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赤の伝説 第2話(ポケモン二次創作小説)

夢と冒険と!ポケットモンスターの世界へ!レッツゴー!

と事前に言ってくれれば、心の準備は多少できていたはずなのだが。

気がつけばシオンタウンに召喚され、臆病なサイホーンを押し付けられて、完全に途方に暮れている。
突然始まった30代独身フリーターのポケモンストーリーは、波乱の幕開けとなった。

この臆病なサイホーン、命名「サイポン」をモンスターボールに戻して、一旦落ち着こう。
うんにゃあ、落ち着こう、落ち着きが大切だ。
サイポンのこの調子だと、ろくにポケモンバトルもできやしない。
それなら、下手に動き回らず、ポケモンセンターでじっとしていた方が良いのではなかろうか。
うん、そうしよう、当初の予定とは全然違うけど、安心安全に過ごすにはそれが一番だ。
もうすぐ地下通路があるはずだから、そこを通ってタマムシシティに行けるはず。
とりあえず、タマムシシティのポケモンセンターに向かおう。



シオンタウンしか知らないおれは、タマムシシティのにぎやかさ、華々しさに感動した。
とにかく建物がデカい。
タマムシデパートにタマムシマンション、食堂に旅館、忘れちゃいけないゲームコーナー。
他の町にもあるポケモンセンターやジムも、無駄に大きく建てられているような気がした。

うおお、大都会の空気にあてられて、何だかテンションが上がってきたぞ。
ポケモンセンターもいいけれど、タマムシシティに来たからには観光しないとね!
まずはゲームコーナーだ!

そう言って意気揚々とゲームコーナーに入ってみたはいいものの、肝心なことを忘れていた。
コインケース持ってないじゃん。
あー、あれ確かどこかで拾った気がするんだけど、どこだったっけ?
外に落ちてたんだっけ?
踵を返し、来た道を練り歩き、足元を隈なく探したが、コインケースらしきものは見当たらない。
その姿は、後で考えてみれば、とても不審だったはずだが、そんなことを考える余裕もなく、とにかくコインケースを探して彷徨っていた。

コインケース乞食がタマムシの町中をうろついていると、一人の男にぶつかった。
見上げると、黒いハットに黒いコート、鋭い眼光の強面イケオジが、威風堂々たる姿で立っていた。
やばい。
これ絶対関わってはいけない人に関わってしまった。
すぐに謝ろうとしたが、声が出ない。
体は震えている。
涙目になってきた。
おまけにちょっとおしっこ漏れそう。
ただひたすらに恐怖と絶望に打ちひしがれていると、イケオジの方が先に口を開いた。

「お前、さっきからいったい何をしているんだ?」

重低音のイケボは、呆れているように聞こえた。
幸い、ぶつかったことに怒りを覚えているわけではなさそうだ。
少しだけ、安心した。

「あっ…す、すみませんでした…け、けがとかは…」
「私は平気だ。お前は?」
「あ…は、はい…大丈夫です…」

イケオジの伸ばした右手を借りて、腰が抜けたおれはなんとか立ち上がった。

「あ、あ、ありがとうございます…」
「気にするな」

うへえ、別に怒られているわけじゃないのに、何だこの威圧感は。
すぐにでもその場を立ち去りたかったが、オニスズメに睨まれたヒマナッツのように、おれはビビッて動けなかった。
帰りたい。
浮かれポンチでゲームコーナーに突入した、数分前の自分にメガトンパンチを食らわせてやりたい。
立ちすくんでグルグル考え込んでしまったあわれなヒマナッツ、もといおれの姿を見て、イケオジは再び口を開いた。

「お前、行く当てがないのか?ならついてくるといい」



イケオジに言われるがまま、その威厳に満ちた背中についていくと、ゲームコーナーに戻ってきた。
何かめっちゃ恥ずかしいんですけど。
ちょっと前までウキウキだったやつが、ガクガクブルブルしながら舞い戻ってきたんだ、そりゃあ滑稽この上ない。
店内の客という客が、おれをじろじろと白い目で見ている気がする。
うわー見ないでー、そんな目でおれを見ないでー。
一人で勝手に被害妄想にふけていると、いつの間にか店の片隅までやってきた。

「こいつは私の知人だ。通せ」
「はっ」

部下らしき男が案内するままついていくと、地下に降りる階段があった。
二人は何のためらいもなく降りていったが、こっちはビビり散らしているので、かなり挙動不審な動きになっていただろう。
全身に無駄な力が入りガチガチの状態だったが、なんとか階段を降りることができた。
階段を降りて少しあるくと、事務所のような部屋の前に到着した。
部下はイケオジに一礼し、元の配置に戻っていった。
あれ、ここ「STAFF ONLY」って書いてあるけど、大丈夫?
そんな心配をよそに、イケオジは部屋に入っていった。

「入れ」

「は」と「い」と「れ」の3文字をこんなに怖そうに言う人、あなた以外にいないっすよ。
そんなことを考えながら、かと言って口に出せるはずもなく、ただ黙って従うしかなかった。

部屋は広く、整然としていた。
革張りのソファーやゴツいテーブル、奥の方には立派なデスクとチェアがあり、大企業の社長室を彷彿させた。
まあ、社長室入ったことないんだけど。
イケオジがチェアに座り込み、おれに座るよう言った。
まだ緊張が解けないまま、おれはふっかふかのソファーに吸い込まれるように座った。

「フッ、そう固くなるな」

イケオジが笑った。
強面の人が笑うと、こんなにときめくものなのか。
これがいわゆるギャップ萌えってやつなのか。

「そう言えば、名前を聞いていなかったな」

イケオジに名前を尋ねられた。
ギャップ萌えとは言ったものの、元来のコミュ障も相まって、まだまともに会話できる状態まで回復していなかった。
うろたえて周囲を見回す。
入ったときには気がつかなかったが、壁にタペストリーが貼ってあった。
黒地の布に、赤で大きく「R」と書いてある。
…アール?

「おっと失礼、私の方も名乗っていなかったな。私は…」

待ってくださいイケオジ。
言ってはいけない。
あなたは、その名を、言ってはいけない。
どうか、どうかお願い、名乗らないで。
心の中で叫んだが、その願いは叶わず、彼は自分の名前を言ってしまった。

「私は、サカキ。今からお前は、私の部下だ」

おれは、ロケット団になってしまった。

なんと アルロンが おきあがり サポートを してほしそうに こちらをみている! サポートを してあげますか?