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サフラジェット・シティ/デヴィッド・ボウイ Suffragette City / David Bowie

高校時代に同じバンドのメンバーだったF原さんは卒業してから渋谷のA短大に入学した。
そこで有名なヒット曲にも歌われた軽音楽サークルに入って女の子バンドを組んで活動していた。
まったくの初心者だけでバンドを組んでみたかったらしい。
最初はEPOの「う・ふ・ふ・ふ」みたいなJ-POPを演奏していた。
今でいうシティ・ポップだね。
ところがそういう曲は、実はコード進行や曲構成が難しく、かなりテクニカルな曲だということに気付いたらしかった。

あるときF原さんから「簡単な曲でカッコいいロックに挑戦したいんだけどどんな曲がいい?」と相談を持ちかけられた。
俺はいっぱしのプロデューサーになったつもりで何曲か選んでカセットに録音してあげた。
なるべく簡単そうな曲を。
エルビス・コステロ「ザ・ビート」
ザ・フー「ゲット・アウト・アンド・カム・バック」
ザ・シーカーズ「ハイヒール・スニーカーズ」
そしてデヴィッド・ボウイの「サフラジェット・シティ」だ。
ボウイはアラジン・セインからジギー・スターダストあたりのグラム期がとにかく好きだったので自分がバンドをやれていない腹いせもあって彼女たちに薦めてみた。
バンドの中でどういう力学が働いたのかは分からないが、次の定期演奏会でそれらの曲を全部演奏するという。

おいおい、大丈夫かいな。

勧めた立場上少し心配になり、彼女たちの練習を一度だけ見に行った。
拙い演奏ながらみんな楽しそうに一生懸命プレイしていた。
コードもシンプルで女の子バンドが演奏するにはある意味正解だったのかもしれない。
当時はまだそれほど女の子バンドが多くなかったこともあって、そのサークルの中では彼女たちは人気があったらしい。

そしてその定期演奏会の日。
みんなは、いつものように可愛らしい女の子向けのJ-POPを演奏すると思っていたら、いきなりのビートナンバーばかりで、観ていた先輩や仲間たちも面食らったそうだ。

そうりゃそうだろう、なんてったって俺の選曲だからな。

その後もいろんな機会に演奏したらしいが、ついに一度もライブを観には行かなかった。
少し照れくさいのもあったし、自分は大学に行かなかった負い目みたいなものもあったのかもしれない。

追記
驚いたことに毎年続いていたそのサークルOBの演奏会に、卒業30年周年で再結成して復活ライブを行ったんだと。
女の子バンドとはいえもう全員50過ぎなのでベック・ボガート&アピスというか年寄りの冷や水というか当然痛々しいのだが、それぞれ人生を過ごしてきたわけで、年輪を重ねてきた音が出せたようだ。

なによりだ。



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