

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退かぬ、媚びぬ、省みぬ!
我が生涯に一片の悔いなし!

羅王

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