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みちのく津軽ジャーニーラン266km完走記 その16 言い訳はいいから早くしてください(255.1km黒石駅前多目的広場~266.4kmGOAL地点)

Into Darkness

Source:SF映画の金字塔、STAR TREKシリーズのジャケット


255.1km黒石駅前多目的広場に着いた。ただいま17時10分、スタートから48時間10分が経過。残りの距離は11km、制限時間の20時まであと2時間50分。いける!間違いなくいける!もうぜーったい大丈夫!

最後のエイドとなるここ黒石駅前多目的広場では、黒石名物の「つゆ焼きそば」がふるまわれる。この地域の人以外には想像しづらいかもしれないけれど、名前の通り焼きそばがつゆに浸っているという、そんなのアリ?という組み合わせ。しかしこれが美味い。甘さとしょっぱさの絶妙なマリアージュ。全てのエネルギーが枯渇した今の俺たちに、最上の栄養を補給してくれる。

黒石名物、つゆ焼きそばのイメージ

美味すぎて、エンディはもはや逝っている。

疲れすぎて生来の無表情すら保てなくなっているエンディ


48時間で初めて、本当に初めて「時間的余裕」が出来たので、スタッフの皆さんの写真を撮ってお別れ。本当は全エイド、全スタッフさんの写真を撮って感謝をお伝えしたいところだけど、ここのスタッフさんたちの写真を以て全員への感謝に代えさせていただく。「いってらっしゃい!」、「おめでとう!」と、ほぼ完走OKな状況のおかげもあって超前向きな応援が降り注ぐ。ありがとう!いってきます!

最終エイドのスタッフの皆様 写ってる人もそうでない多くの人も、ありがとう!


あと11km、ちょっと休んだので制限時間まで2時間40分。さぁ、ツール・ド・フランスでいうところの最終日、「パレード走行」を始めようか。207.5km津軽中里駅~215.5km金木町観光物産館の間も色々早合点してパレード走行をした(直後、地獄を見た)が、今回はさすがに大丈夫そうだ。

ツール最終日は、タイムを競わず皆で完走を祝う


まず初めに、我らが「チーム・サムライ魂」のCo-Founderであるカイザーに電話をかける。ちょっと早いが、初めてそうと確信できる勝利宣言だ。数年前にともにウルトラの道に入り、数々のレースで死線を共にしてきた戦友(とも)であり、最近ちょっと仕事が忙しいからとレースには腰が引け気味でバーベキューにしか顔を出さない"Traitor(=裏切者)"でもある。

プルルルル・・・「もしもし?」
「もしもし、カイザーですか?私です。提督です。監督から提督になりましたので、以後提督と呼んでいただけますか?」
「あれ?提督、もしかして浮ついてますか?声が上擦ってますよ?」

最初の一言で目前に迫った勝利に浮ついていることがバレてしまったようだ。バカと煙よりも高いところが好きで、サルよりもカンタンに木に登ってしまうのが俺だ。しょうがない。もう何十時間も戦ってきたんだ。声ぐらい上擦らせてくれ。

一通り、他愛もない話をする。カイザーは俺とエンディの勝利報告を聞いて、自分ごとのように喜んでくれた。「来年は必ず一緒に完走しましょう!」そう宣言したカイザーの決意もエネルギー源にしながら、俺たちはゴールまでひた走る。(なお、1年後の2023年7月14日現在、必ずと言っていた言葉とは裏腹に、カイザーは今回もWNS=Will Not Startが確定している。やはりTraitor。。。)

これほどまでにイケメンで話がつまらない漢を私は知らない


エンディとは、レースを振り返っていろんな話をした。「みんなで一緒に最後までいこう!何があっても95.5km鰊御殿までは一緒に!」とスタート時に誓った直後にさっさと先に行ってしまったヒロポンとマッキーに対して、イラつきを抑えきれなかったこと。そんなヤツらへの怒りをコントロールし、自分史上最高に謙虚に菩薩化してしまったこと。その謙虚な心を以てしても、やはり極限状態においてはマッキーの品のないデカい声とヒロポンの苦労感ゼロの恋愛話(目が合うと大体女性が堕ちるという藤井フミヤ系)には心を乱されてしまったこと。頭のマッサージに行ったら「よくこんな固い頭皮で今まで生きてきましたね!そら笑顔も固まりますわ!」と驚かれたという、意外な土偶誕生秘話。

