赤の伝説 第4話(ポケモン二次創作小説)
ゴリラのけつのあな。
誰が言ったか知らないが、ハナダシティに到着するとこのフレーズが脳裏をかすめる。
ポケモンの世界に来て何日が経っただろうか。
気がつけばシオンタウンに異世界転送されていて、気がつけばロケット団になり、気がつけばロケット団の実験に利用されたポケモンたちを助けることになってしまった。
一体、何がどうなっているんだろう。
手持ちポケモンも、気がつけば2匹になっていた。
1匹目は、ポケモンハウスのソバナから預かった、サイホーンの「サイポン」。
めちゃくちゃ臆病で、ポケモンバトルはおろか、コミュニケーションもろくにできない。
まあ、コミュ障はお互い様なのだが。
もう1匹は、育て屋のノゲシじいさんから預かった、ガーディの「ガーさん」。
ロケット団の実験によって、善悪の感情が歪められてしまい、善良なトレーナーに歯向かうようになってしまったらしい。
良い人認定されたのは結構だが、故にまったく懐いてもらえず、モンスターボールから飛び出せば、すぐさまおれに嚙みついてくる。
正しい心で接していけば元に戻るかもしれないのだが、それまでガブガブされ続けないといけないのはツラい。
でも、自分にできることがあるなら、やってみたい。
ロケット団の実験で苦しんでいるポケモンたちを助けられるなら、この世界にやってきた意味もあるというもの。
2匹の問題児を引き連れて、おれは目的地を目指した。
◇
◇
◇
ノゲシじいさんの手書きの地図を頼りに進むと、町の北東にある民家にたどり着いた。
ここにムグラさんという人がいるらしい。
人の家を訪ねるのはあまり得意ではないが、サカキ様ほど怖い人間に出会うことはもうないだろうと思えば、コミュ障も少しはマシになったかも。
今のおれならできる!そう言い聞かせながら、玄関のドアを叩いた。
「ごめんくださ」
「キキキキキーーー!!!」
「ぎやあああああ」
デジャブ。
それはそれはデジャブ。
待ってくれ待ってくれ、ポケモンってドア開けたら襲ってくる生き物だったっけ!?
金切り声を上げたポケモンが、おれの顔面を引っかき回してくる。
今度は誰だよ…、ああ、お前か、ぶたざるポケモンのマンキーよ。
「これ、やめんか!」
はいデジャブ。
これもデジャブ。
あれか?ポケモン界では「これ、やめんか!」が流行ってるんか?
ドアの向こうから出てきたのは、これまたじいさん。
細身で白髪が特徴的なノゲシじいさんとは違い、小太りでずんぐりした、麦わら帽子が微妙に似合わないじいさん。
この人がムグラさんなのだろう。
「ムグラさんですか?」
「ああ、そうだよ。君は?」
「ノゲシさんの紹介で、ここに来るように言われました」
「ノゲシの…そうか、よく来たね。とりあえず中へお入り」
「そ、その前に…」
「これ、マンきち!ボールに戻っとれ!」
「キキー!!」
マンきちは、暴れながらモンスターボールの中に吸い込まれていった。
「いやー、すまんかったね。ささ、入っとくれ」
マンきちの「みだれひっかき」から逃れ、ムグラさんに促されるまま家に入り、リビングの真ん中にあるソファーに座った。
家の中は雑然としており、リビングだけでなくダイニングやキッチン、寝室まで散らかっている。
…というより、「荒らされた」と言った方が正しいかもしれない。
「ちと泥棒に入られてしまってな。なに、大したものじゃない。気にせんどくれ」
ムグラさんが微笑みながら言った。
見た目は少し強面のムグラさんだったが、物腰は柔らかい人のようだ。
それにしても、ひどい荒れようだ。
泥棒に入られたことないけど、こんなに家中めちゃくちゃにされるのは嫌だよなあ。
ん?泥棒…?
あー、そういえばあったな、泥棒に入られた家。
確か、技マシンを盗まれたんだっけな。
技マシン28だったっけ?中身って何の技だったっけ?しねしねこうせん?
「ほれ、インスタントで悪いが、コーヒーでも飲まんか?」
勧められて一口飲んでみる。
ちょっと酸味が強くて、あまり好みじゃないな…じゃなくて。
「ノゲシの紹介で来たと言っとったな。わしに何の用かな?」
余計なことを考えていたら、ムグラさんの方から話題を振ってくれた。
すまねえ、集中力のない客人で。
「人を探していまして。シャジンっていう人なんですけど」
「シャジン…?はて、誰だったかな…」
嘘 だ ろ ?
名前でピンとこなかったら、探しようがないじゃないか!
「ノゲシじいさんの紹介で来た」でだいたい把握してるパターンじゃないのか、これ?
自分がロケット団ってことも言えないし。
しかも、この家に入った泥棒ってロケット団だったよね?
