ハッピーエンドがお好き【短編小説】

 ハッピーエンドの話を好んで読んでいた。

 ハッピーエンドの話しか読んだことなどなかった。ハッピーエンド以外の話を読みたいと思う人間はどこか歪んでいるのではないかと思っていた。

 バッドエンドが好きと話す女の子がいた。
 その子の印象としては明るいと声が大きいというのが最初に思い浮かぶようなそんな子だった。
 バッドエンドのほうがいいとこれまた大きな声で話しているので否応にもその話は僕の耳に入ってきた。何というか意外だと思った。こんな子こそハッピーエンドが好きといいそうだと思っていたが印象とは違うものだと思った。
 ハッピーエンドを至上とする僕にとって彼女は僕と対抗する敵なわけだ。敵情視察として何でバッドエンドが好きなのか彼女に問いたださなければならない。
 そんな馬鹿みたいなことを考えながら単純な知的好奇心で質問した。
 「何でバッドエンドのほうがいいの?」
言ってしまえば突然割り込む形で会話に入ったのでその子とその友達からの軽いいじりがありながらも単純に気になってと自分の気持ちを吐露するとその友達も気になっていたのか
 「でも実際何でバッドエンドのほうがいいの?」
 その子はんーととなんとも可愛らしい間投詞をつけ加えながら、
 なんとなくと言った。
 なんとなくバッドエンドのほうを好きになるのだろうか、世の中にはハッピーエンドのほうが溢れていてそう思うから僕はハッピーエンドのほうがなんとなく好きになっていったのだ。
 その子の友達がなんとなくってと言った。
 その子も理由がないとおかしいとは思ったのか続けていった。
「なんとなくこの世にはバッドエンドのほうが多いと思うからなんとなくバッドエンドのほうが好きなんだ。」
 なんとなくね
 と彼女がつけ足したそのときの顔が僕にはなんとなく綺麗に思えた。

 その後
 なんとなく僕は彼女のことが気になって、なんとなく告白して、なんとなく付き合って、

 なんとなくこんなことを聞いてみる

 ハッピーエンドとバッドエンドどっちになると思いますか、なんとなく答えてください。

 彼女は今でもバッドエンドが好き

 僕は今ーー





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