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赤の伝説 第5話(ポケモン二次創作小説)

この世界に来てから初めてのポケモンバトル。

しかし、正規(?)の方法でポケモントレーナーになっていないおれは、ポケモン図鑑はおろか、手持ちポケモンの情報すらほとんどわからない。
ましてや、赤の他人からもらったサイホーンがどんな技を覚えているかなど、知る由もなかった。

ロケット団の無理やり勧誘中年男が繰り出したギャラドスを前にして、ただ立ち尽くすしかできないとはな。

「どうした! びびって動けないか!」

心なしか嬉しそうに煽ってくるけどさぁ、それどころじゃないのよ。
そういえば、ポケモン図鑑持ってない人って、どうやって技の指示とかしてるんだろうね。勘とか?

(……すか…)

ん?何か聞こえたか?

(…あの……聞こえますか…?)

耳心地の良い低音ボイスが、おれに囁いている。
ツダケンを彷彿させるそのイケボは、他の人には聞こえていないようだ。

(…私です…サイポンです……あなたの脳内に直接語りかけています……)

!?
こいつ…脳内に直接!?
エスパーポケモンみたいなことしてくるのね、サイポン。
いや、そんなことできるわけないだろ!おかしいだろ!

(…私のステータスを…お伝えしますので……技の指示を…お願いします……)

サイポンが粛々と脳内に語りかける。
あれこれツッコんでもしょうがない、とりあえずサイポンの言う通りにしよう。
サイポンのステータスが脳内に送られてきたようだ。
えーと、なになに?

サイホーン(サイポン)
レベル:84
HP(現在値/最大値):507/508
こうげき:310
ぼうぎょ:380
すばやさ:160
とくしゅ:162
わざ1:じしん
わざ2:いわなだれ
わざ3:10まんボルト
わざ4:なみのり

つっよ。
サイポン、つっよ。

え?ええええええ?おかしくない?
レベル84て!あとステータス全部バグってるよ!
こんなのツッコまずにいられるか!

頭の中で一人騒いでいる中、サイポンが続ける。

(…ちなみに…私への指示は……声に出さずとも…伝わりますので……)

何でもありかよ。
まあいいや、さっさと終わらせよう。

(…サイポン?)
(…はい)
(……『10まんボルト』だ)

自分の思念を送る感じ(どんな感じ?)でサイポンに指示をした。
すると、サイポンの全身から激しい電撃が放たれ、ギャラドスに直撃した。
こうかはばつぐんだ!

「ギャシャアアアアアア!!!」
「あああ!!!ギャラドスううう!!!」

感電して倒れるギャラドス。
予想外のことで狼狽える中年団員。
微動だにしないサイポン。
何これ。

「このギャラドスを倒すとはな…覚えてろ!」

ザ・負け組の捨て台詞を吐いた中年団員は、モンスターボールにギャラドスを戻し、どたどたと走り去っていった。

(お疲れ様です…)

サイポンが語りかけてくる。
ほんとだよ、疲れたよ、色んな意味で。

サイポンをモンスターボールに戻し、おれは来た道を戻った。
今度こそポケモンセンターで休もう。

と思ったのに。

「おー! あなたすごいでーす!」

振り返ると、恰幅と身なりの良い紳士が、拍手をしながら近づいていた。
どうやら一連のバトルを観ていたらしい。

「わたしボリジ! わたしポケモンバトル見る好きでーす! 今のバトル、素晴らしいでーす!」

拙い言葉から察するに、外国の人なのだろう。
あと、こうやってすぐ人に近づけるのは、おれと真逆の世界にいる人間に違いない。いつの間にか握手しているし。

「わたし、あなたと仲良しなりたい! これからクチバシティの別荘でパーティーする! あなた来るですか?」

急に金持ちのおっさんからパーティーに誘われることなんて、現実世界であっただろうか。いや、ない。
いずれにしても、シャジンという人を探しにクチバシティへ行く予定ではあったし、何か断る気力もないので、この提案に乗ることにした。

「おー! ありがたし! それでは別荘へレッツラゴー!」

いつの時代の人かな?

