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備忘録1 プラネタリウムの原稿 ver.春 作‐田邊


この記事は未来の立天部員に向けたものですから一般の人向けではございませんが、モノ好きな人は見てもいいかも?


はじめに

田邊さんの作成した原稿は知識ベースの構成になっており、ギリシア神話が軸として通っています。
プラネタリウムは聴講者のレベルに合わせて原稿を選ぶのが大事ですが。この原稿はギリシア神話に興味をもっている、これから勉強していくと思われる方に向けるのが良いでしょう。
また、強調するところ等は各自で考えたほうがいいと思います。
決して平坦な口ぶりではいけないですからね。覚えて欲しいところは強調して、面白いところは楽しそうに、アドリブも結構ですから。
以下 文責‐田邊 修正‐深井

春の星座プラネタリウム原稿

【前口上】

皆さん、こんばんは。本日、お話をさせていただく天文研究会の〇〇と申します。

プラネタリウム公演が始まりますと、終演までは退出をすることが出来ません。また、スマートフォンなどは光や音が出ないように、マナーモードにしていただくようお願いいたします。ウェアラブル端末等は御本人様の意志とは関係なく反応してしまう場合がありますので身につけている方はポケットなどにしまっていただければ幸いです。

それでは、星の世界へ向かいましょうか。

電気を消しますので、目を閉じていただくようお願いいたします。

3…2…1…

はい、それでは目を開けてください。

[少し間をとって星を見てもらう]

プラネタリウムではこのように、市街地では見ることが出来ないような星々までつぶさに見ることが出来ます。

【春の大曲線・大三角】

それでは、今日お話をさせていただく春の星々をご紹介いたします。

天体観測をする時は、分かりやすい形の星の並びを見つけて、そこからいろんな星座を見つけていくやり方が基本です。
春の星座で一番見つけやすい星の並びは“北斗七星”です。皆さん、どこにあるか分かりますでしょうか?正解は...ここです。北の空にある“ひしゃく”の形をした七つの星です。
これはおおぐま座のしっぽ部分にあたります。そして、このひしゃくの外側の二つの星を結んで、そのまま5倍の長さを延ばすと“北極星”を見つけることが出来ます。
北斗七星と北極星があるということは、こちらは北の方角ということになりますね。北極星は別名“ポラリス”ともいい、こぐま座のしっぽの先に位置します。
北を見つけるというのは天体観測で大切なことですので春はまずこの作業から行うのがベストなんですね。

 では、北斗七星のひしゃくの曲がり具合に沿って、そのまま曲線を延ばしていきましょう。すると、オレンジ色の一等星“アークトゥルス”、続いて青白い色の一等星“スピカ”を見つけることが出来ます。アークトゥルスはうしかい座、スピカはおとめ座の目印で、この二つの星は日本では“夫婦(めおと)星”とも言われています。そして、この曲線の終着地点にあるこの台形が“からす座”です。北斗七星の先から、この台形(からす座)までの巨大な曲線を“春の大曲線”といいます。

 あともう一つ“春の大三角”というものも紹介しておきます。先ほど出てきた、アークトゥルスとスピカを結んで、正三角形を作ると“しし座”のしっぽの先のデネボラを見つけることが出来ます。この三つの星を結んで“春の大三角”といいます。


【おおぐま座】

 それでは、まずは北斗七星をしっぽに持つおおぐま座について、お話をしていこうと思います。その前に北斗七星に関する小ネタを一つ。北斗七星のひしゃくの持ち手部分の先から二つ目の星を見てください。二つの星が隣り合っているのが分かるでしょうか。大きい方が“ミザール”、小さい方を“アルコル”といいます。古代アラビアでは、このアルコルが見えるかどうかで視力検査をしたと言われています。大きくて見えやすい方がミザール、小さくて見えにくい方がアルコル。なんだか、ややこしいですね。

