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赤の伝説 第3話(ポケモン二次創作小説)

宇宙の果てが暗闇ならば、白々明けてみせましょう。
走れ!輝け!光って見せろ!

なーんてな。
宇宙の果てどころか、目の前真っ暗、お先真っ暗のおれです。

タマムシシティでコインケースを探していたところ、サカキ様に拾われ、ロケット団に入ってしまった。
なりゆきとはいえ、悪の組織の一員となってしまい、ますます不安が募る。
おれは、これからどうすればいいのだろうか。

「お前の最初の任務は、裏切り者の粛清だ」

正気ですか、ボス?
入ったばかりの新人に、そんな重い案件を任せていいんですか?
OJTとかやってないんですよ?
団員の顔と名前ほとんど知らんのですよ?
しかも粛清て。
めちゃくちゃ怖いんですけど。

「詳しい話は、ハナダシティの南にある育て屋に行って聞け。合言葉は『タッツー釣った』だ」

ああ、この人あれだ、細かく指示しないタイプだ。
よく言えば自由度が高い、悪く言えば個人任せな社風ってことか。
うん、向いてない。
言われたことをきちっとやる性分のおれにとって、漠然とした指示が一番苦手なのよ。
よし決めた。
ここで働くのはやめよう。
きっと自分にぴったりの会社は、ほかにもたくさんあるはずだ。
ていうか、自分で決めたわけじゃないし。
ここは最初が肝心だ、はっきりと断ろう。

「返事は?」
「あの…やっぱりやりたくな」
「返事は?」
「ハイ!」

こうして、ロケット団としての初任務が始まった。



タマムシシティを東に進むと、カントー最大の都市・ヤマブキシティに着く。
さらに、ヤマブキシティを北に進むと、目的地のハナダシティに着くわけだが、その道中に育て屋さんがある。
ポケモンをプレイしたことのない人に説明すると、育て屋にポケモンを預けることで、代わりにそのポケモンを育ててくれるのだ。
育て屋というだけあって料金はかかるのだが、歩いている間に勝手に成長してくれるので、育成が苦手な人にぴったりの施設といえる。

しかし、育て屋がロケット団の傘下だったというのは、少々複雑な気持ちだ。
預けたポケモンが、知らぬ間に悪い子に育ってしまうような気がして、今後うかつに利用できない。
そうこう言っているうちに、育て屋に到着した。
建物に入るには、さらに北上し、いくつかの段差を下っていかなければならない。
そんな出入りの不自由な場所に建てるなよ、という往年のポケモントレーナーたちのツッコミを感じながら、おそるおそる育て屋に足を踏み入れた。

「ごめんくださ」
「バウワウワウワウ!!!」
「ぎやあああああ」

扉を開けるや否や、激しい咆哮が怒涛のごとく襲いかかってきた。
いや、咆哮だけじゃなく実際に襲いかかってきた。
こいぬポケモンのガーディだ。

「バウワウワウワウ!!!」
「いたいいたいいたいいたい!!!すみませんすみません!!!」

何がすみませんなのかおれにもわからないが、とにかくピンチのときには謝る癖がついてしまっている。
ガーディに全身をガブガブされていると、建物の中から一人のじいさんが現れた。

「これ、やめんか!」

じいさんの一声でガーディはガブガブをやめたが、「ウウ~~~」と唸りながらこちらを見ている。
やめてくれ、怖いから。

「すまんのう、この子は少々気が立っとるでな」

これが少々?と思ったが、幸いかすり傷程度で済んだので、あまり気にしないことにした。
じいさんはおれの腕をとり、起き上がるのを手伝ってくれた。
さすが育て屋といったところか。
細い身体からは想像できないような腕っぷしで、体重65kgのおれは起き上がりこぼしのようにすっくと立ちあがった。
髪もひげも白く、やや腰も曲がっているように見えるが、体幹がしっかりしているのだろう。
使い古されたエプロンをまとっているが、その汚れもポケモンブリーダーとしての勲章だとわかる。
こいつ、できるな。

「わしの名はノゲシ。そしてここは育て屋じゃ。といっても、今は客なんか滅多に来やせん。こんなところに何用かな?」
「た、『タッツー釣った』…」
「…中に入りなさい」