ボリジはにこにこしたまま、モンスターボールからポケモンを呼び出した。
バリアーポケモンのバリヤードだ。

「Hey! Mr.Mime! 『Teleport』!」

流暢な英語でバリヤードに指示を出すボリジ。
なんとなく聞き取った感じ、『テレポート』って言ったよな?

指示を受けたバリヤードが、奇妙な動きを始めた。
すると、おれの身体がもやもやと揺れ、その場から消えていく。
うわっなんか酔いそう。

そしておれは、気を失った。



はっ、と気がついた頃には、クチバシティの豪邸の前にいた。
これがボリジの別荘か。
でっっっか。

「ようこそ! わたしの別荘でーす!」

ボリジはすごく楽しそうだ。
おれは若干引きながら、ボリジの後ろを歩いた。

何百坪という広大な敷地には、手入れのされた庭、清らかな水が溢れ出る噴水、そして宮殿かと思うほど立派な邸宅がそびえ立っている。
ポケモンジムの入り口とかにある、ポケモンの像もたくさん並んでいる。
あの像って、結局何のポケモンなんだろうね?

そんなことを考えながら歩いていると、大広間に到着した。
大広間には何十人という人が集まっており、みなタキシードやらドレスやら正装している。
大丈夫?おれ、ガーディに噛み千切られた服着てるけど。

場違いな格好で登場したおれに、一人の女性が声をかけてきた。
ネイビーブルーのキラッキラしたドレスを身にまとい、少々濃いめの化粧をしたおばさ…お姉さんだ。

「あらぁ? どうしてこんなところに貧乏人がいるのかしらぁ?」

ムカつくな、このおばさん。
『性格の悪い40代マダム』って感じだ。
地味に美人なのが、余計に腹立たしい。
美魔女とはこういう人を言うんだな。もっとも、魔女要素の方が強いのだが。

「おー! リナムさーん! こちらは私の友人でーす!」
「あらやだ、あなたったら。貧乏人の友人はいなくってよ」
「先ほど出会いましたでーす! 彼は素晴らしいトレーナーでーす! 貧乏人でもオーケーでーす!」

ボリジの妻だったのか、この厚化粧おばさん。
見る目ないな、ボリジ。さては面食いだな?
ていうか、黙って聞いていれば好き勝手言いやがって!
「貧乏人」って何度も言うなよ!悲しいだろ!否定できないし!
あと、いつの間に友人になったんだよ!

「本当に強いのかしら……ランタナさん、試しておやりなさいな」

厚化粧おばさんがそう言うと、そばにいた少女が凛とした声で「はい」と答えた。
長い黒髪をポニーテールにしており、オレンジ色に白い花柄の振袖を着ている。
キリッとした目鼻とピンと伸びた背筋には、精悍な印象を受けた。
おれの好みだ。

少女はおれの前に出ると、仰々しく挨拶をした。

「私はランタナと申します。突然のことで大変恐縮ですが、ポケモンバトルにて貴方様のお力を拝見したく存じます。何卒宜しくお願い申し上げます」

堅い堅い!
そしてめちゃくちゃ丁寧だな!
リナムとの温度差で風邪引いちゃうよ?

「おー! バトルスタートでーす!」

ボリジが高らかに宣言してしまったので、引くに引けなくなった。
めんどくさいけど、やるしかないようだ。
ランタナさんもやる気満々だし。

「わ、わかりました…行けっサイポン!」

サイポンが飛び出した。
と同時に、笑い声が。

「あははははは!!!!! サイポンって! とんでもなくダサい名前だこと!」

リナムだ。
性悪クソマダムめ。
悪かったな、どうせおれが咄嗟に付けた名前だよ。
それにしても、そんなに笑うことか?

一方ランタナさんは、表情一つ変えず、真剣な面持ちでモンスターボールを構えている。
真面目で誠実なお方。
完全に好きになっちゃってるわ、おれ。

ランタナさんはどんなポケモンを出してくるのだろう。
彼女のようにスマートなハクリューとかかなあ。
意外と、プクリンのような可愛い系というのもありだな。
妄想を膨らませていると、ランタナさんがポケモンを繰り出してきた。

「それでは行きます! 出でよ、ケンタロス!」

ガチ勢じゃん、ランタナさん。

なんと アルロンが おきあがり サポートを してほしそうに こちらをみている! サポートを してあげますか?