 では、星座神話のお話に移ります。この熊は、元は森の精霊の“カリスト”という大変美しい女性だったんですね。カリストは、月と狩りの女神アルテミスという神様に仕える侍女でした。分かりやすく言うと主人と子分みたいな感じですね。主人であるアルテミスは、カリストにある言いつけをしていました。それは「男と関係を持つな」というものでした。恋愛禁止のアイドルみたいですね。そんなカリストに恋をした男がいました。ギリシャ神話の最高神ゼウスです。ゼウスは何とかしてカリストに近づきたいのですが、普通に近づいてはカリストに主人との言いつけを理由に断られてしまいます。そこで、ゼウスはカリストの主人であるアルテミスに変身して、カリストが油断しているところを、そのまま我が物としてしまいます。カリストは、ゼウスとの子であるアルカスを授かり、主人からの言いつけを破ってしまいます。激怒したアルテミスにより、カリストは侍女をクビになってしまいます。しかし、この時さらに起こっていた人物がいました。ゼウスの奥さんのヘラです。実はカリストはゼウスの浮気相手だったんですね。ギリシャ神話では、ゼウスが浮気をする度にヒステリーになってしまいます。ヘラは怒りに任せ、カリストを熊の姿に変えてしまいます。息子のアルカスは、他の精霊に拾われ、すくすくと成長していきました。

 月日は流れ、息子アルカスは立派な狩人に成長していました。ある日、アルカスが森を歩いていると大きな熊に遭遇します。実はこの熊は母のカリストだったんですね。カリストは息子に再会できた嬉しさから抱き付こうとします。ただこれ、アルカス視点だと大きな熊が襲い掛かってきてるだけなんですよね。アルカスは驚いて、弓を構えます。このままでは、アルカスは母親を殺してしまいます。それを天空から見ていたゼウスは親子を不憫に思い、アルカスを小熊に変え、二匹の熊を星座にしてやりました。これが、おおぐま座とこぐま座です。星座になる経緯は様々ですが、今回は“仲裁”という形で星座となりました。


【うしかい座】

 では、春の大曲線に沿って、お話を進めていきます。このオレンジ色の一等星アークトゥルスは“うしかい座”の目印です。ネクタイのような形をした星座です。“うしかい”という名前ですが、狩人の姿をした星座です。この狩人が具体的に誰を指しているのかは分かっていません。ただ、アークトゥルスには“熊の番人”という意味があり、春の星空でおおぐま座を追いかけている姿からそう呼ばれるようになったと言われています。また、一説にはこぐま座となったアルカスの狩人の時の姿を模したものとも言われています。


【おとめ座】

 では、続いてはおとめ座についてです。おとめ座の目印は青白く光るスピカです。日本では、その美しさから”真珠星”とも言われています。おとめ座の乙女が誰を指しているのかには、複数の説がありますが、ここでは豊穣の女神“デメテル”のお話を紹介いたします。デメテルは豊穣の女神であり、農作物の恵みをもたらすお仕事をしていました。そんなデメテルには愛娘“ペルセポネー”がいました。デメテルはペルセポネーを溺愛し、娘をモチベーションにお仕事を頑張っていました。ある日、ペルセポネーがお友達とお花を摘みに、お花畑に行っていました。お花を摘んでいると、突如地面が割れ、ペルセポネーは冥界へと連れ去られていました。犯人は冥界の神“ハデス”です。ハデスはペルセポネーに恋をし、妻にしたいと思い、ペルセポネーを連れ去ってしまったのです。ちなみに、ハデスは先ほどおおぐま座のところで出てきたゼウスの兄です。なかなか強引な兄弟ですよね。愛娘ペルセポネーが連れ去られたことを知った母のデメテルはひどく悲しみ、農作物の恵みをもたらすお仕事をお休みしてしまいます。すると、世界中の草木や農作物は枯れ、世界は困り果ててしまいます。最高神ゼウスは、すぐに兄のハデスへペルセポネーを地上に返すように要求します。しかし、ここで一つ問題がありました。ペルセポネーは冥界の食べ物であるザクロを食べてしまっていたのです。どういうことかというと、冥界の食べ物を食べた者は、一生冥界に居続けなければならなかったのです。幸いなことにペルセポネーは12粒ある内、4粒だけ食べていました。そこで、一年の1/3を冥界で、2/3を地上で過ごすことになりました。ペルセポネーが冥界で過ごす一年の内1/3は、母デメテルはやる気が出ず、農作物の恵みをもたらす仕事をお休みしてしまいます。この期間が冬であり、これにより季節が始まったと言われています。ペルセポネーが地上に帰ってくると、春が始まることから、ペルセポネーは春の女神なんていう風にも言われています。

