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赤の伝説 第1話(ポケモン二次創作小説)

目覚めるとそこは、シオンタウンだった。

一体どういうことだ。
おれはただのフリーターだったはずなのに、いつのまにか異世界に迷い込んでいた。
不安を煽る町の音、薄紫に広がる景色、そして目の前にそびえ立つ不気味な塔。
間違いない、ここはポケットモンスター、ポケモンの世界だ。

子どものころ夢中になったゲームの世界に来られたのは感激だが、普通こういうのって始まりの町に来るもんじゃないの?
なぜシオンタウン?
おれをこの世界に飛ばしたやつ、絶対ウケ狙ってるだろ。
近くにいる女の子に話しかけると、「あなたの右肩に白い手が置かれてるなんて……あたしの見間違いよね」とか言い出すし。
怖えーよ。

状況を把握するのに時間はかからなかったが、困ったことになったと自覚したのも早かった。
お金は持っていないし、ポケモンなんて持っていない。
こういうときは、とにかくポケモンセンターへ行こう。
ポケモンの回復はもちろん、パソコンの使用などもすべて無料でできる、素晴らしい所だ。
公共施設は、これだからありがたい。
しばらくお世話になるだろう。
そんな軽い気持ちで、おれはポケモンセンターに向かった。



ポケモンセンターの前にやってきたおれは、入口に掲示された張り紙を見て、シオンタウンの街並み以上に青ざめた。

【当ポケモンセンターは、ロケット団のテロ活動対策のため、しばらくの間封鎖することになりました。
ポケモンセンターご利用の方は、タマムシシティへおいでください。
ご不便をおかけし、大変申し訳ございません。】

な ん だ っ て ?

ふざけんな。
大体、こんな設定なかっただろ。
どうすんだよ、ポケモンタワー攻略。
タワー5階の聖なる結界まで回復なしか。
つらっ。

いや待て、そもそもポケモンを持っていないんだから、攻略も何もないか。
ロケット団はレッドさんに任せるとして、おれは平穏に暮らすためにできることを探そう。
まあ、せっかくポケモンの世界にやってきたんだから、1匹くらい捕まえて育てたいなあとは思ってるけど。
モンスターボールもないし、そんなに簡単にいくわけ……

「そこの人、このポケモンもらってくれませんか?」

いくんかい。
こういうときは都合よく進むのな。
振り返ると、エリートトレーナー風の若い男性が立っていた。
いかにも「僕、さわやかです!」って感じの、塩顔ブルベ夏男子だ。
ていうか、お前誰だよ。

「申し遅れました。私はソバナ。そこにあるポケモンハウスという施設で、ポケモンの世話をしています」

ああ、そういえばあったな、そんな家。
フジ老人からポケモンの笛もらうとき以外、立ち寄ったことなかったわ。
この人、ポケモンハウスで働いてるんだ。
そういえば、玄関入ってすぐのところに、エリートトレーナーみたいな男の人いたわ。
こいつだったのか。

「急にすみません、あなたがポケモンセンターの前で肩を落としていたように見えたものですから。何か仕事を探しているのではないかと思って……」

ええええ、めちゃくちゃ優しいじゃん。
現実世界でもフリーターだったこのおれに、仕事紹介してくれてるよこの人。
あなたに出会えてよかったよ、ブルベさん、じゃなくてソバナさん。

この提案はぜひ乗ろう。
このまま呆然としていてもしょうがないし、念願のポケモントレーナーになれるというわけだ。
ポケモン歴27年の腕が鳴るってもんよ。

「お、お、おれで良ければ……」

いかん、人と話すのに慣れてなさ過ぎて、まともに会話できない。
ポケモンの前に自分のコミュ力を育てる必要があるな。

「ありがとうございます!少し手のかかる子ですが、あなたなら大丈夫です!」

何をもって大丈夫なのかは全然わからないが、実際ポケモンの育成には多少心得がある。
どんなポケモンだって、殿堂入りさせてみせますよ。

二つ返事で引き受けたおれは、ソバナさんからモンスターボールを受け取った。

「それでは、よろしくお願いしますね!じゃあ頑張れよ、サイホーン!」

待て待て待て待て、今何と?
今何と言った?
サイホーン?
え、サイホーン?
いきなりサイホーン?
普通ピカチュウとかさ、シオンタウンならカラカラとかさ、ちっちゃくてかわいい系なんじゃないの?
ゴリゴリの怪獣系じゃん。
サイホーンて。
いやサイホーンて。

モンスターボールを握る手は、見る見るうちに汗ばみ、ふるえていた。
まじかー。
最初のポケモン、サイホーンかー。
まあでも、こういうのもいいんじゃない?
あえてサイホーン。
いいじゃんサイホーン。
ごついから頼もしいじゃん。
ポジティブに行こ、ポジティブに。

とりあえず、顔合わせはしとくか。
これから長旅になるしな。
あれ、何の旅に出るんだっけ?
まいっか、てきとーにレベル上げて、サイドンに進化させて、ポケモンリーグ制覇すればいいんじゃね?

「出てこい、サイホーン」

モンスターボールが開き、ポケモンが現れた。
……と思ったら、一目散に逃げだした。

「ちょっと待てーい!!!」



脱走したサイホーンを追いかけて、8番道路までやってきた。
サイホーンは、いあいぎりで切れそうな木の陰に隠れている。
どうやら、めちゃくちゃ臆病な性格らしい。
待ってくれ待ってくれ。
第1世代は性格の設定なかったじゃん。
あれか、ファイアレッド・リーフグリーンの世界なのか、ここは?
あと、サイホーンってね、攻撃高くて素早さ低いのよ。
攻撃下がって素早さ下がる性格の「おくびょう」は、不遇が過ぎるだろ。
ソバナの野郎、あいつ「”少し”手のかかる子」つったか?
めちゃくちゃ問題児じゃねーか!!!

でも、このサイホーンも好きで臆病なわけじゃないんだろうし、とりあえずなついてもらうことから始めるか。
まずはニックネームをつけよう。
名前で呼ぶことで心の距離が縮まるだろ、知らんけど。

「サイホーン……さいほん……さいぽん……サイポン!」

天才か。
サイホーンの面影を残しつつ、呼びやすいキャッチーな名前だ。
我ながら最高のニックネームを考案したと自負している。

「今からお前は『サイポン』だ!よろしくな、サイポン!」

もういない。
「よろしくな、サイp」くらいのタイミングで、サイポンはさらに奥の木陰まで走り去って行った。

こうして、おれとサイポンの物語が始まった。
ソバナ、絶対に許さない。

なんと アルロンが おきあがり サポートを してほしそうに こちらをみている! サポートを してあげますか?