仲間を一通りディスった後は、やはり万物への感謝が湧いてきた。こんなドSなレースを作ってくれた舘山代表はじめ、スタッフ、ボランティアの皆さんへの感謝。こんな我々を走らせてくれる津軽の大自然、そして人々への感謝。快く送り出してくれてる(かどうかは知らないが)家族への感謝。幾度となく衝突したけど、それでもやっぱり最高な仲間たちへの感謝。何度も何度も限界を迎えながらも、今こうしてレース最終盤までなんとかもってくれている、自分自身のココロとカラダへの感謝。

ゴールが近いということが大きく影響したのか、とめどなく万物への感謝が湧いてくる。みんな、ありがとう!ありがとう!ありがとう!


あり・・・が・・・とう・・・

あれ?・・・おかしいな・・・

あ・・・り・・・が・・・

あ・・・


俺は、動けなくなった。最後のエネルギーが尽きた。

「提督、ていとく、あれ?ていとく?ていとくぅぅぅぅぅ!」
エンディの声が遠くに聞こえる。。


Here Comes The Legendary Attorney


ラスト7kmで屍人と化した俺は、その場で動けずにいた。人は、限界を超えると走れなくなるが、本当に限界を超えると、歩くことすら出来なくなる。走るための筋肉と歩くための筋肉は微妙に違っていて、片方を使っているときはもう片方を休ませながら、この超長丁場をなんとかかんとかもたせてきた。それが両方とも限界に達し、「疲れたから歩こう」ということすら出来なくなってしまった。かろうじて座り込むことは避けたものの、手を膝についたまま、その場でリビングデッドと化した俺だった。動けない、マジで動けない。本当に本当に本当の限界を迎えてしまった。俺はエンディに言った。「先に行ってください。」

エンディは微笑みながら、「なーに言ってるんですかぁ。ここまで来て、別々にゴールはないでしょう。必ず一緒にゴールしますよ。提督は私が必ずゴールまで連れていきますよぉ。」泣けてくる。ねっとりとした丁寧な喋り方と相まって、「キングダム」の作中最上位の人気を誇る王騎将軍にしか見えない。エンディ、カッコよすぎるぜ。

キングダム15巻 趙軍に絶体絶命になっても全軍を鼓舞する秦の大将軍、王騎


俺は膝についた手を戻し、なんとか動こうとする。エンディはずっと微笑んでいる。微笑ンディだ。歩くにしてもあまりに遅いスピードだけど、それでも少しずつ進んでいく。腿も膝もふくらはぎも皮ズレしまくってる足の裏も痛すぎて、もうほとんど何もできない。エンディの優しさに甘えながら、下手したら匍匐前進している民間人よりも遅いスピードで前に進む。あとちょっと、あとちょっとなんだ。動いてくれ、俺のカラダ!

そうしてウォーキングデッドな5分が過ぎた頃、ふと、周囲の気温が下がった気がした。気温自体はさして変わらないはずなのに、体感温度は明らかに下がっている。なんだ?なんなんだ?てか、寒い。なんだか寒い。

おかしいと思って微笑ンディを見ると、あれ、笑ってない。さっきまでのやさしい顔じゃなくなってて、完全なる無表情で時計を見てる。真顔ンディになっている。聞こえないけど明らかに舌打ちしてる。そして私にこう言った。「まだですかぁ?早くしてくださいよ」

俺の目には、チームカラーのTシャツを着た戦友(とも)であるはずの「エンディ」ではなく、弁護士バッジをつけて証人の証言の矛盾を突いていくスーツ姿の弁護士の姿が映っていた。その様はさながら、大人気弁護士ドラマ「SUITS」の主人公であり、エンディ憧れの"ハーヴィ・スペクター"・・・というよりは、嫉妬と羨望を糧に抜群の実力を誇るもののネチネチした性格から色々な敵を作ってしまうルイス・リットに瓜四つであった。

皆が憧れるハーヴィ・スペクター(左下)と、策謀のプロのルイス・リット(左上)