 余談ですが、スピカには“小麦の穂”という意味があり、これは豊穣の女神デメテルにちなむと言われています。小麦の穂先は尖っていることから、スパイクシューズなんかのスパイク、つまりトゲの語源になったと言われています。


【ヘラクレスについて】

 では、続いてギリシャの英雄ヘラクレスと死闘を繰り広げた怪物たちの星座を紹介いたします。と、その前にヘラクレスが、なぜ怪物たちと闘うことになったのかについて、簡単にお話をさせていただきます。ここからは、星空のお話というよりギリシャ神話のお話ですので、大学の講義もどきと思って聞いていただけると幸いです(笑)。

 なぜ、ヘラクレスが怪物たちと闘うことになったのかを説明するためには、ヘラクレスの生まれが関係しております。ヘラクレスの父親は最高神ゼウス、母親はゼウスの浮気相手です。この生まれから、ヘラクレスはゼウスの妻であるヘラから憎しみを買います。ヘラはヘラクレスを殺そうと、大蛇を差し向けたりもするのですが、ヘラクレスは赤ん坊ながら、その大蛇を握り殺します。そして、ヘラの思いとは裏腹に、ヘラクレスはすくすくと成長していきました。月日は流れ、ヘラクレスは愛する妻子と幸せに暮らしていました。ヘラは、それが面白くないんですね。ヘラに呪いをかけられ狂乱状態になったヘラクレスは愛する妻子を自分の手によって亡き者としてしまいます。

 絶望したヘラクレスは神殿に行きます。古代ギリシアでは、何か悩み事があると神殿に行き、神様からの予言(神託)を聞きます。そして、その予言通りに行動し、悩み事を解決しようとする慣習があったんですね。ヘラクレスも例に漏れず神殿へ行きます。そこで聞いた予言は『いとこの国王の元へ行って10の試練を果たせ』というものでした。その10の試練の内の2つが、今からお話をさせていただく“しし座”と“うみへび座”の二体の怪物の退治だったんですね。


【しし座】

 では、お話を星空に戻します。まずは、しし座から。しし座の見つけ方は、北斗七星の先から延びる大曲線上のアークトゥルスとスピカを結んで、正三角形を作ると...しっぽの先の“デネボラ”を見つけることが出来ます。デネボラには、“獅子の尾”という意味があります。このデネボラの近くに“はてなマーク”を裏返した形の“逆はてな”の形があります。これがしし座の目印で、頭から胸を表します。胸の位置に一等星レグルス、額の位置に二等星“アルギエバ”があります。

 このしし座は、元は凶暴な人食いライオンでした。このライオンを退治することがヘラクレスの最初の試練でした。しかし、このライオンの皮膚はとても硬く、剣もこん棒も効きません。ライオンの首を三日三晩締め続けることにより、ヘラクレスはライオンを退治することが出来ました。


【うみへび座】

 お次はうみへび座。うみへび座の目印は心臓の位置に赤く輝く二等星“アルファルド”です。アルファルドの見つけ方はしし座の額のアルギエバと心臓の位置のレグルスを結んで、そのまま、その直線を延ばしていくと見つけることが出来ます。おとめ座・しし座のそばを通る、とても長い星座です。

 ライオン退治の次に、ヘラクレスに与えられた試練は“うみへび座”の元となったヒュドラという怪物の退治でした。見た目は日本神話に登場する“ヤマタノオロチ”と似ています。九つの頭を持っている巨大な蛇のような姿です。首を切り落とすと二股に再生し、ヒュドラが吐く毒に少しでも身をかすめると即死というチート級の怪物です。切り落とした首を火で炙ると再生を防ぐことが出来ることが戦闘中に判明したので、ヘラクレスが首を切り落とす→甥がたいまつで首を炙るという協力プレイにより、どんどん首を再起不能にしていきます。ただ、9本目の首はいくら切りつけても、傷一つつかない不死身の首でした。そこで、ヘラクレスは大岩をヒュドラに投げつけ、封印する形で勝利しました。

ヘラクレスのことが大嫌いなヘラは、しし座の人喰いライオン・うみへび座のヒュドラを、「よくヘラクレスと闘ってくれた!」ということで褒めたたえ、星座にしてやりました。今回は、“褒美”として星座になったようですね。