ノゲシは、静かにおれを招き入れた。



育て屋といっても、ごく普通の住宅のようだった。
一つ違う点といえば、庭がとても広く、ここで預かったポケモンを育てていたようだ。
今預かっているのは、さっきまでおれをガブガブしていたガーディ1匹だけらしい。
だが、ここに来た目的は、ポケモンを預けるためではない。

「サカキに裏切り者の始末を頼まれたんじゃろ?お前さんも、厄介に巻き込まれたのう」

おれの要件をノゲシが言い当てる。
ボスを呼び捨てにするあたり、ロケット団でも一目置かれる存在なのだろうか。
サカキ様を社長とするならば、ノゲシのじいさんは会長といったところか。

「おっと、断っておくが、わしゃロケット団ではないからな?ほっほっほ」

何が面白いのかよくわからなかったが、とりあえず愛想笑いはしておこう。
でもロケット団じゃないのに、サカキ様とつながっているなんて、このじいさん何者?

「任務の話じゃな。お前さんに探してほしいのは『シャジン』という男じゃ。といってもコードネームじゃから、特定するのは簡単ではなかろうがの」
「その、シャジンって人は、何をしたんですか?」
「実験用のポケモンを何匹か持ち出して、脱走したんじゃ。ほれ、そこのガーさんもその1匹じゃよ」

そう言うとノゲシは、そばに座っていたガーディを撫でた。
こいつ、「ガーさん」って言うんだ…。

「ロケット団は、ポケモンを道具のように扱う組織じゃからな。この育て屋も、かつては悪事を働くためのポケモン訓練所のようなところじゃった。わしは長いことここでロケット団の手伝いをしていたんじゃがの、嫌気がさして関係を断ち切ろうとしたんじゃ。じゃが、できんかった…」
「どうしてですか…?」
「わしがいなくなったら、この子や、ほかのポケモンたちを助けることができなくなると思うてな。わしがいなくなってもサカキは別に困らん。じゃが、実験に使われたポケモンたちを助けるやつはおらんくなる」

ノゲシじいさんは、自分のことよりもポケモンたちのことを考えて生きているんだ。
ロケット団に加担していたシャジンという男も、同じような気持ちだったんだろうか。

「サカキはこうして定期的にシャジンを探させておる。詳しいことはわからんが、シャジンが持ち出したポケモンたちは、特に重要な実験に使われていたそうじゃからな。そこでわしは、命令を受けたロケット団員を適当にごまかして、シャジンを援護しているというわけじゃ」
「え…でも、おれにそのこと話していいんですか?」
「お前さんは、いいやつじゃ。なぜなら、ガーさんは悪人にしか懐かないからの」
「ガーディって、悪人に懐かないイメージなんですけど…」
「言ったじゃろ、この子も実験体じゃったと。善悪の心を歪められたんじゃ。まあ、ずっと世話をしていたわしは例外じゃがの。ほっほっほ」

シルバージョークが耳に入らないほどショックを受けた。
このガーディが、そんなひどい目にあっていたなんて。
にわかには信じがたいが、ロケット団という組織は、想像以上に残酷らしい。

「この子…ガーさんは元に戻らないんですか?」
「そうじゃな…心優しいトレーナーのもとで暮らしていれば、本来の心を取り戻すかもしれんな。…そうじゃ!お前さん、ガーさんを連れて行ってくれんか?」
「えっ?」
「わしはここから離れるわけにはいかん。かといって、ガーさんをずっとここに置いておいても、この子のためにならん。どうじゃ、頼まれてくれんかの?」
「ちょっと急に言われても…」

ガーさんはというと、相変わらずおれをにらみつけて唸っている。
怖い、とにかく怖い。
でも、それでこの子が元に戻るなら…

「わかりました。おれ、やります」
「ありがとう、ありがとう…!」

ノゲシは俺の手を強く握った。
そのしわしわの両腕は、たくましく、そして寂しく見えた。

「ではよろしく頼む。あと任務のことじゃが、シャジンと一緒に実験体のポケモンを探してほしいんじゃ。手始めに、ハナダシティに行ってくれんかの。わしの知り合いにムグラという者がいるから、彼を訪ねるといい。ほれ、これが地図じゃ」

手渡された手書きの地図とガーさんを連れて、おれは育て屋を後にした。
何だか重責を背負わされた気がするが、やれることはやってやろうと思う。
サイポンとガーさん、この2匹の問題児を抱えて、ハナダシティを目指す。

とりあえず、ボロボロになった身体と服、どうにかしないとなあ。

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