人を追い込むことにかけては超一流のルイス・リット 決め台詞は「リットしてやる!」


ゴールを目前に「戦友(とも)」から「弁護士」に戻ってしまったエンディとの会話は、先ほどまでの漢と漢のアツい友情の交わりあいテイストから一変し、地獄の様相を呈していた。最高に粘性の高い追い詰め方をしてくる。今思い返しても嗚咽と恐怖と悪寒がこみあげてくる。↓↓↓

羅「大丈夫、エンディ、このペースでも制限時間20時の5分ぐらい前には着けますから。」

エ「イヤです。ギリギリはイヤです。私は20分前じゃないとイヤです。走ってください。ほら、早くぅ。」

羅「む、無理だって!ちょっと休ませて!てかほら、このペースなら、体感的にキロ12分だから大丈夫だって!」

俺のGarminはとうの昔に電池切れで止まっていたが、ここまで数十時間に渡り秒単位のペースコントロールをしてきた俺のカラダは、時計を見なくても1kmあたり何分かかっているかが手に取るように分かるようになっていた。

羅「こ、このペースなら12分だから、悪くても12分半だから!ほんとだから絶対!」

エ「いえ、私の時計だと13分半になってます。そしてこれでは間に合いません。走ってください。」

いやもう絶対これはエンディの時計がバグを起こしてる。限界ながらもちょこちょこ走りを入れて、あとは歩いているのだから13分半なんてあるはずがない。あるはずがないけど、エンディは時計を見ていて、一方の俺は電池切れでエビデンスを提示することができないでいる。エンディの時計、てめぇぶっ壊すぞ!


俺は叫んだ。

羅「エンディ!、俺ここまで完璧に引っ張ってきたじゃないですか!俺のこと信じてここまで来たんでしょ!?だったら今回も俺を信じてください!」

エ「はい、ここまでは信じてきました。でも今は無理です。走ってください。」

壊れかけのRadioのように「走ってください」を連呼されて、俺の頭はおかしくなりそうだった。


ロープ際まで追い詰められた俺は、最後の抵抗を試みた。

羅「あの、ちょっと聞きたいんですけど、本業でも被疑者なり証人からあれやこれやの発言を信じてくれって話が出ると思うんですが、そういうのを人情派の弁護士として文字通りに信じてあげてみたりしないものなんですか?」

エンディは秒と置かず、答えた。

「はい、書面しか信じません。大切なのは書面です。信じてほしいなら書面を出してください。」

俺のココロは完璧に折れた。もうダメだ、何言っても無駄だ。なんてこった。最後の最後の裏ボスは、エンディだった。まさか最後の敵が隣にいたなんて。何この少年漫画みたいな展開。

俺は目の前に現れた伝説の弁護士、ルイス・リット然としたエンディに、「リットされて」しまった。※「リットしてやる!」=「破滅させてやる、ぶっ飛ばしてやる、後悔させてやる、今に見てろ、お前の母ちゃんでべそ」などの暗喩が全て詰まったネチネチ系敏腕弁護士ルイス・リットの捨て台詞

「リットしてやる!」というルイス・リットの口癖が商品化されなんと大ヒット


ラスト5kmで現れる田舎村役場の田んぼアート。
羅「エンディ、もう間に合うからちょっとだけ見ていい?」
エ「はぁ?間に合わなかったらどぉするんですかぁ?いい加減にしてください。」
俺のココロはまたしてもバキバキに折れ、もう全てを諦めてゴールに向かうことにした。

一度は見てみたいが、いつも制限時間ギリギリなため一度も見たことがない


そんなエンディの励まし(?)もあり、俺はペースを取り戻してきていた。なんだかんだ、俺に一番効く薬を与えてくれるのがエンディのスゴイところだ。こんなにダメダメな俺を、最後まで見捨てずに一緒に走ってくれている。ありがとう。クソ、でもありがとう。皆さんに言いたい、雇うなら、こういう腰の強い弁護士にしておけ。そして、絶対に敵に回すな。


いざ、ゴールへ!