【かに座】

 おまけに一つ、かに座について紹介いたします。かに座の見つけ方は、しし座のレグルスとふたご座のポルックスの間に位置します。このカニ、実はうみへび座のヒュドラの友達なんですね。ヒュドラとこのカニは沼でよく遊ぶ友人関係でした。そこへ、ヘラクレスが現れ、ヒュドラと戦闘を開始します。カニは最初沼に隠れていました。ただ、『どうやら、ヒュドラが押されている!?』ということで、友の助太刀をしようということで、ヘラクレスの足を自慢のハサミではさみます。しかし、カニはヘラクレスにいとも簡単に踏みつぶします。なんと不憫な...ヘラは「まあ、カニも頑張ってくれたもんね!」ということで、ついでにカニも星座にしてやりました。


【からす座】

 続いて、からす座です。からす座は、春の大曲線の終点に位置する台形の星座です。

 現在のカラスは、黒色の羽を持ちカーカー鳴くものが一般的に知られていると思います。ただ、今回のお話に出てくるカラスは、銀色の羽を持ち、人の言葉を話せたんですね。このカラスは、アポロンという神様の使いでした。アポロンは太陽神で、NASAの月面計画の宇宙船の名前の元ネタにもなっています。そんなアポロンには、大好きな妻がいました。ただ、アポロンはとても忙しく、毎日妻と一緒にいることが出来ません。そこで、このカラスに妻の様子を報告する役割を与えていました。しかし、ある日カラスは道草をして、帰りが遅くなりました。主人であるアポロンに「なんで遅くなったん?」と聞かれ、とっさに「アポロンさんの奥さんが浮気してて...報告するか悩んでいました...」(大嘘)と最悪な言い訳をしてしまいます。動揺したアポロンはすぐに、妻の家へ向かいました。すると、妻の家の戸口に人影が見えます。「絶対浮気相手だ!!」と思ったアポロンは、人影めがけて矢を放ち、見事命中します。しかし、近づいてみると、その人影はアポロンの帰りを待つ、愛する妻でした。「来てくれてありがとう...」と言い残し、妻は息絶えてしまいます。

 カラスの嘘を知ったアポロンは激怒し、カラスを銀色から黒色の羽にして、人の言葉を話せなくした後に、天に貼り付けました。これが“からす座”です。今回は“罰”として星座になったパターンですね。今回のプラネタリウムでは星座になる経緯として、“仲裁”、“褒美”、“罰”の三つのパターンを紹介いたしました。星座になるパターンが複数あるのは、大変興味深いですね。

また、ギリシャ神話ではこのように“なぜ季節はあるのか”や“なぜカラスは黒色の羽で、カーカー鳴くのか”といった現在の世界の成り立ちを説明してくれるお話が多くあります。結構面白いので、興味があれば、また調べてみてくださいね。


【まとめ】

 では、最後に今日出てきた星々をなぞってみましょう!

 まずは、北斗七星。ひしゃくの外側の二つの星を結んで、そのまま5倍ほど延ばしていくと“北極星”があります。これらは、おおぐま座とこぐま座のしっぽの部分でしたね。

続いて、北斗七星のひしゃくの柄の先から、その曲がり具合に沿って延ばしていくと、うしかい座のアークトゥルス、おとめ座のスピカ、からす座と巨大な曲線を描くことが出来ます。これが“春の大曲線”でしたね。

そして、アークトゥルスとスピカを結んで正三角形を作ると、しし座のしっぽの先のデネボラを見つけることが出来ます。これが“春の大三角”です!

このように、春の星空は見つけやすい形が多くあり、かつ星座のサイズも大きくわかりやすいため、天体観測初心者にはうってつけの季節です!

今回の話を聞いて、皆さまが夜道を歩いている時に、星空を見上げるという選択肢が浮かぶようなことがあれば幸いです。ご清聴ありがとうございました!

それでは星の世界から離れて日常に戻りましょうか。

皆様目を閉じて下さい。

3…2…1…

おわりに

アーカイブを残すことのはある意味、毒にも薬にもなります。
原稿そのままに読んでしまってはテンプレ化してしまって面白くありませんし、これから発展してもっと良い原稿を作ってくれるかもしれません。
果たしてどっちに転ぶのかなあ。
とにかく、未来の天文部員さん頑張ってくださいね。


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