そうだよ!いよいよ無理だよ!
ノーヒントになっちまったよ!
どうすんだこれから!
「あのー、ところでノゲシさんとは、どういうご関係で…」
「ああ、わしはノゲシんとこの育て屋に、ポケモンフードを仕入れているんだよ。でも最近は、育て屋の利用者も減っていてね。わしの商売もあがったりだ。」
「はあ、さいですか」
「育て屋も商売だろ?ノゲシも経営が厳しいみたいでよ。せっかく若いのが来てくれたってのに、給料が払えないってんで門前払いしたんだとさ。あいつも年だから、育て屋もそんなに長くできないだろうによ。もったいないねえ…………………………あ、あの若いのがシャジンって名前だったな!」
思わずコーヒーを吹き出してしまった。
いや、知ってたんじゃねーか!
ムグラさんよ、しっかりしておくれ。
「育て屋がダメならポケモンフードってことで、うちに来たんだった!…まあ、うちも人を雇う余裕がなくて、お断りしたんだけどな」
「シャジンさんは、今どこに?」
「クチバシティの方に行くと言っておったよ」
クチバシティは、ヤマブキシティの南側。
ここハナダシティはヤマブキシティの北側だから、ちょうど反対側になる。
逆方向やないかい。
「わかりました、クチバシティに行ってみます。ありがとうございました」
「気をつけてな」
お前もな、と心の中で言い放ち、おれは泥棒に荒らされたムグラ家を後にした。
◇
◇
◇
外に出ると、ちょうど夕日が沈む時間だった。
いやー、今度はクチバシティかー。
めんどくせーなー。
今日はもう暗いから、ポケモンセンターで休むかー。
そんなことを考えていた、そのとき、
「うりゃー!」
と、中年男の声が聞こえた。
何だい何だい、今度は。
声の方に向かうと、橋の手前で少年と中年男がポケモンバトルをしていた。
少年は、ベースボールキャップにタンクトップ、そして短パンという格好。
うん、そうだね、短パン小僧だね。
中年男はというと、黒い帽子に黒い制服、胸には「R」の赤いマーク。
うん、そうだね、ロケット団だね。
少年はビビりながらも、モンスターボールを投げる。
中から出てきたのは…キャタピー。
えっ、キャタピー?
キャタピーって、あのキャタピー?
お前、虫取り少年じゃねーか!
一方、中年男もといロケット団員のポケモンは…ギャラドス。
いやいやいやいや、おかしいおかしい。
ギャラドス!?
こんな序盤でギャラドス!?
ギャラドスVSキャタピーなんて、見たことないよ!
そう心の中でツッコミを入れているうちに、ギャラドスの「たいあたり」でキャタピーは戦闘不能に。
そりゃ確定1発だわな。
種族値なめんな。
「じゃあお前負けたから、ロケット団な」
あーっ!こいつゴールデンボールブリッジで5連勝した後ロケット団に勧誘してくるやつだー!
うっそ、あいつギャラドス持ってたっけ!?
っていうか、キャタピーしか持ってない小僧をロケット団に入れても意味なくない?
「…む、お前誰だ?お前も痛い目に会いたいか!うりゃー!」
中年のロケット団員はこちらに気づき、なぜか勝負を仕掛けてきた。
そうだったわー、「無理やり入れてやる!うりゃー!」とか言ってたわー。
ええー…めんどくせえー…
「行け!ギャラドス!」
キャタピーを一撃で仕留めたギャラドスが、襲いかかってきた。
やばいって!こっちサイホーンとガーディだから、水タイプ不利じゃん!
「ああああ、頼む!サイポン!」
何となくサイポンを出してしまった。
理由は、うん、まあ、あれだよね、ガーさんを出したら、戦う相手間違えそうだったからね。
それにしても、あの臆病なサイポンで勝負になるのだろうか。
…ってあれ?
サイポンが、臨戦態勢?
「おっ、サイホーンか。だが、このギャラドスに勝てるかな!」
ロケット団員さんよ、なんだか最高のライバルと戦ってるような口ぶりだけど、初対面だからね?
あと、おれ、すでにロケット団だからね?
「ギャラドス!『たいあたり』だ!」
おおーっと、サイホーンに「たいあたり」だあ?
水技を使わないのか?
さてはこいつ、コイキングから進化させたばかりだな?
「ギャラアアア!」
ヅゥン…
こうかはいまひとつのようだ
サイポン硬っ!
ビクともしてない!
いや、ほんっとに、ビクともしてない!
これ、イケるんじゃね?
世界初、ギャラドスに勝ったサイホーンが誕生するのでは!
と思ったのも束の間、大事なことに気づく。
「…そういえば、サイポンって、何覚えてるんだっけ、技」
なんと アルロンが おきあがり サポートを してほしそうに こちらをみている! サポートを してあげますか?