あと2km!さくらの百貨店への道が確かに見えてくると、走れない歩けないに苛まれ続けた俺も、走れるようになってきた。途中、カップルと思しき2人組をパスした。追い抜く際に、少し会話を交わした。男性の方が青森語と思しき言語でまくし立ててくる。ほとんど何を言ってるか分からなかったが、ボディランゲージで「I see, my friend」と伝えて前に進んだ。俺は東京語と名古屋語と英語は分かるが、青森語は分からない。
 
少しずつ、少しずつゴールへ近づいていく。もうあと1kmもない。ゴールであるさくらの百貨店は、少し先に見えている。先に行っていたヒロポンは、ゴール手前で俺たちを待っていてくれてるらしい。マッキーからも、ひっきりなしにLINEが入っている。東京で待つ他のチームメイトからも、応援のメッセージが来ている。あと500m。さくらの百貨店はもうすぐそこだ。あとちょっと進んで、左に曲がればさくらの百貨店だ。
 
あと200m。左折するポイントに、ヒロポンがいた。最後25kmほど、ずっと分かれて走ってきたヒロポン。爪の剥がれた痛みに耐えかね、何度もリタイヤを考えるほどに追い込まれていたヒロポン。恋愛強者でプロレス好きで話がつまんなくて、よくマッキーと言い合いをする稚拙で脇の甘い漢、ヒロポン。歯医者のくせに勝者なヒロポン。そのヒロポンが、HPもMPも使い果たしているのに笑顔で出迎えてくれた。「おめでとう!」俺も言わせてくれ。あんたもおめでとう!
 
200mほどのビクトリーロードを3人で走り、最後は肩を組んで進んだ。俺たちはやった。やったんだ。ゴールはもう少しなのに、涙が流れてきた。隣にいるヒロポンの肩も震えている。つらかった。でもやったよ。頑張ったよ俺たち。最高だ。俺たちは最高だ。みんなありがとう。色んな感情が沸き上がってきてぐちゃぐちゃだった。でももう構わない。俺たちはゴールするんだ。
 
マッキーのデカい声が聞こえてきた。ヤツも確かに泣いている。お前がいなければ、俺たちはこんなに頑張れなかった。ありがとうマッキー。ゴールが目の前に現れた。3人でピっとタイムスタンプを押し、感染対策に気を付けながら(笑)4人でゴール。50時間41分51秒。制限時間18分前のゴールだった。まるで成長してねぇ。でもいいんだ。俺たちはやったんだ。最高だ。

俺たちはやったんだ!


 
ゴール後は、いろんな人たちが話しかけてくれた。舘山会長、副会長、スタッフの方々。もはや身内感満載なのか、会長からは、「やるじゃないかぁ、けいたぁ」とお褒めの言葉をいただいた。誉であります。この一言がほしくて、俺たちはがんばってきたんだ。制限時間15秒前に奇跡のゴールを決めた「ゆうゆ」とも、検討を称えあう。15秒前ゴールってなんだよ。人間かよ。

マッキーは来年のリベンジを誓う エンディは多分笑顔になっている
スポーツエイド・ジャパンの王、舘山会長と
制限時間15秒前にゴールを決めたジャーニーランファミリーのヘラクレスこと、ゆうゆ



ひとしきりいろんな人と検討を称えあったあと、俺たちは祝勝会に向かうことにした。制限時間51時間が経過し、関門もしまり大会が終わった。感極まった館山会長が叫んでいる。「これで大会は終わりです。みんな来てくれてありがとう!楽しんでくれましたか!津軽最高!また来年逢いましょう!」といったようなことを叫んでいたのだと思うが、なにせアルファ波の出る癒しボイス過ぎて、何を言ってるのか全く聞き取れない。目の前3mぐらいで叫んでいるのに、一言一句聞き取れないのはこの人ぐらいなものだろう。それもまた舘山会長である。最高の会長だ。ありがとう会長、ありがとうみんな。また・・・・出ねぇよこんなレース絶対!と今だけ言わせてくれ。
 
さあ!祝勝会だ!

※最終回じゃないぞよ。もうちっとだけ冒険は続くんじゃ。でも一旦おしまい。こんな鬼長い完走記、読んでくれてありがとう!

***
退かぬ、媚びぬ、省みぬ!
我が生涯に一片の悔いなし!

羅王


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