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謎の言動をする姉を冷ややかに見る弟

この世で最も謎に包まれた生き物。
四半世紀以上を生きても、遠く理解の及ばない存在。
いろいろな人と関わってきた中でも、別格の変人奇人。

そう、である。

社会性が身につけば、相手の思考というものは多少推して量ることができるようになると思う。しかし、彼女がなにを考えているのか、どうしてその思考に行き着いたのか、僕は理解しかねることが多い。本当に謎である。ツチノコやネッシーやビッグフット並に謎である。もはやUMAの域。

姉の謎行動エピソードは、一つや二つではない。その不可解な行動に頭を抱えた哀れな弟の供養として、筆を執った次第である。



エピソードⅠ:誕生日プレゼント【もらう編】

僕が高校1年生のとき。姉は2つ上なので、姉もまた高校生(3年)。お互い別々の高校に通っていた。

姉の誕生日が近かったので、たまにはプレゼントの一つでもくれてやろうかと思い、当時流行っていたWaTのCDを贈ることにした。
WaTの曲は当時『僕のキモチ』と『5センチ。』の二大派閥にわかれていて、該当する派閥の方を選べば大体の女子は喜ぶ代物だった。

しかし、肝心の姉がどっち派か知らない。

まぁ本人に直接聞けばいいや、と携帯電話を開き、「『僕のキモチ』と『5センチ。』、どっちが好き?」と姉にメールを送った。
しばらくして返信が届いた。「僕のキモチ!」と書いてある。よし、こっちを買おう。


数日後、姉の誕生日当日を迎えた。

僕は買ってあったCDを「はいこれ」と姉に差し出す。
すると姉は、


「いらない。WaT、好きじゃないんだよね」


とクーリングオフした。いや、そもそも受け取っていないからクーリングオフですらない。受取拒否だ。

まじかよ。じゃあメールの「僕のキモチ!」はなんだったんだよ。明らかに「『5センチ。』も良いんだけど〜、やっぱり『僕のキモチ』の方が好きかな!」の「僕のキモチ!」だったじゃん。返してくれよ、『僕のキモチ』を買った僕の気持ちを。あと時間と1,200円を。

行き場を失ったCDジャケットには、しょぼくれたウエンツ瑛士と寂しげな小池徹平が写っていた。
仕方ないので、このCDは自分のものにした。

後日聞いた話では、僕からのメールが届いたとき、一緒にいた友人連中に「みんなはどっち好き~?」と世論調査をし、アンケート結果を報告するように「僕のキモチ!」と返したらしい。なんだそれ。

ちなみに、その友人連中に受取拒否の話をしたところ、「それは弟くんがかわいそう!」とバッシングの嵐だったそう。それ見たことか。



エピソードⅡ:誕生日プレゼント【あげる編】

これも高校時代。姉は卒業していたので社会人。

当時付き合っていた彼氏に誕生日プレゼントをあげるらしい。こっちは全然興味ないのに勝手にしゃべってくる。初めての彼氏だったこともあり、普段以上に浮かれポンチだった。

プレゼントの中身は、その彼が欲しがっていたナイキのスニーカーだとかなんとか。こっちは全然興味ないのに勝手にしゃべってくる。

「同じの持ってたらどうしよう~」とか、なんかウダウダ言ってる。何度でも言うが、こっちは全然興味ないのに勝手にしゃべってくる。

突然、姉は僕にある提案をした。


「もし彼が同じの持ってたら、アルロンにあげるね!」


いや、いらんし。というか足のサイズ違うだろ。
こういうのって、彼女からもらったものは嬉しいんじゃないの? たとえすでに自分が持っているものでも。

僕の言葉にハッとした姉は、プランBを提案した。


「じゃあさ、プレゼントした方を彼に履いてもらって、彼が履いてた方をアルロンが履けば良いんじゃない?」


これはもっと意味がわからない。なんで僕が他人の靴を履かねばならんのだ。彼にあげるプレゼントをそんなに救いたい? 弟におさがりの靴を押し付けてまで救いたいの? 逆立ちをしても、ヨガのポーズをしても、こればっかりは本当に意味がわからなかった。
あと、だから足のサイズ違うだろって。



エピソードⅢ:レアで食べる。そしてキレる。

いつの話というわけではないが、姉は肉をレアで食べる。

ウェルダンはおろか、ミディアムですらもってのほか。レア、レア、とにかくレア。本人曰く「激レアが好き」とのこと。遊戯王カードの話じゃあるまいし。焼肉セットを前にすれば、なんでもレアで食べる。サガリも、ホルモンも、豚肉も。

今これをお読みくださっている常識人のあなたならすでにドン引きしてらっしゃると思うが、生焼けの豚肉は危険である。なので、「生の豚肉には菌や寄生虫が付いているから、しっかり火を通さないとダメだよ」と注意した。優しい弟である。
しかし、姉には響かなかった。


「食事中に“菌”とか“寄生虫”とか言わないで! 食欲が失せるでしょ!」


怒るとこ、そこ? 心配しているのだよ、ぼかぁ。なんであんた、危険を知らせた弟にそんなこと言うのかね。感謝されこそすれ、怒られる筋合いはない。

なお、さすがに結婚してからは「豚肉をレアで食す」という愚行はしなくなった模様。



こうやって振り返ってみると、やっぱり謎である。

思うに、姉と僕とは「気遣いのポイントが違う」だけなのだろう。
感覚にズレがあるだけで、犯罪や非道な行いをしているわけではない。個人的には、だいぶ人道から外れているように見えるが。

散々に書いてしまったので一応フォローをしておくと、姉は人と話すのが好きな陽キャである。ギャルである。パリピである。いや言い過ぎた。今はだいぶ落ち着いた、ただのおばさんである。

コミュ障の弟とは違い、基本的に接客業が向いている性格と言える。それはそれで素晴らしい才能だと思う。

今のバイト先も姉に紹介してもらったので(僕とは別の職種だが、姉も同じ動物園で働いている)、そういう意味では感謝しないこともない。
バイト先の上司にも「お姉さん、楽しい人だよね」と言っていただいている。「楽しい人」という評価は、かなり印象が良くないと得られないものではないだろうか。

このように良いところもちゃんとある。僕の理解が及ばないだけであって。

しかし思うのだが、家族だからってなんでもかんでも理解する必要はない。自分ではない人は結局「他人」になるのだから、理解できなくて当然だ。姉は姉。僕は僕。優劣も貴賤もない。それで良いじゃないか。


ただ、忖度はしませんよ。
よって、上司の「お姉さん、楽しい人だよね」に対して、弟は「僕にとっては頭のイカれた奴ですけどね」とはっきり返した。

上司は笑うしかなかった。




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