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みちのく津軽ジャーニーラン266km完走記 その15 もう疲れたよ、パトラッシュ (245.6kmスポーツプラザ藤崎~255.1km黒石駅前多目的広場)


イマココ
イマココ


エンディ is Back


245.6kmスポーツプラザ藤崎には、15:30に着いた。スタートから46時間半。制限時間まであと4時間30分、残り21km。残存兵力、なし。HP,MPともほぼゼロ。計算上、十分にゴールできるペースでここまで来ている。しかし、もう何も頑張れない。ウォーキングデッドと化した俺は、それでもやれることだけはやろうと、歩みを進めた。限界だろうがゾンビだろうが、決められたペースさえ守ればゴールできる。生き返るのはそれからでいい。

瀕死状態ながらペースを掴んだヒロポンは、はるか先に行ってしまった。もう30分は差が付いているだろう。追いつくことはもう無さそうだ。フゥヒフゥヒ言ってたけど、今や一番ゴールに近い漢に。粘性高めのサポートをしてくれていた粘ディもといエンディも、視認できないぐらい前に行ってしまった。現時点である意味一番高いクオリティで走れているエンディなので、これまた追いつくことはないだろう。あと21kmは独りぼっちか。どうしようかな、とりあえず音楽聞きながら走るかな。「Runner」とか聞きながら、「走るー走るー俺たちー」とか叫べば、ちょっとはやる気出るかな。ほんのちょっとずつ前に進む。切れたマリオネットの糸は、そう簡単には戻らない。全てを出し尽くして部隊をここまで運んできた俺に残されているのは、そうはいっても徐々に近づいてきてくれているゴールへの希望だけだ。

いろんなことを思い出しながら歩いたり走ったりを繰り返す。そういえば、舘山代表(大会主催のスポーツエイド・ジャパン代表)の挨拶は、ウィスパー過ぎて今回も全く聞こえなかったな。舘山代表か歌ってないときのマイケルジャクソンかってぐらい、声小さいしな。49.5km日本海拠点館までは完璧だった。我ながら素晴らしいマネジメントだった。95.5km鰊御殿までは、過去最高の走りが出来たと言える。125.9km龍飛地区コミュニティセンターに着く頃には色々怪しくなってきたな。膝痛めたのもこの辺だったっけ。161.9km道の駅たいらだてでは、ボラギノール大好き芸人のマッキーとお別れしたっけ。「DNGです」って、悔しそうに間違ったスペルで送ってきたなそういや。181.7kmふるさと体験館では、しっかり休んだはずなのに直後に山道で気絶したよね。寝ても寝ても足りなかった。215.5km金木町観光物産館で食べた前祝いアイスは美味かったなぁ。直後にヒロポンが逝ったっけ。245.6kmスポーツプラザ藤崎で飲んだリンゴジュース、ほんとに美味かった。でも、もう走れないや。疲れたよ、パトラッシュ。このまま天国まで連れて行っておくれ。

坊主頭にすればそのまま当時の俺になる


ここまでの道程が走馬灯のように駆け巡る。先ほどまでと異なり、道路と歩道がほぼ一体となった田園地帯を俺は行く。爆速で走るトラックが隣を通過するたびにソニックブームが押し寄せ、カラダが揺れる。いつ車道側に倒れてもおかしくないし、なんならもうそれでもいいかも、なんて思いながら低速で移動する。あかん、幻聴までしてきたよ。なんか走馬灯の思い出がてら、エンディのねっとりした声が聞こえる気がしてくる。「ていとくぅ~、ていとくぅ~」。30分以上前に今生の別れとなったエンディ、今頃どうしてるかな。ひょっとしてもうヒロポンに追いついてるかな。「ていとくぅ~!、ていとくぅ~!」あれ、さっきよりはっきり聞こえる。まさか、幻聴じゃないのか?

もしや、いやしかし20分以上離れてるはずだしそんなはずは・・・。そう思いながら後ろを振り返ると、満面の笑みで遠くから近づいてくるエンディが!

遠くから満面の笑みで近づいてくるエンディ のイメージ

笑ってる!エンディが笑ってる!マジかよ!てかなんでここにいんの!満面の笑みのエンディがどんどん近づいてくる。

結構近くまで追いついてきた満面の笑みを浮かべるエンディ のイメージ図


「エンディ!」、「提督!」俺たちは叫んだ。そして、渾身のハイタッチ。

Source:スラムダンク31巻


かつて、鍛え上げた肉体とズレまくったトークでお茶の間を沸かせていた武田真治さんは、下記のように述べていた。

肉体の限界は、精神の限界のもっと先にあるんですよ。

武田真治

長野五輪スピードスケート金メダリストの清水宏保さんも、似たような言葉を残している。

スポーツ選手にとって真に超えるべき壁は、肉体の限界よりも脳の限界の方である。

清水宏保

人間の「限界」なんて、アテにならない。正確には、肉体的な限界地点は確かに存在するものの、自分が限界だと思っている地点よりもはるか先に本当のソレがあったりすることが結構多い。この時の俺も、たしかに「限界」だった。ここまで46時間以上走ってきて、完璧なるレースマネジメントを分単位・秒単位でこなしてきて、睡眠は数時間も取れておらず、両足は激痛が走る状態で・・・確かに限界だと思っていた。んが、満面の笑みで近づいてきたエンディとハイタッチした瞬間に、あっという間にボンベ数本分のエネルギーがチャージされてしまった。人間の「限界」なんて、アテにならない。よく見たら時間は十分余ってるじゃないか。さぁ、行こうか。

Source:スラムダンク17巻らへん


菩薩のエンディ

聞けば、エンディはエンディで俺と別れたあと快調に飛ばしていたものの、急に訪れた腹痛でOPPマネジメントに苦戦したらしく、245.6kmスポーツプラザ藤崎を出発後、だいぶ迂回してトイレに駆け込んでいたとのことだった。おかげで、諦めかけていた「チームメイトとのゴール」も現実味を帯びてきた。

さぁ行こう、255.1km黒石駅前多目的広場まで行けば、もうゴールは目の前だ。「ゴールを確実にすること」をゴールに、俺たちは黒石駅を目指してひた走・・・れなかった。エンディと会ってエネルギーがチャージされたとはいえ、死にかけの戦士にホイミがかかった程度のものだった。回復したと思ったら、またすぐに限界が来る。ペースは一向に上がらなかった。

この区間、ペースは全くもって上がらなかったが、エンディは優しかった。何度も何度も奮起してはへこたれる俺に対し、ずっとあたたかい言葉をかけてくれていた。「頑張る!」と言った直後には「もうダメかも」と急転直下なメンヘラ状態が続く俺に対し、常に「大丈夫ですよぉ」、「いけますよぉ」と、ねっとりとしかし前向きな言葉を発してくれていた。ヒロポンが言うところの「菩薩のエンディ」が降臨した瞬間だった。

俺はずっと、心のなかで「菩薩のエンディ」に対して、感謝をし続けていた。黒石駅までの道は少し登りを含むため結構きつかったのだけれど、「菩薩のエンディ」の優しさと、ゴールへの希望でなんとかもたせることが出来た。そうこうしているうちに、黒石駅が近づいてきた。最後のエイドだ!ここまでくればゴールは間違いない!がっつり栄養補給して、最後はやったるで!!!

俺はこの時気づいていなかった。「菩薩のエンディ」には、レースそのものと同様、制限時間が設定されていたことを。。。

***
退かぬ、媚びぬ、省みぬ!
我が生涯に一片の悔いなし!

羅王

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